三十路の上海留学30日目
10月8日(火)上海留学30日目
10日分程度日記を滞らせている。震える。
この日記の目的は「日々感じたことを忘れないように綴る」ことなので、そういう意味では10日溜め込んでいる時点で目的を達成できてないようにおもうがまあいい。
頑張ってかいていこう。
今日も授業は授業で別段面白いことは特になにもなかった。
夜、トルキッシュの知と散歩する約束をしていたので、何時に会うかだとかどこで会うかだとかそういうことを打ち合わせて解散した。彼女の同室で同じ2-3クラスの同級生・エクアドル人の琳にも彼女がお誘いの言葉をかけていた。
18時、定刻通りに寮を出る。彼女の寮と私の寮はさして近くもないのだが、彼女がわざわざ私の寮まで足を運んでくれるというのでありがたくお言葉に甘える。
やってきたのはトルキッシュひとりで、琳は後から来ると言われた。
私のお散歩コースは往々にして学内の道を練り歩くことなので、「どこ行く?」というと、彼女から「あっち」といわれた。
飼い犬並みに気まぐれである。犬飼ってないけど。
彼女にお任せして着いていくと、普段教室に向かう最中にみかける大きなグラウンドがあって(一周500メートルかそれ以上ありそう)、そこに入った。なんでもここの学生は自由に使っていいらしかった。
ひとつのグラウンドのトラックの内側では、太極拳をする人、サッカーをする人など様々で、トラックもトラックで走る人、歩く人さまざまだった。
各々が各々スポーツを楽しんでいた。
彼女とは、中国人の学生とはどこで知り合うのかだとか、サークルは何に入ったかだとか、そんなようなことをいろいろと話した。
一時間ほどトラックをぐるぐる歩き回ったところで、「ハァイ」と後ろから聞きなれた声がする。エクアドル人の彼女はいつも、「ハァイ」と言いながら挨拶をしてくれるので一発で分かった。
後ろを振り返ると彼女ともうひとり背の高い男性がいて、エクアドル人の彼女から「他是法国人(フランス人)」と紹介された。
「ニーハオ」というと「ニーハオ」と返される。「どこのクラスですか?」と聞いたら彼は困ったように眉をよせて、それからエクアドル人の彼女が「彼は中国語はまったく話せないの」と言われた。
わ、わあ~~~!
「わっと、ゆあ、くらす?」
絞り出した英語にたいして、彼はまあまあ流暢なスピードでペラペラペラっと返してきた。
聞き取れるわけがなかろうもん。
困っていたら、見かねたエクアドル人がそれを中国語に翻訳してくれた。
「彼女は日本人なの」エクアドル人が私を紹介する。
「わー、こんにちは!」フランス人の彼は日本語でそう挨拶した。
ふたたびエクアドル人が「彼は日本が好きで、すこし日本語も勉強していたの」と言う。
「为什么你会说日语吗?(なにゆえ日本語しゃべれるの?)」私のその言葉はやはりフランス人には伝わらなくて、彼は「あー・・・ホワイ?ホワイスピークジャパニーズ?」と拙い英語で話しかけた。
「ああ!アニメ!」彼は日本語で元気よく答えてくれた。
エクアドル人の彼女はいささかのんびりとしたところのある女性なのでおおよそその性格は知っていたが、ここに来て一番中国語が話せる(そして英語も話せる)トルキッシュがまったく翻訳をしてくれる気がなさそうである。
なんとかして!!!!!!!!
しかしフランス人がなにかを英語で話すたび、私がトルキッシュに「訳して!」「訳して!」「いま彼はなんと言ったの!」と圧をかけ続けていたら翻訳してくれた。
私はどちらかというと気ぃ使いなので、エクアドル人とトルキッシュに向かって中国語で話しかけたのち、拙い英語でも彼に向かって話をしたのだが、フランス人は一切の容赦なくすさまじいスピードで話しかけてくる。
はやいはやいはやい。
後半はもはや、私が話した中国語をエクアドル人が英語に翻訳してフランス人に話し、彼が話した言葉をトルキッシュが中国語に翻訳して私にはなすという意味分からん空間ができていたのだが、最終的に、彼らが見たことのある日本の映画だとか(知らない映画だった。エクアドル人はなにも見たことがなく、フランス人とトルキッシュはどちらも別々の児童虐待の映画の名前をあげた。なぁぜなぁぜ)、ジブリはなにが好き?だとかそんなような話をした。
30分後、さすがに私は脳が疲れたので「もうかえる!」と声をあげた。あわせて一時間半も歩き回ったので上々である。
エクアドル人は「四つのちがう国の人間が集まって話しているなんて何て面白いの!」と悠長に言っていたけれど、フランス人の彼も大層疲れたことであろう。
我々四人はグラウンドを出て、帰路につく。途中、トルキッシュとエクアドル人は留学生1号楼、私とフランス人は留学生2号楼なのでバイバイをした。
ど、どうしよう・・・!
意志疎通のできない二人組が取り残されてしまった。
「きょう、たのしかったですね」と彼は日本語を話す。
「すごい!!!めっちゃ日本語上手いですね!!!」と感動のあまり返すと彼は「は?」みたいな顔をした。
わかるわかるわかる、話せるけど聞き取れないんだよね!!!!!
なぜなら私のいまの中国語がそうだから。
わかりますその気持ち。
どういう流れかわからないけれど、私と彼はそのまま微信を交換した。どうせ二度と会わない同級生だというのに、気まずさをまぎらわせたいあまりにそうするしかなかった。
交換した彼のユーザーネームを見て、「ラザン?(仮名)」と読むと、「ラゾン」と訂正される。
「おー、そーりー・・・」気まずい。
その後はなぜか、彼は拙い日本語、私は拙い英語で会話をするという、はたから見れば意味のわからない中国留学者たちがそこにはいた。
私はおもう、必要なのは中国語ではなく英語であると・・・。
帰寮して、わたしはエクアドル人とトルキッシュの二人に中国語で「きょうはありがとう!またお散歩しようね!」と送ったのち、ラゾンに中国語・英語・日本語の三言語で「きょうはありがとう!またお散歩しようね!」と送った。
ラゾンからは、「ワオ!三か国語!」と英語一か国語のみで返信があった。
サンキュー、きっともう会うこともないであろうフランス人よ・・・。
こうして月曜日は幕を閉じた。
もう一度言う、必要なのは英語力である、と。