キリンに孫の手を (TAXI ミニドラマ 4)
大阪を代表する歓楽街、北新地のタクシー乗り場からのご乗車でした。
「・・僕は死にたいです!」
彼は後部座席に倒れるように乗り込み、吠えるように言った。
まだ二十歳そこそこの若さ。ボーイさんのような格好の男性。泣いてないで、とりあえず行き先を教えてくれ。
「中津まで…グスン」
車を走らせながら話を聞くと、仕事がとてもつらいらしい。
「僕はダメです。死にたいです」
「一緒にやってる友達にも迷惑をかけて・・」
励まそうとするが、見知らぬタクシードライバーの言葉なんて届かない。キリンの頭へ孫の手を伸ばすくらいの距離感と無力感。
座席に顔をうずめてずっと泣いている。
時々、「死にたい」とつぶやく。
しばらく走って目的地のマンションに到着。もしかしたら気持ちが落ち着くまで、車から降りられないのではと思った。
すると意外! 今まで嗚咽を漏らしていた彼が何事もなかったかのように、さっとお金を払ってシュッと車から降りていった。
歩き去る姿に、悲壮感はなかった。
泣いて少しは楽になれたのだろうか。
タクシーという密室で、知らない誰かに叫びたかったのかも知れない。
ありきたりの言葉しかかけられずに堪忍な。
・・もしも耐えきれないなら、夜の街で生きなくてもいいと思う。
キリンのような高い視点から自分の居心地のいい場所を探して、そこで笑うんや。
まだまだ若い彼にエールを贈りたい。
ご乗車、ありがとうございました!
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いただいたサポートは乗務中のコーヒー代、もしくは夜食代にさせていただきます。感謝を込めて、安全運転でまいりまーす!