「公園通りクラシックスProject 佐藤紀雄 公園通りプロデュース シリーズVol.17」
連日の暑さで停滞気味の脳みそには、現代音楽の刺激が必要!
ということで、真昼の渋谷に行ってまいりました。
トロンボーンと二十五絃箏。
この組み合わせを聴くのは初めてです。
トロンボーンは村田厚生さん。
二十五絃箏は、実は密かに大ファンの木村麻耶さん。
木村さんは、演奏はもちろん、歌声も大好きなのです。
演奏された4曲、いずれも、曲も楽しく演奏も素晴らしく、とても楽しかったです。
一人でしたので、静かに行って静かに帰ってきましたが、帰りにはスクランブル交差点の真ん中で「おもしろーい!」と叫びたくなるほどの大興奮でした。
1曲目「コトロン」
箏とトロンボーン、から付けられたタイトルとのこと。
スライドによって、無段階に音を作れるトロンボーンと、
絃を押したり引いたりこすったりして、自由に音を作れる箏。
お互い何ができるのか、どんなことができるのかを、ちょっと得意げに、自慢げに、披露しあいます。
その掛け合いがコミカルで、2つの楽器のコントを見ているようでした。
この後続く曲を聴く前に、まずは2つの楽器の特性を把握できました。
2曲目「フロットラ集より」
作曲者バルトロメオ・トロンボンチーノは、イタリア・ルネサンスの作曲家であり、トロンボーン奏者。
フロットラは、当時イタリアで人気のあった世俗歌曲、とのことです。
村田さんは、楽器を現代のトロンボーンから、当時用いられていたサクバットに持ち替えられました。
シンプルな見た目に、軽やかな音色。この曲にピッタリです。
木村さんは二十五絃箏ですが、当時はリュートで奏でられた音楽なのでしょうか?
音が飛び跳ねるような楽しげな演奏に、美しい声。
渋谷の雑踏はすっかり忘れて、ルネサンス期イタリアのサロンにお邪魔している気分になりました。
3曲目「点と線、あるいは月と皿」
とてもとても楽しい曲。
トロンボーンも二十五絃箏もあらゆるテクニックを駆使して、様々な音を奏でます。
演奏前に作曲者から解説がありました。
ちゃんと聞いていたつもりなのですが、例のごとく、勝手な妄想世界に入り込んでしまいました。
本当はそんな曲ではなかったのかもしれませんが、以下、全くの独断と偏見による妄想です。
森の中の池のほとり。
昇り始めたばかりの大きな月の光が、池を斜めに照らします。
暗くなってきた森に、人間はいません。
森の生き物たちの時間です。
いろんな生き物たちが少しずつ動き出します。
カエルかもしれません。カッパかもしれません。
この世には、人間の知らない生き物がたくさんいるのです。
水の中、池の畔、その境目、生き物たちがちらちらと姿を現し始めます。
月が高く昇っていくにしたがって、白い光がスポットライトのように真上から降ってきます。
生き物たちは、わちゃわちゃとしゃべりながら、それぞれ今日の仕事に精を出しています。
岸辺を上ったり降りたり、水の中を泳いだり潜ったり、池の周りを走り回ったり。
みんな忙しそうですが、人間はいませんので、安心して賑やかに活動しています。
わちゃわちゃ、わちゃわちゃ。
いつしか月が遠く薄くなっていき、空の下の方がぼんやりと赤くなってきました。
そろそろ店じまいの時間のようです。
生き物たちはそれぞれ身仕舞いをして、順に、森の奥へ、水の中へ、帰って行きます。
朝焼けが池を染める頃、そこにはもう誰もいません。
森の中に鏡のような池があるだけです。
4曲目「外なる世界」
古代(春秋戦国時代から秦・漢時代)中国で書かれた書物「山海経(せんがいきょう)」が題材になっています。
「山海経」は「地理書」と言われていますが、内容は、今いるところからこの先行くと、あんな山があって、こんな生き物がいて、そんな植物があって、、、というのが延々と続き、しかも出てくるものは、妖怪とか神様とかお化けとか?不思議なものが連なっているようです。
今いる世界の「外なる世界」が、どんな世界なのか、トロンボーン・二十五絃箏・声で、延々と語ってくれました。
延々と。延々と。
「さらに東に300里!」
そのうち地球を一周して戻ってきちゃうのでは?と思うほどの、延々さです。
あまりの延々さに、脳みそがぐるぐるしてきます。
「山海経」はいわゆる「お経」ではありません。
しかし、だんだん言葉の意味が分からなくなり、音とリズムがただただ続いていく状態に身をゆだねていると「お経」って、こういうモノなのか、と感じ始めました。
木村さんが演奏前に「長いです」と予告してくれて、覚悟をしていてもこの有様。
でも、この曲を感じるには、これだけの長さが必要なのだと思いました。
おかげで、自分の中の「外なる世界」に出会えたような気がします。
どの曲も、奏者のお二人とも、演奏しながら歌い語り演じてくださり、曲の世界観をたっぷり味わうことができました。
作曲家の方も皆さんいらして、曲の解説・思いを語っていただけて、知らない曲がより一層身近に楽しむことができました。
会場は初めて行きましたが、地下の実験工房みたいですね。
いろんな人がいろんなことをやってくださっている!
暑さボケした脳みそも、活性化されました。
関係者の皆さま、素敵な会をどうもありがとうございます。
今日もまた、幸せな気分で家路につきました。
*箏の波では、演奏会情報をご案内しております。是非、生の演奏を聴いてみてください。
https://gainful-butter-9171.glideapp.io/
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会場 公園通りクラシックス
日時 2023年7月29日(土) 15:00
村田厚生:トロンボーン、サクバット、声
木村麻耶:二十五絃箏、声
プログラム
川島 素晴 / 「コトロン」
~テナー=バス・トロンボーンと二十五絃箏のために(2017)
B.トロンボンチーノ / フロットラ集より(ca.1530)
桑原 ゆう / 「点と線、あるいは月と皿」(委嘱初演)
溝入 敬三 / 「外なる世界」(山海経より第一・南山経)
~二十五絃箏とトロンボーンのための(委嘱初演)
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