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【実録性活物語】 勇者再び
【実録性活物語とは】
女性ホルモンを失った勇者の研究日誌。二十代で子宮と卵巣を摘出し、強制的に更年期へと突入した勇者は女性としての自信をなくし、十年以上も性から遠ざかっていた。肌は枯れ、胸は萎み、女性器は既に何も受け入れられない。性活動の再開によって、ホルモンを失った体の変化を記録する。
第一話 勇者再び
十年という月日は思っていた以上に長かった。干からびた荒野を前に、勇者は再び立ち上がる。
「いざ、行かん」
決して楽な道ではないだろう。十年より以前、当たり前にあったあの豊かな大地にはもう戻れないだろう。
時が来た。
不思議と不安はなかった。何が起きても受け入れる覚悟はできている。いや、この十年の月日が覚悟を育てたというべきだろう。
シャワーを浴びた。いつもは軽くお湯でゆすぐだけで済ますのだが、トリートメントまで使った。ボディーソープで丹念に洗う。
「頼むぞ」
そう願いを込めた。
それは勇者が持つ、たった一つの装具だった。十年以上も放置されていたその装具は期待に応えてくれるだろうか。すねられてでもいたら全て台無しだ。
体を拭き、服を着る。備え付けのパジャマだ。髪は乾かさない。濡髪のまま勇者は戦地へ向かった。
モンスターはベッドで寝転んでいる。勇者はツインベッドの片側に座った。
他愛もない話しをする。中身は、ない。戦が始まるまでの様子見だ。
タイミングを伺っているのはモンスターも同じだろう。勇者の胸に手を当て、すっかりしぼんでしまった膨らみを嘆いた。
「昔はあんなにすごかったのに」
そう。モンスターと対峙するのはこれが初めてではない。十年以上昔、彼は仲間として勇者とともに在った。まだ乾くことを知らずにいた勇者の体をモンスターは知り尽くしている。
「ホルモンないから」
「そんな変わるんや」
少し残念そうにモンスターは言った。
勇者が引退したのは間違いなくこれが一つの要因だろう。女性ホルモンを失ったのだ。生き延びるためとはいえ、移ろいゆく体の変化を前に、すっかり自信を失った。錆びてゆく装具を箱に押し込み、使う機会がないよう仕向けた。
「無くても生きていける」
それは事実だ。現に勇者は、勇者をやめようとも立派に生きている。これからもそうあるはずだった。
転機は突然訪れた。モンスターが現れたのだ。回避することもできた。だけど何となく「それもいいか」そう思った。
そして勇者はベッドに潜る。感度は落ちていない。不安もない。「これなら大丈夫」そう思った矢先だった。
「入らない」
衝撃の事実だ。以前にも、入りにくいことはあった。女性ホルモンを失った装具は萎縮し、十分な湿度と広さを確保できない。
「できなくなるよ」
医師もそう言っていた。
「それでもいい」
そう言ったのは勇者自身だ。偽物のホルモンにすがるより、無いものは無いと、捨ててしまいたかった。あのときの医師に話したい気分になった。「本当にできなくなったよ」と。
そんなことを考えている間もそれは続く。痛みに悲鳴をあげる。モンスターは優しかった。ゆっくり動かし、無理はさせない。ボディーソープを使い、角度を変え、あの手この手だ。
しかし結果は同じだった。先っぽしか入らない。それでも勇者は満足だった。
「手術直後こうしてしたことを思い出す」
モンスターに言ったが、モンスターは覚えていなかった。
子宮を摘出した直後、傷が開くから一ヶ月禁止だと医師に言われた。それでも抑えきれない勇者とモンスターは禁忌を破り、先っぽだけ入れた。
抑えきれないほどだったあの頃を懐かしむ。すっかり忘れてしまった感情だ。
先っぽだけでもなんとかなったようで、復帰戦をなんとか終えることができた。勇者の装具はヒリヒリと痛んでいる。痛みは二時間ほど続き、次の日の歩行は違和感があった。
「処女からやり直し」
そんなことを思った。だけど不思議と爽やかだった。
帰り道、こんな記事を見つけた。
「十年ぶりセックスをした五十八歳女性、膣から大出血」
縫合手術を要したらしい。そんなことになったら大惨事だ。勇者はアイテムをゲットする。
「次の戦いに備えて鍛えなければ」
変わりゆく体に怯えていたあの頃とは違った。元来、挑戦が好きなのだ。
そして勇者は旅に出る。潤いを取り戻すための旅を。これは干からびた荒野に潤いを取り戻すまでの戦いを描いた物語である。