[詩]「山あいの村」
都会の喧騒を離れて
彼女がよく話してくれたその村を訪ねたのは
或る夏の暑い日だった
電車で四時間余り北に向かい 海沿いの町でバスに乗り換え
一時間ほど山あいを走った所に その集落はあった
可憐なピンク色の花があちらこちらで咲いていた
合歓の花である
緑濃い山々に抱かれたこの二十軒ほどの集落で 君は育った
君が話していた幼い頃のこと
川遊びをした河原
集落の下を流れる川で今も子どもたちが遊んでいる
ヨシちゃんと通った学校
今は校門だけが残っている ここに毎日通っていたんだね
アイスクリームやお菓子を買いに行った集落でたった一軒の店
さっき 私はその店で飲み物を買ったよ
男の子に混じって野球をした校庭
校庭の松の木の下に 今私は佇んでいる
肝試しをした墓地
小高い山の中腹に小さなお寺が見える あそこだね
君は今 そこに眠っているという
彼女が亡くなって十数年を経たあの夏の日に一度訪ねたきり
私はその後その村をを訪れてはいない