〈インターン募集〉世界を広げる体験をともに
東京駅から電車で約1時間。
いったいどこに何線があるのかもわからない、まるで巨大な迷路のような東京駅をさまよい、なんとか電車へと足を踏み入れる。
はじめのうち、多くの人とともに詰め込まれた車窓から見える景色といえば、所狭しとそびえ立ち、街を埋め尽くすビル群のみ。
けれど、時間が経つにつれて車窓をすべっていく景色は移りゆき、大きく開けた空と緑が目を楽しませてくれるようになっていく。
ふと気がつけば、あんなに車内の大半を占めていた人々と、彼らがまとっていたせわしない雰囲気は姿を消し、車内の空気がどことなくやわらかくなったような。
さて、そろそろわたしも、電車を後にする時間。
国立市に位置する、谷保駅。読み方は"やほ"。
太陽のひかりをうけて輝く木々と、穏やかな町なみ。多くの人が思い描くであろう"東京らしさ"とはかけ離れたこの町にひっそりと佇む、小さく、けれどあたたかい書店。
それが、今回わたしがインターンを体験させていただいた、小鳥書房。
店主は落合加依子(おちあいかよこ)さん。
みんなからはかよさん、かよちゃんと呼ばれているそう。わたしもかよさん、と呼ばせていただいている。
19歳。大学2回生の夏休み。あと数ヶ月で迎える20歳という節目と、終わりの見えはじめた学生生活。
わたしはどんな大人になりたいのか、どんな職業に就きたいのか。想像し求めてきた理想像と、現実をへだてる大きな流れ。見えてくる自身の限界。
求める将来の自分を手に入れるためには、こうしなくてはいけない。こう在らなくてはいけない。
もはや強迫観念ともいえるような考えにとらわれ、大幅にかたよった価値観にこだわり、その結果どんどん視界が狭まり、余裕を失っていた最近のわたし。
そんな自分を手放したくて、もっと柔軟な人になりたくて、そのために、なにかきっかけがほしくて。
そんな思いから今回、わたしはインターンとして小鳥書房を訪れた。
そして、そんな小鳥書房のインターンについて、そしてインターンにこめられた思いについて、かよさんにお話をうかがうことに。
たったひとりが喜んでくれる本づくりのために
まずは小鳥書房の名前にこめられた、本づくりへの思いについてうかがった。
"たったひとりが心から喜んでくれる"本づくりを目指したい。
それこそが、かよさんが小鳥書房をはじめる大きなきっかけとなった思いだそう。
じつはわたしは今回、その"たったひとりが喜んでくれる本づくり"という言葉に惹かれて、インターンへの参加を決めたのである。
そこにこめられた思いはなんなのか。それについてかよさんに尋ねた。
出版社は大きくなればなるほど、抱える人をふくめ必要なものが増え、それに比例して必要な費用も増えていく。
そうなると、多くの人に手に取ってもらえる、つまり多くの利益を生み出してくれる本しかつくれなくなっていくのは仕方のないことで。
もちろん、そんな風に多くの人へとひらかれた出版社、そしてそこから生み出される出版物は、たくさんの人のほしい!を叶える必要な存在。
けれどすべての出版社がそんなふうに多くの人のみを目指した本づくりを行ってしまったら、少ない人が、そしてたったひとりがほしいと望む本は、この世に生み出されなくなってしまう。
「多くの人には届かないのかもしれない。けれど、その本を手にしたたったひとりが思わず涙がでるほどよろこんでくれるような、そして心から大切にしてくれるような、そんな本をつくりたいんです」
そう、かよさんは語る。
だからこそ、"小ささ"を大切にしたいのだと。
また、鳥の中には、植物の種を運ぶ種が存在する。そんな鳥たちによって運ばれた種は、その種を生み出した木も、そして種自身も知らないような土地で芽吹くことがある。そうして新たな木が、そこで育っていく。
きっとそれは、本も同じで。
その本を生み出した著者も、販売する書店も、想像もつかないような場所へと運ばれた本が、そこで何かを芽吹かせるのかもしれない。
やわらかいまなざしとともに、かよさんは続けた。
「小鳥書房の本も、そんな存在になれたらと思って」
そんな"小ささ"にこめられた思いと、種を運ぶ鳥の営みが、書店の名前の由来になっているそう。
また、小鳥書房のおとなりでは「コトナハウス」という、1階のリビングを地域のこどもとおとなの方に開放している、コミュニティ型賃貸シェアハウスがある。
コドモとオトナが、まなんで遊ぶシェアハウス。
そんなコトナハウスとの名前の響きの一致も、小鳥書房の由来のひとつみたい。
本にたずさわる仲間を増やしてゆく営み
小鳥書房のインターンは、1日と1週間の2種類があり、1日の場合は水〜土(13時〜19時)のいずれか。
1週間の場合はコトナハウスに滞在しながら、もしくはかよさんの自宅の一室に滞在しながらのインターンになる。
今回わたしは、かよさんの自宅の一室に滞在しながら、1週間のインターンを体験させていただいた。
なんとこれまでに、都内外に住む高校生、大学生、社会人たち、計250人以上の方を受け入れてきたそう。
インターンを通じて体験できる業務はさまざま。制作物の企画や校正、編集、取材、撮影。原稿作成にデザイン、そして本屋の運営。インターン生それぞれの希望にあわせて体験内容を考えている。
また小鳥書房には本屋だけでなく、訪れるお客さんにゆっくり滞在していただける喫茶スペースがあり、コーヒーやアイスキャンデーを提供している。
そのコーヒーを淹れて、お客さんにお出しする作業に携われたりも。
わたしも、今回のインターン滞在中に何度かコーヒーを淹れて、お客さんに提供させていただいた。
そして、この小鳥書房のインターンは参加する方からお金をいただくかたちで行われている。
「お金をいただくことで、みなさん本気で来てくれる。だからこそ、いい体験をしていただけるように、わたしも本気で向き合える。また、インターンの方にこの本屋を金銭的に支えていただいている面もあって」
かよさんは続ける。
「本屋や編集に興味がある方が来てくれることで、インターンを終えたあとも本にたずさわる仲間が増えていくことも嬉しいです」
進む方向を選ぶための、出会いの場として
どうして小鳥書房ではインターンを受け入れているのか。
また、そこにはどんな思いがこめられているのか。それについてかよさんにおうかがいした。
はじまりは、大学生の頃に行っていた、国語の塾の先生のアルバイト。
小学生を相手に、国語を、そして言葉を好きになってもらいたいと悩むかよさん。
「自分の言葉で世界をつくれるということを知ってほしい」
そんな思いからはじめたリレー小説は、最初は国語に興味を持てなかった子どもたちの言葉への興味を育んでいく。
また、言葉が好きになることで伸びた読解力は、国語のみならずほかの科目の成績もアップさせることに。
そんな子どもたちの姿を目にして、かよさんは思ったそう。
「子どもたちの感性を言葉によって育む仕事に関わることを、"学び"にたずさわることを、生きていくうえでの自分の軸にしたい」
そこで、童話作家をめざして上京し、作家になるためにはまずは裏側を知ろうということで児童書専門の編集プロダクションに就職。
編集者として充実した生活を送っていたものの、編集プロダクションでは本が生まれてから死ぬまでの過程すべてに責任を持つことはできない。本のすべてを見届けたい、責任を持ちたいという思いから大手出版社に転職するかよさん。
しかし、たしかに出版社では本が生み出され、世界へと送り出されていくすべてを担うことはできたけれど、"子どもたちの感性を言葉によって育む"という望みは達成できなくて。
そこでかよさんは、2015年に出版社に勤めながら、ライフワークとしてコトナハウスと出版社「小鳥書房」を設立。
コトナハウスでは、子どもと大人が学んで遊ぶ場を提供することができる。自身で出版社を立ち上げることで、編集や書店に関わる仕事に興味を持つ人、志す人たちに、道を示すことができる。
そうすることで"学び"にたずさわることができるのだと、かよさんは語る。
「もちろん、わたし自身がインターンの方から学ぶこともたくさんあって、貴重な経験になっています」
また、自信が無くて、自分の可能性を狭めている人がいると思うけれど、そんな必要はないのだと。インターンに来ていただくことで、そんなふうに生き方に悩んでいる人の世界を広げることができる気がしているのだと、かよさんは語る。
「生き方には選択肢も可能性もありすぎて、悩んでしまう。そんな中で自分が進む方向を選べるようになるためには、人と会うか本を読むかしかないと思っていています。だから、そんなふうに生き方に悩んでいる人が、インターンをきっかけとして小鳥書房に足をはこんでくれたら」
かよさんの言葉のなかでわたしにとって印象的だったのは、 「進む方向を選ぶためには、人と会うか本を読むしかない」という一言。
小鳥書房は、進む方向に迷う人たちに、本や人との出会いの場を提供してくれる場所でもあるのだなと、自身がここで過ごした日々を思い返しながら改めて思う。
インターンの詳細
さいごに
出版社に就職したい。大手の会社に就職したい。
だから、大手の出版社にどうしても行きたい。
大手の出版社が厳しいのなら、出版社は諦めてどこか違う業種の大企業に就職するしかない。
けれど、自分にそんな資質があるとはとても思えなくて、どうしたらいいのかわからなくて。
そんな思考にとらわれ、視界が狭まり、それ以外の選択肢が見えなくなってしまっていたわたし。
色々な生き方があるということ、選ぶことのできる道はたくさんあるということ。
自身の見えている世界が、すべてではないということ。
ここ小鳥書房で過ごした1週間。その日々を通して体験したこと、出会った人たち、交わした会話や目に映る景色。
それらのすべてが、わたしの世界を広げてくれたような。当たり前のようで、けれど上手く飲み込めていなかったたくさんの事実と改めて出会わせてくれたような。今はそんな心持ちを抱えている。
出版、編集、そして書店に興味がある方はもちろん、自身が身を置く世界を広げたい人にも、ぜひ一度訪れてみてほしい。
きっと、自身の世界を広げるなにかと出会えるはずだから。
インターンを考えている方に向けて、なにか一言お願いしますとかよさんにリクエストしたところ、こんな言葉をいただいた。
「きっと必要な出会いがあると思います。だから安心して来てください」
執筆者 : 愛子(小鳥書房インターン)
大阪在住、同志社大学文学部2年。
好きな作家は村上春樹、川上未映子さん。
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