手足症候群の予防的保湿をしてもらえるような動機付けについて考えてみよう!
手足症候群は様々な抗がん剤で発現しますが、原因となる抗がん剤の分類は大きく2つ。
フッ化ピリミジン系(カペシタピン、5-FU、S-1など)
マルチキナーゼ阻害薬(レゴラフェニブ、レンバチニブなど)
原因薬剤によって症状、発現スピードに違いはありますが、予防として「保湿」が大切な点は同じです。でも、自分自身だって毎日朝晩、手足の保湿しろって言われたら難しくないですか?(ずぼらな私には難しい・・・)
そこで、行動を変化させるための動機付けとして、普段説明していることについてまとめてみました。
1.保湿剤の使い方(いつ、どのくらい塗る)
行動してもらうためには「具体的な手順の説明」が必要だと考えています。そのため、手はできれば手洗いごとに、足は少なくとも朝晩2回とお伝えするとともに、寝る前は必ず塗りましょうと念押しして、最低1回は確保したいなと思っています。塗る量は手のひら・足の裏それぞれ1FTUを目安にお伝えはしますが、まずは続けてもらうことが大切なので、リアクションがいまいちで塗ってくれそうにない方に対しては「不快なべたつきを感じない程度に調節してよい」ともお伝えしています(自分でやってみるとわかりますが、1FTUって結構ベタベタ・・・)。その上で、電話フォローや来局時に症状を確認し、乾燥や赤みがあれば悪化する可能性を伝えてもう少し頑張ってもらえるように働きかけていきます。
ちなみに保湿の効果は「使用量」だけでなく「回数」の影響も受けます。そのため、どうしてもべたつきが気になって使用量を増やせない方の場合は、せめてこまめに塗ってもらえるようにお伝えしています。
2.保湿剤の選び方
多くは医師からヘパリン類似物質系が処方されると思うのですが、その使用感が苦手な方もいると思います。「あれ、ベタベタして苦手なの」と言われたら無理させず、「普段使いしているハンドクリームでいいですよ、それを足にも使ってください」とお伝えしています。効果は劣るかもしれませんが、何もしないよりはマシだと考えます。
ちなみにこれは主観ですが、同じヘパリン類似物質系でもOTCのほうが化粧品のためか使用感が快適な気がします。私のおすすめは「カルテHD」シリーズ。マルホさんも関わっています。大容量もあるので、経済的にもおすすめです。
3.保湿しなかった際のデメリット
「肌が炎症を起こして痛くなるのを防ぐため」という説明が一般的かと思います。ただ、数日で痛みが出るとも限らないので、「大丈夫じゃん」となってしまうこともありますよね。
これは脅しのようにもなってしまうので、患者さんのキャラクターをみて伝え方には気を付けないといけないですが、適正使用ガイドや重篤副作用疾患別対応マニュアルの写真を見せることもときどきあります。
あと、個人的にリアクションが良いと感じている注意喚起が、フッ化ピリミジン系の場合になりますが、「指紋認証しづらくなる」です。フッ化ピリミジン系に特徴的な症状ですが、皮膚がテカテカしてきて指紋が薄くなるんですよね。今、指紋認証でスマホのロック解除やセキュリティ解除をしている方も多いので、比較的若い方や男性にも響きやすい説明だと感じています。
フッ化ピリミジン系とマルチキナーゼ阻害薬の違いは「消化器癌治療の広場」というサイトが分かりやすくまとめてくださっているので、そちらをご参照ください。
まとめ
行動変化を起こさせるためには「具体的な行動手順」を伝える
面倒くさがる方には行動のハードルを下げるため、「まずは1回」「使用量も不快に思わない程度」からスタートすることを許容する
使い心地の良さも大切に、医療用にこだわらない
その方にとって「困ること」をうまく利用して行動変化に繋げる
補足
できるだけたっぷり、しっかり塗ってほしいとは思っていますが、誰もが理想通りにできるとは限らない。それが苦になることだってある。そう考えると、患者さんの「嫌」「面倒」という気持ちに寄り添い、できることから始めてもらうスタンスも大切だと考えています。
また、手足症候群はまったく保湿していなくても発現しない方もいます。もし、好発時期を過ぎても皮膚に何の変化もないのであれば、私は無理強いはしていません。ただ、乾燥や発赤、違和感があれば保湿していきましょうと有事に行動できるような説明を心がけています。