生きててよかった
生きててよかったよ。
そう思ったら、遅れて目の奥がじーんと熱くなった。生きててよかった、そう言えてよかった。言えずに悔し涙をのみこんだときのことを思い出す。わたしに何ができたわけでもない、わたしなんて彼らの人生に芥子粒ほどの影響も与えなかった、それでも。ただ彼らの人生が閉じていくのを、手をこまねいているだけなのが悔しかった。虚しかった。
だから、生きててよかった。
あなたが今もわたしと同じ空の下で呼吸しているのは、わたしが何かを言ったからじゃない。わたしがあなたの脳裏に浮かんだわけじゃない。わたしがあなたに何をしてあげたわけでもない。だけど、よかった。
わたしはまだ何もしてあげられていない。
この先ずっと何もできないかもしれない。きっとそんな気がする。それでも、あなたが今もこうして生きていることが、わたしを生かしている。生きててよかった。
わたしにそう言わしめるために生きるというのは、なるほどたしかに対価としては微妙かもしれない。おまえにとやかく言われたくないわと思われるかもしれない。そりゃあそうだ。
でもわたしは、あなたが生きていてよかった。またあんなふうに絶望しなくて済むならば。あなたがこの世界に、まだ生きる意味を見出せているならば。それ以上に望むことはない。
生きるか死ぬかの瀬戸際に来るまで、生きていることがあまりに当たり前に見えて、いつも油断してしまう。
そんなことないのに。いつだって、簡単に、当たり前は当たり前じゃなくなる。悔し涙をどれほど流しても、またきっと、わたしは忘れてしまう。それが悔しくて、もどかしい。
わたしはどこまでも不甲斐なくて、なんの役にも立たないけれど。でも願わせてほしい。あなたが当たり前のように、明日も生きていることを。
この先ちっとも交わらないかもしれないけれど、わたしたちが同じ世界で生きていることを。