【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(43)復讐は新たな哀しみを生むだけ
(りようっ? )「っ!? 何それ? なんで話が飛躍するの?! 国民を殺す? バカじゃないの、そんなわけないでしょ。
そんなデタラメ広めて、誰が信じるっていうの! 」
「私も最初は、信じられなかった……日本を、国民を守る人たちが、そんな酷いことを行なってるなんて思ってなかったです。でも……
でも、もしそれが本当だとしたら……ウソだと思いたい、ウソであって欲しい、だから、ミナトさんの今やってることもウソであって欲しいんです! 」
彼女のそれに、戸惑ってしまう。
「ウソであって……ふん、あり得ない。そんなのウソに決まってる。騙されないわよ。
……もしそうだとしても、私のやってることは、私が選んだことなの。私の力を必要としている人たちがいる限り、使うわ。悪い奴らを成敗する。被害者遺族の代わりに復讐するの。遺族がそれで幸せになるなら……私は、私は、悪魔にでも何にでもなってやる! 」
「違う! 」
彼女の力強い否定に、ピクっと身体全体が攣縮《れんしゅく》する。
「遺族は……残された家族は、それで幸せになれるんですか? 復讐は新たな哀しみを生むだけじゃないんですか?
被害者になっても皆が、復讐するわけじゃありません。哀しみや苦しみを乗り越えて、前に進もうとする人たちもいます。忘れるんじゃなく、絶望するんじゃなく……だから、人は支援したり助け合ったりするんだと、私は思っています」
言い返せない自分がいた。
(復讐……新たな哀しみ……乗り越える? ……違う。乗り越えられない人のほうが多いはず。いや、人数の問題じゃない。その人の抱える問題。……私は間違ってない! 支援なんかで幸せにはなれない。愛する人を失って、幸せになれるはずないじゃない! )
心の闇が燃え出し、高ぶった気持ちをぶつけた。
「あなた、偽善ね。支援なんかで哀しみは乗り越えられないわよ。犯人が同じ空気を吸っている以上、怨みは消えない。一生背負って生きるしかないの。
私がそうだった。目の前で母を殺された私の苦しみは消えなかった。この力のお陰で、仇を討てたからこそ乗り越えられたのよ。幸せそうなあなたたちには分からないわ」
「……私も2歳の時両親を殺された。……それを知った時、カヅキさんと同じように私も辛いし、犯人を憎みたい。でも……」
「一緒にしないで! 2歳だったあなたはラッキーよね。だって憶えてないでしょっ!
私はね、母が好きで好きでいつも一緒にいるのが楽しかった、あの幸せが一瞬で壊れた、奴らに簡単に奪われた。それ以来、私に幸せはこなかった!
……世の中に私のような人が沢山いるの。親、兄弟、子ども、愛する人たちを、自分の身勝手に、自分の利益のために、人を傷付ける獣たちは、人間の世界にいるだけでも吐き気がするわ。
私は、一生続けていく。どうなっても、愛する人を失った人たちの“闇”を減らすために、獣たちを、抹殺していく」
話しながら目頭が熱くなっていく。いつの間にか涙を、目に溜めていた。彼女らの前で流さないよう、必死に堪《こら》えた。
沈黙が続く。私も次のコトバが出てこない。でも、言いたいことは言った。そして、すぐにこの場を去りたい気持ちになっていた。噛みしめている唇を緩め、最後に言い放つ。
「今度私の邪魔をしてご覧なさい。絶対に許さないから。闇の苦しみを味わってもらうわよ! 」
彼女らの顔を凝視出来ず、身体を反転させ歩き出す。スッキリしない感をそのままに、車に乗り込んだ。保留していた目の涙は、この時一度だけ袖で拭いた。
エンジンを掛け、あの子のいる公園から離れた。
私の涙は、母のことを思い出し悲しかったわけではない。なぜか分からなかった。確かに自分の活動を否定された。でも、それが理由ではない。
あのハシガミレイという人物に対しての怒り……違う。悔しさ、かもしれない。どちらかというと、羨ましさ、に近かった。
純粋そうで大人しい女子高生なのに、自分の意見を持ち、自身の足で歩いていた。
それに、あの建毘師は真剣に彼女を護ろうとしていた。
ハシガミレイの純粋さ、強さ、そして周りを惹き付ける愛らしさを、たった10分程の短時間でも察することが出来た私は……彼女に嫉妬、していた。