「小鳥書房アパートメント」を3/10開店します
先週、「小鳥書房はいったん閉店します」と投稿してから、ご心配くださった何人かの方から、あたたかいご連絡をいただきました。「閉めちゃうの?」と慌てて会いにきてくださる方や、応援の気持ちでオンラインショップからご注文くださる方も。気にかけてくださって、いつも本当にありがとうございます。みなさんの優しさに救われています。
今後のことをきちんと書くのが遅くなってしまいましたが、現時点で決まっていることをこちらにまとめておきますね。
3月10日、「小鳥書房アパートメント」を開店します
2025年1月26日(日)、小鳥書房の本屋を閉店します。
小鳥書房の本屋を閉めた1か月半後の3月10日、小鳥書房の建物は「小鳥書房アパートメント」という名称に変更し、新たなコンセプトを持った場所にリニューアルします。そして、1階と2階にそれぞれ別の本屋さんが入居します。
「小鳥書房の店舗を一時的に閉店しようと思っていて、この場所を引き継いで本屋を開いてくださる方を探している」というわたしの声に呼応する形で、「やりたい!」と手を挙げてくださったおふたりには感謝しかありません。
1階・2階に入居してくださるおふたりと相談を進めていまして、これまでよりもずっと魅力的な場所になりそうです。
小鳥書房の本屋としては、1階の新しい本屋の棚主として継続したいと思っています。また、新しい本屋の店番として定期的にお手伝いしつつ、変わらずインターンさんの受け入れも続けられる見込みです。
なので、本屋としての機能はそのままに、関わる人も増えて安定感が増し、よりよい店づくりをしていけそうな期待でいっぱいです。
とはいえ、新しいものをつくっていく過程で、摩擦が生じることも今後あるかもしれません。一歩一歩、いい場所に育てていきたいです。
2階まちライブラリーは、2階に入居される本屋と同居する形で続いてゆく見通しで、室長の林さんと今後を模索しています。なにか動きがある場合は、また改めてお知らせさせてください。
小鳥書房の本屋を(いったん)閉店する理由
本屋をもう続けられない、と感じたのは今年の夏でした。5月に緊急帝王切開で娘を出産し、そのタイミングで小鳥書房の運営体制に思わぬ変化が起こり、腹部の傷口が猛烈に痛むなかで急遽、産後1か月ほどで店番に復帰しました。
自分の店に早々と復帰できたことは嬉しかったものの、時を同じくして思いがけない負の連鎖が起こり、心身ともに限界でした。
店の人間として店頭に立つとき、小鳥書房という出版社を背負って誰かと関わるとき、わたしが弱音を吐いたり口撃したりすることはありません。周りを心配させるわけにはいかないし、必要以上におおきな声で「こんにちはー!」と言いながら、できる限り真面目に、周囲の方の優しさに応えようと心がけています。
時々、誰かから不用意に向けられる言葉には真正面から傷つきますが、それを相手に伝えることなく飲み込むようにしています。自分の怒りや傷つきをいちいち表明して波風立てる前に、こちらが相手の望むものを差し出すほうが安全だからです。その冷静さをある程度は持っていると自覚しています。でも飲み込んだ怒り悔しさ納得のいかなさは胃のなかに収めたと思ってもふいに喉の奥から迫り上がってきて口いっぱいに溢れ返り、その酸っぱさを慌てて何度も飲み下します。
出版社を続けてきた9年間、本屋を続けてきた6年間のなかで、飲み込んだ悔しさはいくつかあって、でも根が阿呆で忘れっぽいのでちょっと時間が経てばまた新しい楽しさを見つけては、子どもが公園の砂山で時間を忘れて遊ぶように、夢中になって出版社と本屋を続けてきました。
それでも、納得のいかない出来事や言葉は不定期にやってきて、そのたびに途方もない酸っぱさを飲み下します。気づけば胃はぼろぼろ。目の前の誰かに喜んでほしくて、砂山で城をつくっては「こんなのできたよ、どう?」っておずおず見せて、相手から土足で城を踏み潰される(と感じる)ような経験が何度か繰り返されました。
今年の夏、もう、自分に負荷をかけるのはいったん辞めようと思いました。
わたしは好きなひとたちと、楽しくこの店や出版社を続けたいだけ。そのためにすべきことを整理して、体制を整えなきゃいけないと思いました。
わたしにとって小鳥書房の本屋は、なくてはならない店です。この小さな店があることで、訪れるお客さんたちのことを好きになって、谷保の町が大好きになりました。
開店当初から宣言していた「50年続く店にしたい」という気持ちは変わることはありません。
だからこそ自分自身の心に負荷のかからない形で、純度100%ピカピカの楽しい場所になんとかして戻したいと願っています。
そんな気持ちから、この場所を半分手放して、本屋の運営を別の方にお任せしたいと思うようになりました。
小鳥書房の建物は、この場所を営んでいた「スナック萌」の美穂子ママから引き継がせていただく形で購入しました。
ダイヤ街商店街の仲間として存在していたスナック萌が、1週間後に閉店して売りに出されると知ったとある冬の日、反射的に、
「スナック萌を継ぐつもりで、ここで本屋をやらせてください!」
と直談判して、「おちあいさんにならお任せできます」と優しく声をかけてくださった美穂子さんの言葉は、いまもわたしの中心にあります。5月に産まれた娘には「萌笑(もえ)」と名づけました。
同じくダイヤ街商店街で50年以上開店されていた手芸店「むつみや」の店主・徳代さんが亡くなる前に「ダイヤ街のこれからをよろしくね」と言って手を握ってくださったことも、思い出すだけで胸が熱くなる大切な記憶です。
なにかどうにもならない理由がない限り、先輩たちから託された、この商店街を思う気持ちを捨てることはないでしょう。
そのためにも自分に嘘をついてはいけないのだと思いました。納得できない状況でも笑顔で場を維持していくことはできます。ただ、無理をして維持している場では、お客さんに対しても嘘をついている気持ちになってしまう。そんなふうに続けていても、胸を張ってカウンターの内側に立ってお客さんをお迎えすることができそうにありません。背中を丸めて自信なさげに店主を名乗りたくないので、いったん店の運営から離れさせてください。
50年続く店にしたい、ばあちゃんになってもこの店とこの町の変化を見ていたい。いま店に来てくれている人たちもばあちゃんじいちゃんになっているだろうけど、あんなこともあったねえと茶でも啜りながら話してみたい。
自分の所有している建物なので、いつこの場所で小鳥書房の本屋を再開するかは、自由に決めることができます。
戻ってきたいという意思が生まれたら、1階と2階に入居してくださる方と相談しながら、どのような形になるかはわかりませんが本屋を再開します。それが1年後になるか40年後になるかは、まったく決めていません。復帰時期を決めていない身勝手さが、いまはとても心地いいです。
劇場主のコアラになりたい
今後、自分がどんなふうにこの場所と関わりたいかと考えて、映画「SING」の主人公(コアラ)みたいになりたいと思いました。劇場にいてくれる演者やお客さんたちに楽しんでもらえるように、幕を上げたりひとを呼んだりする裏方(=劇場主)。SINGのコアラが最高にかっこよくて、わたしの目指す先にいるなあと思いました。これからはバスター・ムーンを目指します。
ある程度おおきな劇場にしたいので、あと10年以内に、ダイヤ街商店街のどこかにビルを建て、「小鳥書房ビル」として場を開きたいと考えています。なにかをしたいひとたちにそのビルの部屋をお貸しして、ここにくれば思いを形にできる・楽しい出会いがあると安心してもらえる場所をつくりたい。誰かの夢が自然とかなう場所になったら嬉しい。
そのために微力ながらわたしにできることをすべく、なるべく最短距離で進みたいと思っています。まずはこの「小鳥書房アパートメント」から。
美穂子ママに、徳代さんに、そしていつも優しくしてくださるみなさんに、恩返しをしていくことを諦めないでいたいです。
小鳥書房の出版社については、これまで以上にいい本を刊行して、丁寧に広く長くお届けしていきます。
これからもどうかよろしくお願いいたしします。
小鳥書房店主 落合加依子拝