”すべて正しい”は正しくない

一か月ほど前、こんなツイートをしました。

これを書いたのは、身近な人との会話や偶然読んだ本のなかで、同じ意味合いのことを見聞きする機会が続いたからです。
その内容は、
「すべてが正しいという状態は、実は正しくない」
ということ。
「正しくない」は、ちょっと表現が強すぎるかもしれませんが、
「正解をたくさんかけ合わせて導き出される結論は、必ずしも最適解ではない」ということですね。

例えばビジネスの世界でも、誰もが「合理的だ」と納得できる要素ばかりを集めると、誰にでも真似のできる商品やサービスができあがってしまう。
作劇も同じで、登場人物のキャラクターにせよ、ストーリー展開にせよ、引っ掛かりどころゼロのものは、「新しいもの」にはなり得ないし、心を揺さぶられたり、わしづかみにされることもないはずです。
あらゆること多数決で決めると、この種のものができあがるのだと思います。

……ということを理解できていても、実際の制作現場で「あえて引っ掛かりどころを作る」のは容易ではありません。
「意味のある引っ掛かりどころであること」を同じ作り手側の人たちに理解してもらう必要があるからです。
「多数決を取ったら否決されるようなこと」をあえて残そうとするわけですから、言葉を尽くして説得しない限り、
「リアリティがない」「普通そんなことはしない」「そんな人、普通はいない」
といった意見に押しつぶされてしまいます。

説得の際に重要なのは、提案者の「伝える力」と「発言力の大きさ」の二点だと思います。
言葉を尽くし、情熱を持って理解してもらおうとすることが大切ですが、現実問題として提案者の発言権が強ければ、
「これで行けるから」
の一言で済んだりもします。
(生前の向田邦子さんは、ご自分の原稿に対して、プロデューサーから「こういうことってあり得ますかね?」とツッコミが入ると、「こんなの世間じゃよくあることよ」の一言で説き伏せたという話も聞いたことがあります。)

私の現状はというと、何とか「伝える力」を伸ばそうと、打ち合わせの度に試行錯誤していますが、「発言力の大きさ」の方も、もう少しはほしいなぁ……というのが本音です。
でも「発言力」の方は、実績を積み重ねることでしか手に入らないんだよなぁ。
一朝一夕ってわけにはいかないよなぁ。
……などと思いながら、本日も粛々と働きます。

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中川千英子(脚本家)
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