【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(39)ターゲットは県議会議員
翌日、姫路市民センターで行なわれる回道議員《ターゲット》の講演を傍聴。
終了すると、後援者や支持者が握手を求め、彼の周りに群がった。私は様子を見ながら、彼の乗るだろうハイヤーを確認、センター出口手前で待機した。
金魚の糞のように支持者を連れる彼が、徐々に出口へとやって来る。タイミングを見計らい、半歩前に出て、握手を求めた。
「これからも頑張ってください」
作り笑顔の私の手を強く握り返す彼の手は、すでに汗脂でベトベト。
「ありがとうございます。応援よろしくお願いします」
政治家の満面の笑顔に、不愉快さをも感じた。
(偽善やろう)
その男がハイヤーで立ち去る前に、私はトイレへ。手を洗った。
依頼人三人の幽禍を放出したことで軽身となった反面、心は鈍い。
(苦しんで死ね)
想いは、注入した三人分の闇への指令に反映されている。
数時間後には頭痛と吐き気、夜には幻覚と幻聴が襲い、三段階でその度合いをアップ。二日間苦しみ続け、そして心筋細胞の全停止を指示していた。
駐車していたブラックのRXに乗り込み、島へ帰宅しようとトランスミッションを稼動させていた。が、ふと脳内に過ったものによって反射的に足を力ませ。急ブレーキで、助手席のバッグが落ちた。
(命毘師《みょうびし》……)
処理したターゲットの蘇生を企むものの存在。
政治家ならコネクションがあってもおかしくない。昔から支援している人も数多くいるはずだ。
意識は再びターゲットにセットされた。急発進させた車を、議員事務所へ向かわせた。
しかし、事務所に戻っている気配がない。一時間ほど待ったが現れなかった。仕方なく電話番号を調べ、確認した。挨拶回りに夜は会食、そのまま帰宅するとのこと。
次に、毎度《いつも》世話になっているネット2CHで検索開始。
ネット炎上するような騒動の際、本人の写真や個人情報が第三者によって書き込まれることが多い。案の定、自宅らしき住所が記載されていた。
冷静に考えた上で、一旦淡路の自宅に戻った。男の尽命予定日、書き込みの住所を頼りに回道議員《ターゲット》宅を張り込むことにした。
二日後の雨の夕方、昔ながらの住宅街にある自宅を発見。周辺探索し、ある程度の地理を頭に叩き込んだ。近くの公園駐車場に停めた車内で待機することに。
今頃は病院で発狂している、と予想した私は一時間毎に黒傘を持ち徒歩で回道宅の様子を覗う。調達した三日分程度の食糧と数冊の小説本を準備している私は、のんびりと待った。
近隣住民に怪しまれ通報される可能性もあり、逃げ道として偽の名刺を準備してある。フリーライター、○○調査員、○○研究員など臨機応変に出せるように。当然、名前や住所、組織名等はデタラメだ。ただ一度も使ったことがない。今日も雨だからか、歩いている人は殆どいない、静閑な地域だ。
深夜11時過ぎ、先ほどまで真っ暗だった回道宅に電灯と複数人の出入りする人影。亡くなったことを察した。
公園から回道宅が見える場所まで、車を無灯移動させた。その約一時間後、三台の車が着いた。
家族らしき男女と複数の男に見守られた、四人で運ばれる白っぽく細長いものを目視出来た。
(さて、と、来るかな、命毘師《みょうびし》)