古代ギリシア語を入門の時点で挫折せずに勉強を続ける方法
古代ギリシア語、手抜き学習の達人が、挫折しない極意を教えます
こんにちは。哲学Youtuberのネオ高等遊民です。
古代ギリシア語の勉強は、大変そうなイメージがありますが、そんなことはありません。
いや、まじめにやるともちろん大変なんですが、手抜きでやってもそれなりに楽しめます。
それなりに楽しめるとは、こんな感じです。
もう全然、学習書・文法書なんて、読まないし、覚えません。
活用表を覚えるなんて「ごめんこうむります」くらいの勢いです。
それでもプラトンやアリストテレスといった大哲学者の書いたことを、少しは読めるようになるのです。
「きみは、お父さんを殺人のかどで訴えることが敬虔なことだと、わたしに言った(=でもわたしはそんな答えは望んでいないのだ)」とか
「いま仮に、白い人間のことをひとことで衣と呼ぶことにしよう」とか
「アイスキネスはソーセージ屋の息子である」とか
そういった珠玉の名言を、ギリシア語で直接読めるのです。
そんな極上の体験ができるための、肩肘はらない勉強法をご紹介したいと思います。
さて、古代ギリシア語の勉強を始めようと思っている方は、こんな疑問や不安を持つのではないでしょうか。
と、以下に仮想の疑問や不安を適当に作りました。
これらについて答えるという形で進みます。
ではまず①のアルファベットや発音について。
古代ギリシア語のアルファベットを学ぶことは、実は思ったよりもずっと簡単です。
なぜかというと、古代ギリシア語のアルファベットは、半分以上が英語のアルファベットとよく似ているからです。
たとえば、
「A」は「α アルファ」
「B」は「β ベータ」
「G」は「γ ガンマ」
「K」は「κ カッパ」
これらは見た目も発音も、英語のアルファベットとほとんど同じです。
さらに、ギリシア語のアルファベットのいくつかは、数学や科学の分野でよく使われる記号としてもお馴染みです。
例えば、
δ(デルタ)は数学で変化量を表すのに使われ、
π(パイ)は円周率の記号ですが、ギリシア語では p の発音です。
これらの文字は、私たちが普段から目にしているものなので、覚えるのがとても簡単なんです。
つまり、古代ギリシア語のアルファベットを一から全く新しく覚える必要はないんです。すでに知っている文字や記号をベースにして、新しい文字を少しずつ加えていくことで、自然と習得できるようになります。
また、発音については、だいたいがローマ字読みで、例外はほとんどありません。
文字の読み方さえ覚えれば、英単語の発音よりも、はるかに簡単です。
では、いくつか簡単な例を出します。文字も一緒に覚えられます。
まず、古代ギリシャ神話における最高神のゼウス。天気、雷、法と秩序の神ですね。
英語「Zeus」
古代ギリシャ語「Ζεύς」
発音もそのまま「ゼウス」です。文字も発音もそのまま読めるのではないでしょうか。
では、ゼウスよりは少し難しい、アキレウスを。
『イリアス』などの古代ギリシャの叙事詩で知られる英雄ですね。
トロイ戦争の最も強力なギリシャの戦士として描かれ、特にその不死身さと彼のヒール(アキレス腱)の弱点が有名です。
英語 Achilles
ギリシア語 Ἀχιλλεύς
発音「アキレウス」
これも「χ キー」を「kh」と読むことさえ注意すれば読めますね。(Xmas クリスマスのXのようなイメージです)
λ(ラムダ)は「L」にあたります。
ということで、文字と発音は、最初から半分以上わかってるから大丈夫ということです。
②文法や語彙について
ここは一番きついところですね。実際、初歩の段階では、いちばん挫折するポイントだし、やる気が出ないポイントでもあります。
しかし、心配無用です。
古代ギリシア語の文法、特に名詞の格変化や動詞の活用は、確かに初めは複雑に思えるかもしれませんが、すべてを完璧に覚える必要はありません。
実際、多くの専門家でさえ、文法の全てを完全には覚えていないことがよくあります。
あのクサカベクレスも、変化表なんて覚える必要はありませんと言ってます。
ちなみにクサカベクレスとは、『初期ギリシア自然哲学者断片集』ちくま学芸文庫、全3巻の翻訳者です。
重要なのは、基本的なルールを理解し、練習を通じて徐々に慣れていくことです。
われわれ学習者が覚えるべき文法のルールは、全体の中のほんの一部に過ぎません。
本当に重要な文法ルールの一例
名詞の性と数の基本的な理解:
男性、女性、中性の3つの性と、それぞれに単数、複数が存在すること。
「双数」というのもありますが、無視していいです。
名詞の格の基本的な概念:
主格、属格、与格、対格、呼格の5つの格がある。呼格はほぼ無視でいいです。
そして、それぞれの格が、文中でどのような役割を果たすかを理解することが重要です。
例えば、主格は主語、対格は目的語として使われることが多いです。
格変化というのは、英文法でいえば I, my, me とかのことです。
my や me を主語には使えませんよということです。
基本的な動詞の活用パターンの理解:
動詞の変化にかかわる要素
・時制(現在、未来、未完了過去、アオリスト、完了)
・法(直説法、接続法、希求法、命令法)
・態(能動態、中動態、受動態)
これらは全部覚えようとすると無理ゲーですが、形の特徴だけなんとなく覚えておくだけでいいです。
よく使うものは、よく出てくるので、なんとなくわかってきます。
述語動詞の条件:
述語動詞は「人称と数をもつ動詞」のことです。(3人称単数とか)
そうでない動詞は、不定詞と分詞です。(英文法では準動詞といったりします)
述語動詞を探して、活用を把握することが、ギリシャ語を読むときのコツです。
以上、これらの基本的な文法事項を押さえることで、古代ギリシア語の文法の大枠を理解することができます。
学習を進める中で、自然とこれらのルールに慣れ、さらに詳細な知識を身につけていくことができるでしょう。
語彙についても同じです。やってるうちにだんだん覚えてきます。
翻訳の索引とかが参考になります。
③実際に読んでみることについて
続いて、実際に読むことです。
文法学習と並行して、さっさと講読をはじめましょう。
基本的には、なにかを実際に講読するために学習してるわけですからね。
さて、これについては、完全に無料で使える、お助けサイトが存在します。
Perseus Digital Library
このサイトには、
原典テクスト(ギリシャ語)
対訳(英語)
活用形まで記載された辞書(英語)
がそろってます。
原典テクストの各単語には、すべて辞書へのリンクがついており、ワンクリックで意味と活用形がわかります。
わたしが、活用形をいちいち覚えないですんでいる理由は、まさにこのペルセウスデジタルライブラリーがあるからです。
実際に読むときは、日本語訳も用意するのが普通かと思います。
ということで、原典講読までのハードルは、意外と低いのです。
実際に、ペルセウスデジタルライブラリーを利用すれば、辞書を引く手間が大幅に少なくなります。
これに慣れれば、活用表なんてちゃんと覚えてなくても、ある程度原典を読むことができます。
もちろん、辞書を引いただけでは、わかんないところもあります。
全部わかるわけない。それは望みすぎ。
でも、わかるところはわかるし、ひたすらやっていくなかで、わかるところが増えていきます。
文法事項の理解もそうですし、単語や慣用表現をいつの間に覚えるということもあります。
文法書と同時並行で、ペルセウスで原典講読しよう!
これがネオの考えです。
④参考書や学習の進め方について
原典講読のための資料は、先ほどのペルセウスが、もっとも手ごろで、便利です。無料ですし。
文法書・学習書については
堀川宏『しっかり学ぶ 初級古典ギリシャ語』ベレ出版
がもっともおすすめです。
それ以外は、さしあたり特に必要ないかと思います。
辞書については、定番の英語辞書は、ペルセウスにありますので不要です。
最新の学習者用の英語辞典もあります。ネオ高等遊民も所蔵してます。
しかし、紙の辞書を引くのは、圧倒的に時間がかかりますし、やっぱりペルセウスのほうが便利なので、あんまり使ってません。
日本語辞書は、高価ですが、非常に便利です。
しかし定価で5万円。
古本でも2万円~3万円くらいするので、最初からいきなりそろえる必要はありません。なくても読めますから。
本当にギリシャ語講読が習慣になってきたら、購入を検討すればいいでしょう。
ネオ高等遊民は、学生のときには図書館でよく使ってました。たいへん助かってました。そのうちタイにも欲しいです。
日本語訳だと英語を介する必要がないですし、この辞書は、とにかく日本語に当てはめて考えるというときに使える訳語がたくさん収録されている。
ところで、学習書の進捗なんですが、ネオは、文法書だけやっても飽きてしまう性格です。
学生時代もギリシア語の授業を受講したことがあるんですけど、結局宿題とかが面倒くさくて出なくなって、単位落としました。
たぶん、いま大学に通い直しても、単位落とす自信があります。それくらいやる気ないです。
そもそも授業とか講義って、自分のペースでは進まないので、なんかだるいですよね。
なので、文法書は、必要な時の参照用に使ってます。
活用表や文法事項を確認する必要があるときにだけ開いてます。
ですから、「学習の進捗が遅くて、挫折しないか心配だ…」という疑問に対しての答えは、こうなります。
なめてますけど、そんなもんでいいんじゃないんですかね。
全部やろうと思ってるから、挫折すると思ってるだけです。必要なときに参照するものだと思って、そのように使えば挫折しようがありません。
つまり、挫折とは、根拠もなく「すべてを学ぶ必要がある」という思い込んでいるところから生じる、虚妄なのです。
思い込みを打破することが学ぶことなのに、はじめから強固な思い込みをしていては困りますよ。
言ってみれば、辞書に挫折する人がいないように、学習書も辞書みたいに使いなさい、ということです。
同様に、講読が挫折するってこともないです。
もちろん、難しくてわかんないというところはしょっちゅうあります。
でも、そもそも講読は、最初から最後まで読む必要なんてまったくないんですから、ある意味では、読んだところを達成していくだけです。読んでない部分は、挫折の部分ではありません。
⑤勉強法や継続について
これは先生につくとか、複数人でやるとかしたほうが、挫折は少ないと思います。
ネオの場合も、大学院ではやらなきゃいけないからやりました。毎週10ページくらい読みますから、週に3日は夜中・明け方までやってました。
現在でも、クサカベクレスの講読セミナーを受講していたりすると、やらなきゃいけなくてやってます。
しかも、単位落とした方のギリシア語は、自分に責任がないから落とせるんですよね。
ゼミは、自分が休んだら、自分が破滅するし、まわりにめっちゃ迷惑かけるんで、やらざるを得ないんですよね。
ということで、ギリシア語の勉強も、ひとりで誰にも迷惑のかからないところでやるよりは、自分がやらなかったら誰かに迷惑がかかるという状況でやると、いい感じに継続できます。
もちろん、ギリシア語なんて、だいぶ趣味の領域ですから、あんまりプレッシャーかけて無理することもないですが。
自分ひとりではなく、みんなで学ぶ環境ということで、SNSを利用したり、ネオ高等遊民読書会サークルみたいなところに入会してみるというのもいいのではないでしょうか。
まあぼくは主催なんですが、ギリシア語の勉強をはじめたら、意外と喜んでくれる人も多くて、やってよかったなーと思ってます。
みんな、ネオがあんまりにも適当すぎるから、気楽にやってると思います。
最後に、そもそも論です。
⑥そもそも論について
ネオがはっきり言いますと、なんの役に立つかは全然わかりません。
これはよくある「有用性の尺度」そのものを否定するという意味ではありません。
「役に立つ・たたないとか、そういう考えをすべきではない」ということではありません。
ほんとに、ただ、わかりません。
意味なんてないとおもいます。
定期的にこんなことをツイートしては、白い目で見られております。
いやー、そこまで何かの語学に習熟したわけじゃないからさ、原典でしか味わえない体験とか、そんなことを偉そうには語れないんですよ。
口先だけでは言えますけど、確信をともなう体験ではないので。
なんとなくやってるだけです。
読書会で勉強会したり、youtube生配信でギリシャ語読んだりすると、なぜか喜んでくれる人が少しいるんですよ。
そのためにやってるくらいの勢いです、私は。
自分の楽しみのためにやってるって感じではない。
極論すれば、奉仕です。言いすぎですが。
で、こんなギリシャ語やる気もねえし大してできないやつでも、ほんの少しは読めるようになるんだって話をしたかったんですね。
でもまあ、古代ギリシャ語の学習は、単なる言語習得以上のものがあるのかもしれません。
文明の礎を築いた偉大な思想家たちの思索に触れ、彼らの用いた言葉を通じて人類の知の遺産を体験する。
そういうことが、まあそのうちできればいいなと思います。そういう経験を求めてるんですが、この境地にいくのはなかなか大変ですよね。
とはいえ、それでもなんとなーく続けられるのは、ギリシア語の文を解読するたび、歴史の一部を読み解く喜びがあるからでしょう。
こんなありがたい話も聞きました。
アリストテレスはまじで何言ってるかわかんないんで、やっぱギリシャ語を通じて、彼の哲学的な思索というものを追体験しようとしている感じはあります。
なので、ギリシャ語をやっていきましょう。何回挫折して、何回再チャレンジしてもいいではないですか。
では、最後までお読みいただきありがとうございました。
もしネオ高等遊民読書会サークルに興味を持った方がいらっしゃれば、こちらが案内+入会のページです。
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