【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(53)復讐という名の反乱
「な、に?」
後ろ姿の陽の表情を窺うことは出来ないが、冷静な陽が困惑しているように感じた。
私も唖然としていた。
「君はなぜその力を備えている。お父さんから転移で授かったからだ。
危険を感じていた。だから死ぬ前に君に転移した」
「それは、あなた方が父を殺そうと企んだからだ」
「私たちに奪命する権限はない。奪力するだけだ。
確かにお父さんの奪力は計った。しかしその時はすでに君に転移し、失力していた。
なぜそうしたのかは分からないが、お父さんは組織のやり方に疑念を抱いていたとも聞いている。
どちらにしても力がなくなった内部事情を知っている者として、不要になった。
邪魔者は消す、君の言うように組織のやり方だ。
だから処分された。殉職というカタチで。
これが私たちの結論だ」
無言の陽がいた。ジッと建毘師に視線を送り続けていた。
その息をのむ沈黙は、クラクションで失った。パーキングに入ってきた他客の車からのものだ。
それを無視するが如くに、言い放つ。
「あなた方の言葉は信じない! 僕の邪魔をするなら、今度は遠慮なく殺す」
「邪魔するつもりはない。だが力を悪事に使うなら看過するわけにはいかない。
忠告しておく。君は危険人物リストのトップだ。行動次第で遠慮なく奪力にかかる。そのことを肝に命じておくことだな」
返すコトバを失ったのか、体を反転、車に戻り出した。
私は端上レイに「またね」と挨拶するように右手を軽く上げ指を踊らせ、陽の後を追う。車に乗り込み、そのまま走り出した。
ルームミラーに映る後部座席に座る陽の表情。眼を閉じ、何かを思慮しているように見える。
(陽のお父さん、組織《ネス》に、殺された!? )
建毘師の発言を耳にしたことで、組織《ネス》への不安と陽に対する心配が、強くなっていった。
そしてその不安は、最悪の形で現実なものとなる。
陽は、父の復讐を始めた。組織《ネス》に対し。独りで……つまり、反乱。
2015年7月31日の夜――
――『次のニュースです。警視庁刑事部に属する捜査員2名が殺害された事件をお伝えします。殺害されたのは、捜査第一課所属の○○さん48才、捜査第二課所属の△△さん44歳です。○○さんは昨日午前7時頃、川崎市の物流倉庫内にて、そこで働く従業員が発見。△△さんは昨日午前11時頃、新宿のホテル一室で従業員により発見されました。
警察のこれまでの発表によりますと、死因は2名とも自殺に見せかけた銃による他殺であることが判明。検視の結果、犯行時刻は昨日未明であるとしています。さらに防犯カメラの映像および関係者の証言により浮上した、16歳の少年が何かしら関与している、とし行方を追っているもようです。
さらに、先日お伝えしました元警察署長■■さん当時63歳の銃による自殺につきましても、今回の捜査員殺害事件に類似した点が多く、自殺ではなく同一犯による殺害の可能性が高まったとして、再捜査しているとのことです。
この3名の警察関係者殺害について、警視庁刑事部長は報道陣に対し『警察組織に対する挑戦である。威信をかけて早々に犯人を逮捕し、法の裁きを受けさせたい』と強い意志を見せております。
また16歳の少年については慎重に捜査すると共に、少年の背後に首謀者がいるとの見解を強めており、警視庁職員一丸となって……』――
警視庁やマスメディアを利用し、NS《ネス》は少年直毘師の処理に動き出したことを悟った。
心配になった私は、すぐ連絡した。
「陽なの、3人を殺したの? もしかして、組織《ネス》に嵌められてない? 」
問い詰めるが、応えがない。
確信したため「一緒に闘う」と伝えた。ただ、私に攻撃する能力などしれていた。それが分かっていても共に闘うことを、望んだ。
「ありがとう。でも大丈夫。姉さんに迷惑をかけたくないし……」
通話は途絶えた。
居たたまれなくなった私は、少年の復讐を止めるために、月光でうっすらと照らす瀬戸内海に浮かぶ島を、出た。彼がいるだろう東京へ、向かうために。
制限速度を気にせずに高速道路を、突っ走る。悔しさと悲哀を抱き、涙しながら愛車のアクセルを、全快にした。