【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(26)怨度コントロール
平成24年10月5日――
27歳の私が、13歳の直毘師と初コンビの日。
依頼主は、愛知県内で車に跳ねられ死亡した女子大学生と付き合っていた、大学先輩の彼氏。
当時運転していた加害者は、脱法ハーブ吸引後、意識朦朧しながらの運転だったらしい。
危険運転致死により懲役十一年の判決が出されたのだが、彼女の家族は納得できないでいた。ただ、弁護士の見解は控訴しても同じであろう、ということで控訴を諦めたのだが、一緒に闘ってきた彼氏は、家族の無念も含め、彼自身の決意で申し込んできた。
復讐する方法を四ヶ月ほど探して、やっとのことで私たちに辿り着いた、と教えてくれた。
依頼人の話しを聞いた後、私は闇喰《やみく》の説明をし、同意を得た。
が、一緒にいた制服姿の少年が、口を出す。
「もし自由にその人へ復讐することができるとしたら、あなたならどのようにしたいですか? 」
(なぜそんな質問をするのか)、不思議でならなかった。
「同じように、車で引き殺したいです」
冷たい視線のまま、彼の気持ちを斬った。
「……だめですね、それでは」
(えっ? だめ? )
依頼人にダメ出しするとは驚かざるを得なかった。
儀式を終え、二人で次の目的地へ移動中、教えてくれた。依頼人の怨度《おんど》を確認した、のだと。
想定済みだった、と言う少年。
依頼人の若い彼は家族でもなく、ある意味第三者。被害者家族より怨度《おんど》が低い、と。ただ私たちに辿り着くまでの執念はある、依頼人の闇が表面化してないだけだ、と。
あの方法を取ったのは怨度を集約させるため、と素直に教えてくれた。怨度コントロールというべき技を、13歳の少年が身に付けていることに、恐怖さえ感じた。
少年直毘師は、依頼人に目を閉じてもらい、リアルに想像するよう伝え、静かに語り出した。
先ずは彼女との楽しい思い出、彼女の笑顔、良さを言葉にさせ脳内で再現させた。
その後、付き合ってる彼女ではなく、彼女とはもっと深い関係であることをイメージさせた。
妻が殺された夫の立場なら……父親として娘が殺されたとしたら……彼女の子供として母親が殺されたとしたら……と。
具体的に語る少年は、依頼人の表情を見ていた。
想像しているだろう依頼人の表情が少しずつ変わっていくのを、私でもわかるほどだった。
その上で語り続ける少年直毘師の話術に嵌ったのか、拳、肩にも震えと力みが増していく青年。
『脱法ハーブで人間の理性を失った野獣化した奴なんだ、あいつは。
泣くじゃくる○○さんは顔を殴られ腹を蹴られ、服を引き裂かれ、何度も何度も犯されたんだよ。寝ることも食べることも許されずに、何日も何日も暗く狭いトイレに監禁されてたんだよ。
朦朧としているけど、まだ息のあった○○さんはビニールシートに包められ、ロープでぐるぐる。そのまま樹海に生き埋めにされたんだね。
○○さんは息絶えるまで、ご両親とあなたの名をずーっとずーっと呼んでた。あなたの○○さんを捜す声が聞こえたみたい。あなたにもう一度会いたかったのに、それは叶わなかった。今もね、○○さんは泣いてるよ。悔しいって。あなたとご両親にもう一度会わせてって頼んだのに、奴は笑いながら、○○さんを土の中に埋めたんだ。
……あいつの心に、後悔や反省なんかない。人間であることを捨てたあいつはね、脱法ハーブ吸いながら、バカ笑いしながら、次の女《えじき》を探しているよ。
……あいつを放っておくの? ○○さんを助けられなかったように、次の被害者も助けられないよ。そんなことはあなたの正義が許さないはず。今そいつを処分する権利を与えられた。銃でも日本刀でも構わない。やつをズタズタにしようが、ミンチにしようが構わない。火達磨にして灰と煙にすることだってできるから。
あいつはね、人間の姿をした悪魔の手下。それも下っ端。だから、悪魔も文句は言わない。
……さぁ、片付けようか?! 』