映画「シン・仮面ライダー」感想

 シン・仮面ライダー見てきました。ほとんど同シリーズに思い入れがなく、「俺は太陽の王子」などと言いながら界王拳みたいな技を使うライダーしか記憶にない人物による感想となります。キメキメの画角とカット割の連続に、感情ではなく反射の応酬によるドラマがインストールされた「きれいな外殻をした昆虫」、さらに内容物がほぼ昭和特撮への偏愛のみで構成されていることを勘案すれば、「きれいな外殻をした昆虫標本」のような映画でした(バッタだけに)。怖い人を招きよせる呪文なので短く婉曲的に言うと、「他人のエモーションに鈍感な、型番偏愛のロコモーション好き」が絶賛しそうな作品に仕上がっています。何度でも繰り返しますけど、監督は絵作りの奇才ですがシナリオを書く能力は絶無なので、ちゃんとした脚本家と組むべきでしょう。

 「他人の心がわからない」「世界ではなく自分が変わりたい」「人生に無駄なことなどひとつもない」ーー終盤、上下段への回転攻撃と崩拳のリピートによるラスボスとの鉄拳みたいな戦闘から、なぜか突然まったく理由がわからないまま、グレコローマンスタイルへと移行した後の主人公の台詞なんですけど、監督は本当に真ッ正直かつ「成長しない人」ですね! シンエヴァへの酷評にダメージを受けた結果と推察いたしますが、還暦を過ぎた人物の内面が掛け値なしにこのまんまなのだとすると、オタクの人生の道行きとして教訓を得ようとした場合、なんとも暗い気持ちにさせられてしまいます。不自然に浮いているエフェクトとか、唐突なロケーションの瞬間移動とかもたぶんわざとやってて、「ウルトラマン飛行形態フィギュアの縦回転」みたいに参照するオマージュ先があるのでしょうが、もはやそれを調べる気にはなりません。本編であれだけ使うのを我慢していたオリジナル主題歌についても、エンドロールで3曲たて続けに流したのには、ジョビジョバとズボン内に失禁する監督の弛緩した微笑が脳裏に浮かんでしまい、気難し屋の眉間に刻まれたシワは否応に深まりました。

 昭和の頃って、前日の番組がクラスの話題だったり、共有する知識の前提がテレビ由来だったじゃないですか。それを究極にまで濃縮したのが、本作の監督を頂点とする特撮やアニメのオタクだったと思うんです。本放送を逃せば視聴のハードルが一気に高まるため、昨今の「ながら見」や「倍速視聴」とはまったく性質を異にした、台詞や絵のタイミングをすべて暗記するような視聴が行われ、マニア同士なら脳内にデータベースと化したそれらの引用だけで会話を成立させることができた。その高速で行われる「反射の応酬」がコミュニケーションの型で、ついてこられなければアイツは「薄い」とか「ヌルい」とか、仲間内で馬鹿にされる。シン・仮面ライダーの会話劇に「特撮とアニメのみを学習対象としたチャットAIによる出力」のような不自然さを感じるのは、まさにそういった「昭和オタクの作法」を「シナリオ執筆の作法」と勘違いしていることに加えて、意見を言えるチェッカーが監督の周囲にもはや存在しなくなっているからでしょう。

 本作を視聴する中でもっとも怖かったのは、キャラ立てに「あらら」を連呼するハチ怪人の容姿が、若い頃の宮村優子にソックリだったことです。この恐怖の中身はたとえば是枝作品の子役、特に女児について同じ傾向の顔が選ばれ続けることへ抱くそれと同質のものだったことを、皆様にお伝えしておきます。劇場で思わず「こっわ」と大きめの声が出てしまったのですが、近くの席にいた方々には、この場を借りて改めてお詫び申し上げます、ガクッ。あと、ヒロインに向けるカメラがいちいち性的な気配をまとっていて、後半のビデオレターでそれはエクスタシーの絶頂へと達するのですが、ライダーマスクがVRゴーグルみたいなものだと判明したいま、監督の次回作としてヤングMIYAMOOにクリソツの新人、おっと失礼、シン人を発掘してのVRアダルトビデオを提案しておきます。あまりにビッグネームとなった彼に、業界の方々はオファーを躊躇するでしょうが、そのシン人を伴って挨拶に行けば、ぜったいに引き受けると断言しておきましょう。

 それと、些末なことながら気にかかったのは、主役の子がアップで映ったときに、ずっと生まれたての子鹿のようにプルプル震えていたことです。一瞬、「寒いのかな?」とも考えたんですけど、同じ場面におけるベテラン俳優たちの所作は堂々としたもので、もしかすると偏執狂かつ編集狂の監督から現場で一人だけリテイクをくらいまくった結果、演技することが怖くなってしまったんじゃないかなーと思いました。

質問:最近VRでのAVを初めて体験したばかりだったので、ヒロインのメッセージの場面は「ヴァーチャルAVみてえ」と感じましたが監督のAV監督転進は思い至りませんでした ぜひ見てみたいものです
回答:旧エヴァのときもテレクラ遊びを公開したり、アスカのエロ同人をチェックしたりしてましたね。菜食主義を前面に押し出すことでごまかそうとしていますが、人間のベースは「酒とセックス」でできていると思ってます。さすがに実名で撮ってくれる気はしませんけど、「母乳せせせせ」みたいな変名でローアングルへの異様なこだわりを見せる監督が彗星のごとくアダルトビデオ業界に現れたら、それはまぎれもなくヤツです。ちなみに超新星のごとく現れたら、それはシンカイ=サンです。

質問:空母そそそそ覚えてる人がいたことを実感できてむしろおれは今喜んでいます……
回答:ホホホ、長くオタクをやっている者にとっては、ほんのたしなみのような知識でございますよ。最近ショックを受けたのは、「片桐彩子日記」を知らない人がフォロワーの半数を占めていたことです。記憶にあるバナーを探そうと検索をかけても、あらかじめそんなものは存在しなかったかのように、どこにも見当たらないのです。ほんの二十年ほどの時間しか経っていないのに、大海嘯に洗われた絶海の孤島のごとく、その植生ごとすべてが消滅してしまうなんて、想像だにしませんでした。あの頃、インターネットは永遠の同義語だと信じていたのに……。

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