三十路の上海留学1日目(前半)

 29歳までパスポートを持っていなかった、元旅行嫌いの私が、コロナを経て旅行の意識が変わって、中国ドラマで中国俳優を好きになり、二年勉強してリスニング(听力)に伸び悩んだ結果上海留学を決めた出発以降の記録

2024年9月8日(前日)

 国際線はおろか国内線もほぼ見たことがないのでまずは空港の下見。

 両替所で日本円9万円分の両替を頼む。「…中国はキャッシュレス社会ですが…?」と両替所のお姉さんにいぶかしがられる。多分家族で両替所に行ったから旅行と思われたらしい。しかも、あまり中国元の在庫がないのか、隣のお姉さんに「中国元どのくらいある?」と在庫確認までされる始末。
 「留学なので、現地で口座を開いて入金するから大丈夫です」、そう言うとお姉さんが「留学するのはあなた?」と聞いてきた。

 まあ、この年で留学とは思わないよな~と「はい」と答える。
 「学割が効くから学校名を教えてください」と言われて、え?!もしかして学生に見られてる?と思って慌てて「社会人留学なので学校無いです」と答えると、現地大学の名前でも学割が効くらしかった。
 「学割利かせたら、ちょうど4000元になりました!」ややテンションの上がったお姉さんに乗せられて「良かったです!」と答えてしまった。何が。
 
お金とともに、「最近また中国の現金トラブルが増えていて、現地の駐在さんですらやられてるみたいなんです」と、贋札・ぼったくり注意喚起の紙を渡されて盛大にびびらされる。
 
 「私も社会人で留学行ったんですよ。お金貯めてから行きたいなってスコットランドに。良い留学にしてくださいね」
 お姉さんは最後にそう言ってくれた。そういやパスポート申請するときも、パスポートセンターのお姉さんも社会人留学者で盛り上がったのを思い出す。
 意外と世の中社会人留学が少なくない。
 
 アートホテル成田に宿泊。
露天風呂があって最高。ビュッフェ込み1万円以下なので、部屋の綺麗さ、ご飯のおいしさ、温泉と考えると破格。

21時、そういや荷物の重さ測ってねえなと、ホテル入口の体重計に荷物を乗せてみると
預ける荷物→21キロが1個、7キロが1個
機内持込→5キロ
手提荷物→5キロ

重量制限引っ掛からないか、上海までちゃんと飛行機は飛ぶのか、現地タクシーにぼったくられないか、不安で1時まで起きていた。

2024年9月9日(1日目)

 3時30分起床、目バキバキ。
 ちゃちゃっと支度して5時半アートホテル成田発の空港行きバスに乗車。
 ターミナル巡回バスに乗り換え、窓口についたはいいが窓口が開くのが6時55分。55分時間を持て余す(もっとねれたやん!)

 空港で家族との感動の別れを…と思っていたのに、国際線はじめての私は軽い気持ちで保安検査場に入場。保安検査入口の職員にもう家族に会えないと伝えられ、ゲート越しに「なんかもう会えないらしいー!」と叫ぶ羽目になった。馬鹿。
 搭乗口へ向かう道すがら、電話で家族にお別れの挨拶をした。

 飛行機に乗る。中国国際航空(エアチャイナ)なので、添乗員さんは中国語。
 留学初の中国語は「二十二(アールシーアール)、A」。ただの座席番号。
 搭乗後のアナウンスは全て中国語と英語。これに関してはどちらも1ミリも聞き取れない。

 無防備にも着陸後爆睡していたらご飯を飛ばされていて、目覚めたらCAさんが中国語でご飯を勧めてきた。
 朝ホテルでチキン南蛮弁当食べたのと、緊張でさっぱりお腹が減ってない。あと窓際の席にしたからトイレに立ちたくなくて、「不用(いりません)」を繰り返した。

 その後、ドリンクサービスが回ってきた。保安検査で飲み物を飲み干して以来、飲み物を買ってないので喉はカラカラに渇いていた。
 スプライト、コーラ、あと何か良くわからないものが並んでいたが、スプライトは中国語の名前が分からなかったのでコーラに決めた。

 「我想要可口可乐(コカ・コーラが欲しいです)」これが上海留学初のまともな文章かもしれない。やや噛み噛みだったが、「好,可乐(分かりました、コーラですね)」に伝わった!!!!!と感動した。
 ……のもつかの間、「✕✕✕?」CAさんがなんか言ってる。まるで聞き取れない。「可乐,这个(コーラ。これ。)」コーラのペットボトルを指差すと、CAさんは「ice?」と聞いてきた。
 あ~~氷の有無ね!!!「ice」と英語で答えたあと、めちゃくちゃ悔しかった。割りと簡単な文章が聞き取れない。
 2年勉強してもこんなもんか~と打ちひしがれた。

 さて、3時間のフライト、トイレなんて行かんやろとたかを括っていたが、まあトイレに行きたくなった。
 機内アナウンスが聞こえないので、離席の可否は他人の行動頼みで判断するしかない。
 虎視眈々と機内の様子を伺っていると、CAさんが「窓のカバーを開けろ、PCをしまえ」と回っているらしかった。
 やばい、これもうトイレ行けないか?と思っていたら、客席のおじさんが立ち上がってトイレに行った。もう聞くしかないと、手を上げてCAさんを捕まえる。

 「我想去厕所,可以吗?(トイレに行っても良いですか?)」
 「可以可以!(いいですよ)」
 CAさんがトイレを指差してくれる。
 着陸のアナウンスは三割くらい聞き取れた。
 「上海につきました、東京から上海のフライトでした、外の気温は33度です、✕✕✕✕、再见」、だいたいこんなかんじ。

 空港について一息、喉渇いたなとあたりを見回すも自販機などない。もういいや、と投げやりな気持ちでタクシー乗り場へ向かう。
 中国語の先生に、「タクシーはぜっっったいにタクシー乗り場から!」と死ぬほど言われていたので、タクシー乗り場の案内板に沿って進んでいると、「TAXI?」と男性二人組に話しかけられた。
 「はい」、まだ日本語が抜けてないので、頷きながら思わず日本語で返すと、彼らは「こっちだよ」と英語だか中国語だか(どっち話してたか忘れた)でタクシー乗り場と全然違う方へ誘導しようとする。
 「NO!!谢谢」と答えると、「OK」とあっさり去っていった。ほんとにいるのか、ぼったくりタクシー。

 タクシー乗り場では、列をさばくスタッフと「一个人?(ひとり?)」「一个人」「蓝色的(青いやつ)」「好(分かりました)」と会話して乗車。
 運転手は30代くらいのお兄さん。乗った瞬間、「現金支払い出来る?」と聞いた。「出来ますよ!」と相手はニコニコ答えてくれた。ちなみにこれは伏線である。
 その後「一時間くらい乗りますよ」と教えてくれて、それが聞き取れてしまったばっかりに初めの15分は結構話し掛けられたしこちらも話した。
「今日の上海暑いね」「上海は晴ればっかり?」「タクシー運転手さんは上海住んでるの?」「おすすめの観光地教えて」「4ヶ月留学してます」「上海、バイクとチャリ多くね?」などなど。
 途中で一切私が中国語を聞き取れなくなり、「英語しゃべれる?」にたいしてタクシー運転手が「喋れない笑」と返して以来会話が止まった。切ない。
 
 タクシーは正規料金で、大学からあらかじめ聞いていた金額より安いくらいだった。360元(日本円で8,000円くらい)くらいだったので400元出す。「釣りがない。細かいお金ない?」と困ったように言われた。これを「現金支払い出来る」にカウントするのかと笑った。
 チップと割りきって、「釣りいらない」と言ったら申し訳なさそうに荷物を出してくれた。
 勢い良く全然違う建物に入ろうとして、とても慌てたタクシー運転手が「大学はあっち!」と指差してくれた。めちゃくちゃ恥ずかしくて「谢谢,谢谢!」と何事もなかったようにお礼をして、大学に足を踏み入れた。

 つづく

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