5. 岩壁に阿修羅の鮮血?
岩屋ヶ谷を過ぎ、道は二俣に分かれる。下へ降りると本谷を渡ってアワラ谷に通じる林道である。この分岐点で、右手のやや広い舗装路を選んで進む。
このあたりで対岸に見える岩壁が「ベンツル」の絶壁なのだろうか。車道の限られた視界にはその全貌が入ってこない。
昔の絵葉書が頼りにはなるが、やはり特定できない。
光瑤はこう記している。
どこから「怒れる阿修羅」の鮮血という発想が出てくるのか。それらしい岩壁を見ても、凡人には「阿修羅の鮮血」を見つけることができない。
紅葉が盛りのときに旅した感想だから、赤い葉をそう形容したのかもしれない。
「敗鬼の朽骨」というのも聞き慣れない言葉だ。
喜びに満ちて躍進する光瑤の、高揚感は並大抵ではない。(つづく)