ご質問にお答えします!『扇状回想法の書き方を教えてください』
脚本家志望の方から、こちらのご質問がありました。
「扇状回想法」とは?
まず、質問者さん以外の皆さんに、「扇状回想法」についてご説明します。
この手法が使われている作品として、今、私の頭に浮かんだ作品は、映画『アマデウス』です。
ウィーンの病院で、自殺を図った老人が「自分は宮廷音楽家・アントニオ=サリエリだ」と言い、過去を語り始めます。
天才作曲家・モーツァルトとの出会いがサリエリを悲劇に陥れ、やがてそれがモーツァルトにとっても悲劇となっていく過程がサリエリの回想として描かれていくのですが、その合間に何度か「現在のシーン(=老いたサリエリの姿)」が差しはさまれます。
作品全体に占める分量は、現在シーンよりも回想の方がずっと多いのですが、時おり挟まれる「現在のサリエリ」のシーンがちょうど扇の要のような役目を果たし、「現在」と「回想」を行き来するわけです。
このような手法を「扇状回想法」と呼ぶことがあります。
扇状回想法の表記方法
ご質問には「扇状回想法の書き方を教えてください」とあります。
この「書き方」という語が指しているのが、単純に「書き表し方」「表記方法」ということであれば、私からのお返事は「通常の回想と、特に違いはありません」ということになります。
一般的な回想の場合、
〇回想・ABC株式会社・会議室(朝)
のように、回想であることを「柱」で表したり、ト書きに「回想」と書き記したりしますよね。
現在のシーンにはこれらの記載をしなければ、「回想ではない」と読み手に伝わります。
(現在シーンに戻った箇所で、ト書きの一行目に「回想戻り」と書く場合もあります。)
扇状回想法の場合も、これらのルールの通りに表記しておけば、問題ありません。
扇状回想法を用いる場合の留意点
ご質問にある「書き方」というのが、単に「書き表し方」のことではなく、この手法を用いる場合の留意点も含むのでしたら、私からのお返事は、「大半が回想シーンのシナリオのなかに、現在シーンを差しはさむ意味をきちんと設計する」ということになるかと思います。
「現在シーンに存在意義があること」という言い方もできるかもしれません。
現在シーンは分量が少なく、ストーリーの展開も、回想シーンに比べて少なくなります。
それでも、「回想で描かれている情報によって、現在シーンにおける大きな謎が解ける」ですとか、「回想で描かれた内容を、現在シーンの登場人物が知ったことで、その人物が大きな決断をする」等の展開があれば、現在シーンは存在意義を持ちます。
逆に、現在シーンにこれといった存在意義がないならば、この手法を用いる必要はない、ということになるはずです。
補足
念の為の補足です。
私の経験をもとにお伝えすると、「扇状回想法」という言葉は、映画やドラマの制作現場において、一般的な用語とは言えないと思います。
記憶が確かならば、打ち合わせで誰かがこの言葉を使っているのを聞いたことはありません。
決して「この手法が知られていない」ということではなく、用語として知られていない、ということです。
確か、大手のシナリオスクールの初心者クラスのテキストで、この用語が紹介されているんですよね?
私もその本を読んでいるので、たまたま知っていましたが、質問者さんが今後、プロの現場に入ったとして、「扇状回想法」という言葉を使っても通じない可能性が高いです。
これからもお互いがんばりましょう!
脚本、小説の有料オンラインコンサルも行っていますので、よろしければ。
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