小説『すずシネマパラダイス』第十一話
【はじめに】
能登半島の先っぽの町「珠洲(すず)」を舞台にした町おこしコメディー小説『すずシネマパラダイス』第一話~十話を読んでくださった皆さま、ありがとうございます。
おかげさまで、2019年1月25日現在、すずパラのPV合計は10,000超えています。ありがとうございます!
引き続き、より多くの方にお読みいただき、すずパラの輪を広げていきたいと思っています。
今後とも、応援していただけたらうれしいです。
よろしくお願いいたします!
『すずパラ』は「火曜、金曜の週二回更新」とさせていただいており、本日は、第十一話を投稿します。
☆前話までのあらすじだけをお知りになりたい方はこちらをどうぞ。
第十話までのあらすじ:
映画監督になる夢をあきらめ、故郷の珠洲(すず)に帰ってきた浜野一雄は、珠洲に暮らす老人・藪下栄一と共に町おこし映画を制作する事になる。
栄一の余命が限られているらしいと知った一雄は、かつて珠洲の映画館の映写技師だった栄一をモデルに脚本を書き、珠洲の人々と撮影準備を始めた。
栄一は、この映画に大スター・吉原小織に出演してもらいたいと言う。
無謀すぎる夢だと思われたが、一雄が卒業した専門学校の教務課長・白鳥の協力で、奇跡的に吉原小織から「1シーンだけ出演する」と了承してもらうことができた。
そのシーンの撮影が最終日になるようスケジュールを組み、一雄たちは撮影を開始する。
☆以下、第十一話です。
【第十一話】
珠洲(すず)パラに登場する「田代組」と「大沢組」は、飯田商店街の覇権をめぐって争っているという設定だ。
この二つの組の対立はやがて決定的なものとなる。田代組の鉄砲玉が、大沢組の組長を狙うという発砲事件が起きるのだ。
珠洲の人々は永吉を「モナミ館」の映写技師だと信じているが、実は潜入捜査官であり、発砲事件の容疑者を追って聞き込みをする……というシーンを見付海岸で撮るのが撮影二日目のスケジュールだった。
この場面のために、一雄は町のばあちゃんたちにエキストラを頼んでいた。
永吉は、容疑者の写真を見せてばあちゃんたちに尋ねる。
「この男、見かけなかったかい?」
聞かれたばあちゃんたちは、こわばった顔で首を振った。
「そうか。ありがとよ」
「……カット!」
とたんにばあちゃんたちは緊張が解け、笑顔になった。
「ああ、ドキドキしたわぁ」
「わたしもぉ~」
そんな二人を見て、一雄はカメラマンの田中に言う。
「カメラ回っとらんと、いい顔になるがになぁ」
「まぁ、緊張するがも無理もないわい。突然の銀幕デビューやさけなぁ」
その瞬間、一雄はあることをひらめいた。
「田中さん、ちょっとやってみてほしいことあるげんけど……」
一雄は背伸びをし、長身の田中の耳元でアイデアをささやく。
「……なるほど。任せとけ」
そして一雄は、ばあちゃんたちに声をかけた。
「すんません。もういっぺんだけ、お願いします!」
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細かいトラブルは次々に起きたが、撮影はなんとか十日目を迎えた。
この日は商工会議所の会議室借りており、「家具とインテリアの店さかぐち」を営む坂口洋平の指示のもと、スタッフが模様替えを行った。会議室を田代組の組事務所に設えるためだ。
準備が整うと、組長の田代と若頭が密談をするシーンに取りかかった。
このシーンには、商工会メンバーが出演する。組長は保険代理店経営の清水で、若頭が「ランタンの宿」の社長、織田だ。二人とも理恵子のメイクで、強面のヤクザになりきっていた。
「おい、何モタモタしてやがる! とっとと組長の大沢のタマ取りゃあ済む話だろうが」
清水は昔は俳優志望だっただけあって、芝居が堂に入っている。
「それが……大沢の後ろに、もう一人黒幕がいるようでして」
真面目な織田は、この日に備えてヤクザ映画を観まくり、役作りしてきていた。
「なにぃ? 黒幕だぁ?」
「はい、その正体が、どうにも掴めねえんです」
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撮影十二日目は、大規模なロケシーンだ。モナミ館前に五十名のエキストラを集め、「映画を観終えた観客たちがモナミ館から出てきたところで銃撃戦が始まり、一同が逃げ惑う」という場面を撮る。
「みなさん、今日はご協力ありがとうございます!」
一雄は拡声器を使ってエキストラたちにあいさつをした。
事前に「昭和三十年代後半に見える服装で来てほしい」と頼んであったため、家の古いアルバムをお手本にアイビールック風でキメてきた若者や、しまい込んでいたファンキーハットをかぶってきた年配の男性など、皆、五十年数年前の雰囲気をうまく作りだしてくれていた。
「みなさんには、清美さんのカチンコを合図に、逃げ回ってもらいます。すぐそばで銃撃戦が始まったって設定なんで、悲鳴を上げたり、大騒ぎしたりして逃げてください」
エキストラの中には、晴香の姿もある。晴香は実家の母から、ウエストを絞らないデザインが特徴的な「サックドレス」を借りていた。
「ねえ、お父さん」
晴香は、エキストラたちから離れたところにいる耕平に呼びかける。
「お父さん、やっぱり一緒に出よう」
「いや、わしは様子見に来ただけやさけ」
ふだん着の耕平は、慌てて遠ざかっていった。
準備が整うと、清美が大声を張り上げる。
「では一度、リハーサルをお願いします!」
一雄は、清美がカチンコを構えたのを確認し、スタートをかけた。
「用意、スタート!」
カチンコの音と共に、町の人々が走り出した。みんな悲鳴をあげ、切羽詰った顔で逃げ回っている。
これならうまく行きそうだと、安堵しながら一雄はカットをかけた。
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翌日の撮影は日中だけだった。一雄は夕方、父と一緒にのと里山空港へ出かけた。「年老いた永吉」の役を引き受けてくれた悠々亭まん福師匠を出迎えるためだ。
二人で到着ロビーにいると、ダウンジャケットにジーンズという格好のまん福師匠が出てきた。
「師匠! お久しぶりです」
「どうも、ごぶさたしています」
六十八歳だと聞いているが、愛嬌のある顔立ちで年齢よりも若く見える。
落語家の人って、いつも着物ってわけじゃないんやな、と思っていると、父が師匠に向かって言った。
「息子の一雄です。こんな若造ですが、珠洲パラの監督です」
「はじめまして、浜野一雄です。今回は引き受けていただいて、本当にありがとうございます」
「いやあ、こっちがお礼言いたいぐらいですよ。なにしろ私、サオリストなんでね」
ここにもまた、サオリストがいた。急な出演依頼だったが、師匠は何とかスケジュールを調整して受けてくれたと聞いている。それも、小織ちゃんに会いたい一心でのことだったのだろう。
さすがは小織ちゃんや、と一雄は改めて思った。
「そしたら、旅館まで車でお送りしますんで」
耕平が言って、三人は駐車場へ向かった。
まん福師匠には、『電光石火の風来坊』の撮影隊も滞在した谷山旅館に泊まってもらうことになっている。
明日の昼過ぎには、いよいよ小織ちゃんも珠洲入りし、夕暮れの仁江海岸でラストシーンを撮影する。そのシーンを持って、『珠洲シネマパラダイス』はクランクアップするのだ。
師匠を送り届けた後、一雄と耕平は、旅館の表に停めた車に乗り込もうとしていた。
一雄は、運転席のドアを開ける父の背中に向かって小声で言った。
「あの……ありがと」
師匠に代役を頼むと言ってくれたときから、ずっと言わなくてはと思っていた。思いながら、きっかけが掴めずにいた。
耕平が、ゆっくりと一雄の方に振り返る。
「……なんや。気持ち悪いな」
そう言いつつ、微かに微笑んでいる。父の笑顔を見るなんて、いつ以来だろう? そう思うと、一雄も自然に顔がほころんだ。
「早よ乗れ」
「うん」
二人は車に乗り込み、母が待つ家へと向かった。
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夕食後、一雄は自室で、明日の撮影用の荷物の確認をしていた。
すると、階下から母の声が聞こえてきた。
「カズちゃーん、谷山旅館さんからお電話やけどぉ」
谷山旅館の女将からの電話を受けて、一雄と耕平は、奥能登総合病院に駆けつけた。
病室に入っていくと、ベッドの上にまん福師匠がいた。右足がギブスで固定され、女将に付き添われている。
一雄たちが旅館を出た後、師匠はすぐ風呂に入り、その後は上機嫌で夕食を取っていたという。
「お夕食のときにお酒、だいぶ召し上がってたんでねえ」
珠洲の地酒を気に入り、飲み過ぎてしまった師匠は、旅館の階段のてっぺんから落っこちたのだ。
「申し訳ない……」
師匠は小さくなって頭を下げた。
「ほんでも師匠、足の骨折だけで済んで、不幸中の幸いでしたよ。頭でも打っとったら大変でしたがいねぇ」
女将のなぐさめも、ろくに耳に入らないようで、師匠はますます小さくなって謝り続けた。
「誠に面目ない……」
一雄は、すぐに珠洲パラ制作チームの面々に一斉メールを送った。代役のはずのまん福師匠に、さらに代役が必要という緊急事態なので、対策を話し合うために、みんなに民宿やぶしたに集まってもらった。
「残り1シーンになって、こんなことんなるとはなぁ」
遠藤の声にはいつもの張りがなく、みんなの表情も暗い。もちろん一雄もショックを受けていたが、こうなったことを恨むより、解決策を考えることに専念したかった。
「明日の昼には小織ちゃんが来る。付き人さんが、小織ちゃんめちゃくちゃ忙しいがに無理やりスケジュール空けてくれたって言っとったし、延期なんてあり得んと思う」
「そう言うてもねぇ……」
清美もいつもの勢いがなく、ため息まじりだ。
「今から頼んで、明日きちんと小織ちゃんの相手役できる人なんておるかなぁ」
誰も返事をせず、重苦しい沈黙が流れた。
――そこに、一人の男の声が響いた。
「わしに、考えがある」
声の主は耕平だ。病院で別れた後、家に帰ったはずだったので、一雄は驚いた。
「一雄。なんとかできると思うさけ、ここはわしに任せてくれんか」
父はまっすぐにこちらを見据えている。その気迫に押されて、一雄は答えた。
「ああ……じゃあ、お願いします」
険しい顔で父はうなずき、踵を返した。
唐突に現れ、唐突に去っていく耕平の後ろ姿を、一同は呆気にとられて見つめていた。
代役は耕平がなんとかしてくれると信じよう、ということで、緊急ミーティングは解散となった。
「とにかく今晩は、明日に備えてゆっくり休むことにしよまいか」
中尾が言うと、皆は玄関に向かい、栄一も表まで見送りに出た。
「ほんならお休み」
帰っていく面々を見送り、栄一がゴローの様子を見ようと犬小屋に近づいたとき、背中と腹に激痛が走った。
うめき声を漏らし、栄一はその場にうずくまった。
医者に言われた通り、ちゃんと薬は飲んでいる。なのに近ごろ頻繁に、この痛みが襲ってくる。幸い、一雄たちには気づかれていないようだが……。
ゴローがそばに寄ってきて、心配そうに鼻を鳴らした。
「大丈夫や……」
栄一は、ゴローと自分にそう言い聞かせる。
痛みは徐々に引いていき、なんとか立ち上がることができた。
<第十二話に続く>
※今回のトップ画像は、「奥能登の揚げ浜式塩田」です。
※この物語はフィクションです。「珠洲市」は実在する市ですが、作品内に登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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