18. 矛盾めいた悲運の名瀑
2024年5月26日、大白川ダムが堰止めた湖「白水湖」の湖畔に立った。標高1240メートル。白水滝の上に広がる平地だ。
ここにはかつて猿ヶ馬場と呼ばれる森が広がっていた。石崎光瑤らの一行が114年前に宿泊した鉱山事務所跡や大白川温泉は湖の底にあるのだろうか。[1]
平地のなかほど、湖に向かってまっすぐなコンクリート水路が続いていた。200メートルはあろうか。
白水滝周辺では、1960年代前半に大白川と白水の2つのダムが造られ、合わせて2つの流域変更が行われた。
大白川は大白川ダムによって堰き止められ、ダム湖(白水湖)の水は地下を通って約7キロ先の御母衣ダムに流れていく。そこに落差460mを利用した第2発電所がある。
白水滝の上流約300mに白水ダムがある。小白水谷と大白水谷の水を堰き止め、ダム湖に誘導する。まっすぐな水路はその導水路なのだ。白山から流れ落ちる水を少しでも発電に活用しようというアイデアである。
白水滝はかつて小白水谷と大白水谷の水を集めて雪解け時に水煙を上げるようなぼう大な水量を誇っていた。
それが1963年、白水ダムによってダム湖への導水が優先され、「観光放流」となった。つまり白水滝は人為的な流量管理が行われているのだ。
観光放流といえば黒部ダムだ。ダムの人工瀑布は今や観光の大きな目玉になっている。一方、白水の滝は日本三名瀑と言われる自然瀑布でありながら観光放流という矛盾めいた運命を背負ったわけだ。
あの世の石崎光瑤に問うてみたい。114年前、あなたを夢中にさせた滝の変容をあなたならどうみるか。
(つづく)
◇
[1]白山・地獄谷からの道 | 隠居の『飛騨の山とある日』 (jugem.jp) には、ダムに水没する前の「温泉小屋」の貴重な写真がある。