おいしい空気のあるところ
高梨さんのカフェが潰れたと知って、優は駅へ向かう途中、遠回りして見に行った。まっさらな陽射しがいちめんの窓から射し込み、無垢材のひろいテーブルと北欧風の椅子の足を濡らしている。革張りのソファのかげには葉にうっすらと埃をかぶった観葉植物の鉢植えがあって、でも高梨さんはきっとこれを取りに来ない、と優にはわかる。こうして他人の淡い不幸をのぞく自分に後ろめたさを感じながらも、どこかほっとしている。扉に貼られた「閉店のお知らせ」を眺めながら、もしも煙草が吸えたらこういう時に吸うんだろ