【短編小説】No.15 星明のけ明
待ち望んでいたはずの夜明けが寂しく感じる。きっと夜にしか咲かない星の輝きを知ってしまったからだろう。
赤紫のグラデーションが小さな友の心を染めていく。
「私の夜もまた巡るのか」
赤紫からこぼれ落ちるグラデーションに手を伸ばす。それはそれは美しい空だった。
そして空は緩やかに濃紺を帯びていく。小さな友は懐に忍ばせたピストルを眠りから覚ました。
旅人はそっと目を開けた。そして最初の星が輝く。
「私は恐れない。誰が許さずとも夜は巡るのだ」
旅人は一呼吸も乱さず、ほとんど眠っているようだった。
「あなたはこれでも怒らないのか」
小さな友は震える手で、旅人にピストルを向けていた。
一つ、また一つと星が目覚める輪廻が小さな友の心を奮い立たせた。
旅人は起きているのか、眠っているのかわからないほどに静かだった。それが不満だった。旅人を説得するためにここに来たのだ。
小さな友はいつの間にか立ち上がっていた。顔を上げると、満天の星が輝いている。闇が深いほどに輝く星をじっと眺めた。
「私は怒らない。こじ開けない。夜は星を見るのだ」
旅人も立ち上がった。
「人の長所が昼だとすれば短所は夜だ。あなたは怒るのか。夜をこじ開けるのか」
穏やかに言った旅人は、歯型の付いた茎を拾った。
小さな友は旅人の言葉を理解しなかった。理解しないまま、言った。
「あなたはもっと怒るべきだ。いや、それだけでは足りない。やり返してもいい。やり返さなかったとしても、何とかしようとするべきだ。そのままではいけない」
旅人は拾った茎を咥えた。また、飢えていたのだ。
小さな友はいつも不安を抱えていた。本気で心配し、本気で嘆いていた。親切なのだ。
「あなたは夜に怒るのか」
茎から滴るわずかな水を穏やかに吸いながら言った。
迫害されようとも、友に裏切られようとも、略奪されたときでさえ怒らなかった。嘆きもしない。
旅人は怒らなかった。
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