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#15 Vを掴みたいわたし|思考の練習帖

主体性を引き出すマネジメントについて考えたのが前回(↓)。

人を相手にする仕事だから、クライエントである子どもたちの支援にも同じことが応用できる。今回は、効果的な支援の方法を考えてみたい。

以前、「毎日の支援に直結する本質的な計画をどのように策定・運用するか」をわたしのイシューとして掲げた(↓)。

この「毎日の支援に直結する本質的な計画」を、行動分析学にもとづいて策定・運用することが可能なのではないか、というのが今日の #思考の練習帖 の仮説である。

支援計画は、クライエントの抱えるさまざまな課題に対する多面的なアプローチを記述しているため、とにかくボリュームが厖大だ。いよいよ年度末なので評価をして次年度の計画を新たに立てなければならないのだが、考えただけでもう気が遠くなる…。でも、ここで諦めてはいけない。せっかく作るのだから、よいものを作ろう。うん、がんばろう…

V=A×B×C

最初の、そして最も基本となる公式は、企業の業績や価値(Value)はその企業で働く人の行動(Behavior)によって決まるという式です。
すなわち、V(業績)=B(行動)となります。

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企業の人材育成という文脈なので「業績」という言葉が使われているが、これは「成果」であり、「得たい結果(OOCEMRの”O”)」、支援計画の目指すところである。Vを達成するためには、クライエントのB(行動)が不可欠なのだ。

ここで気をつけなくてはならないのは、決して、V=Personality(性格)ではないということ。クライエントがだらしないから、やる気がないからうまくいかないというのは責任転嫁の言い訳。Vを決めるのは性格ではなくて行動である。そして、行動を左右するのは随伴性(環境)だ。
したがって、Vにつながるクライエントの行動を正しく定められているのか、行動を妨げる働きかけをしていないか、行動を適切に促進できているか、そういうことに目を向ける必要がある。

V(業績)=A(先行事象)×B(行動)×C(後続事象)

B(行動)は単独では存在しない。
Bを引き出す何らかの状況や出来事(A:先行事象)が直前にあり、Bの直後にもまたそこから引き出された状況や出来事(C:後続事象)があるというわけだ。
ということは、先行事象や後続事象を意図的に用意することで、望ましい行動を促進することも、阻害することもできるのだ。

今回は「身だしなみに頓着しない」というクライエントの課題をとりあげて、行動分析学にもとづいた支援計画を考えてみたい。

標的行動を焦点化する

行動公式「V=A×B×C」にあてはめるBのことを、標的行動という。

「身だしなみに頓着しない」というとあまりにも抽象的なので、具体的に記述しよう。髪の毛を梳かさずに学校に行ってしまうだとか、適当に洗って済ませるのでいつもフケがあって掻いているとか。食べ物を選り分けて食べるとか。おそらく手先の不器用さによるところだが、食べこぼしが多く、また絵の具や墨汁を使うと毎度服を汚して帰ってくる。
これらがクライエントの周囲に不衛生な印象を与え、対人関係の躓きをもたらしている状況がある。

こうやって書いてみると、「頓着しない」という課題設定が必ずしも正確ではないことに気づく。「やりたくても(技術的に)できない」とか「何が望ましいのかわからない」とか、あるいは「(身だしなみよりも)強いこだわりがある」とかの事情がありそうだ。
でも、V=Personalityではない。行動に注目しよう。

では、クライエントに望む行動は何か。
毎朝髪を梳かしてから学校に行く。毎晩お風呂で頭を洗う。食べ物は一口サイズで口に運ぶ。服を汚さないように…む、どうしたらいいんだろう?
わたしがどうすればいいかわからないことを、クライエントにばかり要求するのは無茶な話だ。これは一旦外しておこう。

先行事象を明確化する

標的行動を決めたら、次は先行事象の整備だ。

先行事象には、上司からの指示や助言など、コミュニケーションの中での言葉がけ、マニュアルや手順書など、行動のきっかけとなる様々な事象や出来事が含まれます。

「できるだけ早く◯◯してね」とか「もっと丁寧にやりなさい」とか「よく考えてからやってね」とか、曖昧な指示では正確に求める行動を伝えられない。

「毎朝髪を梳かしてから学校に行く」という標的行動に対しては、「髪の毛梳かしてね」といつも声を掛けるけれど、「梳かしたよ!」という答えが返ってくることもある(たいていは梳かしていなくてムスッとしながら洗面台に向かうのだが)。ブラシをかけても結果としてボサボサが改善していなければ意味がないのだ。完成形(寝癖がなくなっている、髪を結んでいるとか)のイメージを共有しておかなくてはいけないし、一度やったからと言って以後いつでもそれができるとは限らないことも肝に銘じておかねばならないだろう。

後続事象を有効化する

朝起きてきたクライエントに、「おはよう。髪の付け根から終わりまでを一通り梳かして、寝癖があったらドライヤーで直して、仕上げにかわいく結んでね」と声をかけて、クライエントがそのようにしたとしよう。わたしはきっと、「お、すてきな髪型だね」「かわいくできたね」なんて褒めるだろう。褒められると嬉しいから、行動は強化される。しかし、段々それが当たり前になって褒めなくなったら行動は弱化されるだろう。

また、髪を整えようと頑張ったけれど寝癖が頑固で思うようにならなかったなら、「面倒だから、もういい」と投げやりになってしまうかもしれない。朝の時間の余裕がなくなってイライラするかもしれない。これらのことは、行動を阻害する嫌子となりうる。

成功の秘訣は、成功するまで続けること

髪の毛ボサボサで学校に行ったら、クラスメイトに不衛生だと思われるかもしれないよね。それを理由に避けられることもあるかもしれない。身だしなみを整えることは社会で生きるマナーです。…そうやって言葉を尽くして必要性を訴えて、髪の梳かし方をレクチャーして、朝バタバタしなくてすむようにルーティンを一緒に考えて。毎朝声をかけて、きちんとできたら大いに褒めて。

全部、もうやってきたことだ。それでも、Vは達成されていない。
ということは、これまで取り組んできた「V=A×B×C」の中のどこかに不具合がある。
ここで、4つの観点から随伴性の検証をしてみよう。

Effect(効果)

その後続事象が行動の頻度を増やすのか、減らすのか

きちんと髪を梳かして結んだら褒められたこと(強化の随伴性)より、すごく時間がかかって疲れた、面倒くさかったこと(弱化の随伴性)のほうが大きいのではないか。
あるいはこれは先行事象だが、毎朝髪の毛のことをとやかく言われることへの反発も当然あるだろう。

Timing(タイミング)

その後続事象が行動からどのくらい遅延して生じるのか

数秒以上遅延する場合は、「◯◯をしたら●●になる」という行動と後続事象の関係を伝える言語化の手続きが必要となる。褒めることはすぐにできるので、遅延の問題はおそらくないだろう。しかし、衛生的にすることで友人関係がよくなるという効果はかなり遅延するので、強化の随伴性にはなりえないことに留意する。

Importance(重要性)

その後続事象が行動する人にとって、どれだけ価値があるか

褒められたら嬉しい。でも、それって面倒くささを耐えてまで欲しいものではない。もっとインパクトのある随伴性はないものか…。

Probability(確率)

その後続事象が行動の後に十分に高い確率で生じているか

段々褒めなくなったら確率は下がってしまう。
本では、褒める回数を増やすよりも標的行動を自己記録させて、それを承認することが推奨されている。たとえば、きちんと髪をセットできたらシールを貼れるようにするとか。子育てでもよく使われている手だ。


3231字も書いたのに、なんだかすっきりしない。Vに辿りつける自信がない。ここに書いたのは机上の空論で、絵に描いた餅だ。これをもとにクライエントとわたしの行動をよく観察して、見逃した随伴性がないかを調べてみよう。そう、成功の秘訣は、成功するまで続けること。めげずにカイゼンし続けるしかない。

今日はここまで。


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