ご質問にお答えします!『身近な人を登場人物のモデルにする場合について』
脚本家志望の方から、こちらのご質問がありました。
「身近な人を自分の作品の主要登場人物のモデルにしようと思う」という話は、私が脚本家を目指して教室に通っていた頃から今までに、何度も聞いたことがあります。
ですが、振り返ってみると、それらの作品が完成したと聞いた覚えや、読ませてもらった記憶がありません。
おそらくどの人も、書き上げることができなかったのではないかと思います。
では、なぜどの人も書き上げられなかったのか、推察してみましょう。
どの人にも共通していたのは、質問者さんと同じように、モデルとする人物のことを「品行に問題がある人」「不道徳な人」「親しくつきあいたいとは思えない、厄介な人」と捉えていたということです。
端的に言って「ヘンな人」と思っている人を、自作の登場人物にしてみようと考えたのでしょうね。
こういう発想に至ったのは、おそらく、ストーリーづくりに取り組むうちに、
「自分の発想の枠を超えた、インパクトのあるキャラクターを描かなくては!」
と考えたからだろうと思います。
習作を書いて教室で発表する、といった経験を積むと、「平凡じゃダメ!」「ありきたりでは面白くないんだ!」と感じ、「なにか突飛な要素を入れなくては!」と考え、「だったら、私の知り合いのあの厄介な人をモデルにしよう」という考えに至るのではないでしょうか。
ここまでの考え方が間違っているとは、私は思いません。
ですが、「それだけでは、掘り下げが不十分だろうな」とは思います。
仮にこの状態のままで書き始めてしまうと、期待したほどは面白くならなかったり、そのキャラクターにふさわしいストーリーが思い浮かばなかったりするだろうと思います。
「掘り下げが不十分」とはどういうことなのか?
言い換えるなら、「対象となる人物を表面的にしか捉えていない」ということです。
「実際に本人と付き合うのは嫌だが、作品内に登場させたら面白そう」という見方、考え方は、「相手を評価、ジャッジする視点」と言えると思います。
ですが、その人をモデルにして主要登場人物を描くとなれば、「外側からジャッジする視点」だけでは不十分で、「その人物の内側から物事を見る視点」が必要だと私は考えています。
対象人物の心の内側に入り込み、分け入っていく感覚が重要、ということです。
その前提で、質問者さんにお勧めしたいことは、「対象人物の言動の良し悪しを評価する視点を一旦捨て去り、その人の心に寄り添って、心情を掴み取ろうとすること」です。
最終的には、「対象人物と一体化できた」とまで感じられればベストだと思います。
話をもう少し具体的にしましょう。
仮に、私が以下のような女性を登場人物のモデルにするとします。
「40代既婚女性Aさん。同世代のご主人と仲良さそうに暮らしているが、実は、3人の男性たちと不倫関係にある。3人の不倫相手たちは、30代、50代、60代と、年代がバラバラ。皆、Aさんが既婚者であることは分かった上で付き合っている。ご主人はAさんの不倫に気づいている様子はない。」
(なぜこのような女性を例に挙げたかといえば、多くの人が「不道徳」「人格に問題あり」と見なしそうだからです。)
さて、私がこのAさんをモデルにしたキャラクターを描くならば、例えば以下のようなことを考えると思います。
・Aさんの中に、ご主人への罪悪感はどの程度あるのだろう?
・3人の不倫相手との付き合いは、同じ頃に始まった? あるいは、最初は一人だった不倫相手がだんだん増えていった?
・それぞれの不倫相手と付き合い始めたきっかけは?
・ご主人とのなれそめは?
・Aさんの中で、3人の不倫相手にいわゆる”序列”はある? 「好き」の度合いに差があるとするなら、それは何によって決まっている?
・Aさんは今の状況に満足している? あるいは、もっと不倫相手を増やしたいぐらい? または、できることなら不倫相手たちとは別れて、ご主人一筋にしたい?
・不倫相手の年代がバラバラなのはなぜ? 偶然そうなっただけ? それとも、あえて色んな年代の相手と付き合っている?
・3人との不倫はバレていない状態のままで、ご主人から離婚を切り出されたとしたらどうする? 他に3人も相手がいるから平気? それともご主人とはどうしても別れたくない?
etc…
「3人も不倫相手がいるなんて!」と批判する視点を捨て、こういった疑問への答えを明確にしていくことで、書き手は徐々にAさんの”心の内側”に迫っていくことができるはずです。
「明確にする」といっても、Aさん自身にこれらの質問に回答してもらう必要はありません。
訊けるものなら、訊いてみても良いとは思いますが、たとえ訊いたとしても、その答えをそのまま作品内の登場人物に当てはめる必要はありません。
それよりも、書き手自身が、上記のような疑問への「説得力とリアリティのある答え」をつくり上げていくことが重要だと私は考えます。
Aさんの存在は、いわば「キャラクターづくりの入り口」のようなものに過ぎない、と考えているからです。
キャラクターを掴み切れていない登場人物を生き生きと描くことはできません。
また、主要登場人物のキャラクターづくりは、「そのストーリーを通じて何を描きたいのか? 観客に何を伝えたいのか?」ということと切り離すことができません。
「何を伝えたいのか?」が書き手のなかに存在しないまま、何となく「突飛な人物を登場させれば面白くなるのでは?」とだけ考えても、思うような作品は書き上げられないでしょう。
くり返しになりますが、「身近にいる変わった人、ヘンな人をモデルにする」というのは、キャラクターづくり、ストーリーづくりのほんの入り口に過ぎません。
まずは、
「その人物をモデルにすることで、自分は何を描きたいのか?」
「その人物の信条や、行動原理を本当に自分は理解できているのか?」
といったことを掘り下げてみてはどうでしょうか。
これからもお互いがんばりましょう!
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