【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(44)騙されてるの?
伊武騎《いぶき》碧《あおい》と伊豆海《いずみ》陽《よう》の決闘《けんか》から、数日が経った頃。
分からなくなってしまっていた。
私のやっているこれが正しいのか、それとも……。
ハシガミレイに出逢ってからというもの、不安と葛藤が存在していた。彼女、その護衛にいた女、そして伊武騎の三人のコトバが、引っかかっていた。
NS《ネス》……正直、本体を知らない。
本部がどこにあり、どんな組織なのか、それさえも把握していない。ただ憎き犯罪者に復讐出来ればと思い、従ってきた。被害者の苦痛を和らげることが出来れば、と考えていた。
(連続殺人……大量殺戮……何なの? 彼女らはNS《ネス》に対して警戒心、いいえ強い敵対心を持っているわ。……私の知らない、組織……)
何人もの処理を行なってきたのは、確かだ。事情を知らない人からすれば、この活動は連続殺人。そうなるのかもしれない。
私以外の者たちを含めれば、その処理人数は何倍にもなる。でも、彼女らはそれだけのことで言っているように感じなかった。
(国民、殺してる? 確か、そう言ってたような……)
ふと、女子高生のコトバを思い出した。
復讐代行活動の相手は、殺人犯だけだ。
(もしかして、NS《ネス》は他でも? )
警察だけでなく、政治団体や司法組織も協力している、と聞いていた。
今頃になって真剣に、考え始めた。思っている以上にこの組織は巨大で、危険なのかもしれない、と。
『利用、されてるだけ』
彼女――ハシガミレイのコトバが何度も何度も、脳裏を過《よぎ》っている。
(私、NS《ネス》に、操られてる? 騙されてる? )
不安が膨れ上がっていく。不信も同様に。
でも、調べようがない。
(陽も、私を、騙しているの? )
少年直毘師に訊ねることも躊躇《ため》う。彼は警察関係者の養父を持つ、組織に近い人物だから。
とてつもなく落ち込んでいく。
もし陽が組織の一員として全てを理解し、行動しているとすれば、私はただ利用されているに過ぎない。そう思えば思うほど辛くなってきた。
私が処理し、命毘師によって蘇生した兵庫県議会議員の回道《かいとう》は、再び亡くなった。そのニュースが飛び込んできたのは、あの日の二日後だ。
決闘の場のなった香川県琴平町を後にし、陽と共に対象者《ターゲット》のいる徳島刑務所へ向かい、そして闇儡を遂行していた。疲れ切っていた少年を名古屋まで送って行ったが、彼は回道について何も触れていない。
つまり別の者が、NSの通達で動いたと察した。
仕方がない。処理に失敗したことになった私に、同対象者に対する再度の依頼はない。依頼人の再闇喰《やみく》はあり得ないからだ。私の知らないところで、処理が行われたと想像出来た。
モヤモヤした気持ちは数日、続いた。
(陽も、利用されているとしたら……)
私と同じように、彼も組織に騙され、利用されている可能性を否定出来なかった。
(彼には訊けない。でも、誰に訊けば……どうすればいいの? )
インターネットで調べても、組織《ネス》のことなど出て来るはずもない。組織専用SNSで誰かに訊ねても応えないだろうし、その内容は組織《ネス》がチェックしているだろう。
(そもそも、ネス……ダークネス、って誰がトップなの? )
疑念は膨れていく。
陽とコンビを組む日にでも、組織そのものについて訊《たず》ねようと思ったが、その日は暫くなかった。
これまでと違った孤独感を何日も味わいながら、一般の生活を過ごしていた。