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♪と~しの は~じめの CUSTOMとて~♪
まもなく新たな年がやってきます。
新年の歌と言えば『一月一日(いちがつ いちじつ)』。
『一月一日』
https://www.youtube.com/watch?v=uQRZEsg_Od4
歌詞を見てみましょう。
明治26年発表の曲ですから、元々歴史的仮名遣いで書かれています。
「年の始めのためしとて
終りなき世のめでたさを
松竹たてて門ごとに
祝ふ今日こそ楽しけれ
初日の光さし出でて
四方に輝く今朝の空
君がみかげにたぐへつつ
仰ぎ見るこそ尊ふとけれ」
指を折って数えればはっきりしますが、完全な七五調です。
作詞者は千家尊福(せんげたかとみ)という神道家/政治家です。
1番の歌詞を検討してみます。
①年の始めのためしとて
②終りなき世のめでたさを
③松竹たてて
④門ごとに
この①~④がそれぞれ連用修飾句となって「祝ふ」という動詞に係っていると思われます。
以下のように表現することができるかもしれません。
①年の始めのためしとて<祝ふ>
②終りなき世のめでたさを<祝ふ>
③松竹たてて<祝ふ>
④門ごとに祝ふ
そして「祝ふ」は連体形であり、体言「今日」を修飾します。
【①②③④祝ふ】⇒今日
そんな「今日」は「楽し」だと言っている一文になります。
「年始の習わしということで
終わりの無い御治世の喜ばしさを
松と竹で作った飾り(門松)を立てて
それぞれの家ごとに祝う
…そんな今日(一月一日)が取り立てて楽しいことよ」
「ためし」を「習わし」と訳しているのは、これが「試」ではなく「例」の方の「ためし」だからです。
「恒例」の「例」です。
「習わし」は英語ではcustomと言えますので、今回の投稿はcustomから出発します。
custom
ラテン語で「完全に慣れていること」を意味する言葉consuetudinemから来ています。
consuetudinemからcustomまで、よくも切り詰まったものです。
「慣習」
社会で行われている「慣習」「習わし」「為(し)来(きた)り」を表すもので、原義「完全に慣れていること」の「慣」が「慣習」の中に入っていますね。
「They still follow the custom of pinning money to the bride's dress.
(当地では依然として花嫁のドレスにお金をピンで留めるという慣習に従っている)」
(Online OXFORD Collocation Dictionary)
(これはmoney danceと呼ばれる慣習のようですが、「bozphoto & styles」という写真事務所のサイトに『ハワイの州立公園で行われた手作り結婚式 - 披露宴編』という記事があり、そこにmoney danceがどういったものかを説明した文章がありましたので、リンク先をご覧ください)
「慣習」はそれぞれ別のものが複数あると想定されますから、customが可算扱いなのは違和感のないところです。
「The guide offers information on local customs.
(その案内人は地元の慣習についての情報を提供する)」
(ロングマン現代英英辞典)
「習慣」
社会的な「慣習」と共に、個人の「習慣」も「完全に慣れていること」の1つですが、後者の意味ではhabitを使うのがより一般的です。
個別のものでなく集合的に「習慣」を意味するときはcustomは不可算の扱いとなります。
「Custom is second nature.
《諺》 習慣は第二の天性」
(研究社新英和中辞典)
「Custom makes all things easy.
(習慣にしてしまえば何でも簡単にできる)」
(Merriam-Webster)
次の文では個別の習慣になりますので、可算扱いと解釈できます。
「He left the house at nine exactly, as is his custom.
(彼は家を9時きっかりに出たが、それが彼の習慣だ)」
(Cambridge Advanced Learner's Dictionary & Thesaurus)
商店などで
「平素より格別のご愛顧にあずかり、ありがとうございます」
「愛顧」は「平素より(=習慣的に)」特定の商店などで買い物をすることを指しているわけです。
というわけでcustomの出番です。
「We should like to have your custom.
ごひいきをお願いします」
(研究社新英和中辞典)
直訳調では「あなたのひいき/愛顧/引き立てをいただきたいものです」となりましょうか。
「愛顧」という抽象的概念が人間の形を採ると「顧客」となります。
「increase custom
お得意を増やす
lose custom
得意[客]が減る」(同)
ご覧のように不可算の扱いであり、「顧客」を集合的に捉えた表現です。
集合的でなく「顧客」を表現する際には、可算扱いのcustomerにしますが、むしろこちらの単語の方が馴染み深いでしょう。
「A salesman's job is to seek out customers.
セールスマンの仕事は顧客を探し出すことだ」(同)
「関税」と「税関」
「税関のことを、複数形でcustomsという」といった話は割合に知られていて、特に海外旅行をしたことがある人ならそういう表示を空港などで見たことでしょう。
しかし「慣習」/「習慣」と「関税」/「税関」とは、日本語として距離がありすぎて頭の中で結びつきにくい気がします。
小学館プログレッシブ英和中辞典では「(慣習的な)関税」というように、括弧内に「補助線」となる言葉が置いてあります。
「pay customs on jewels bought overseas
海外で買った宝石の関税を払う
pass [go through] (the) customs
税関を通過する」
(研究社新英和中辞典)
customsが、1例目では動詞payの直接目的語、2例目では動詞passの直接目的語となっていますから、前者は「払う」もの=関税、後者は「通る」場所=税関という訳語になります。
「場所」の方のcustomsには「customs house」という言い方がありまして、これだと「関税を徴収する建物」だということがはっきりします。
形容詞用法
「註文の」「誂(あつら)えの」という意味があります。
「a custom tailor
注文服仕立て屋
a custom car
注文製の自動車」(同)
この用法は、今まで見てきた分類からすると「顧客」系であり、「顧客の註文に応じた」と解釈できるでしょう。
「ドリンクをカスタマイズ」などと言うときのcustomizeもこの延長線上にあると考えられます。
「Employees can customize the software to suit their needs.
(従業員は自分の必要に合わせるためにそのソフトウェアを作り変えてもよい)
The basic design of the vehicle has been customized to the client's requirements.
(その車輛の基本設計は顧客の要求に合わせて特製されている)」
(Cambridgeビジネス英語辞典)
形容詞customary
この形容詞はこれまでの話の流れの中で位置づけると「慣習」「習慣」に分類されます。
「It is customary to tip waiters in this country.
ウエーターにチップを渡すのはこの国の習慣だ」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)
「It is customary for me to get up at six.
6時に起きるのが私のきまりだ」
(研究社新英和中辞典)
customaryを英和辞典で引くと「慣習(法)上の」という項目が立てられていて、「customary law 慣習法」という例が載っています。
「Customary law (also, consuetudinary or unofficial law) exists where:
a certain legal practice is observed and
the relevant actors consider it to be an opinion of law or necessity (opinio juris).
(慣習法が成立する条件は、①特定の法的慣行があると認められていること、②関係する主体がその慣行を法的確信だとみなしていること、である)」
(ウィキペディア)
引用文中にあるconsuetudinaryはcustomaryと同じ意味であり、名詞consuetudeの形容詞形です。
では、consuetudeとは何でしょう。
consuetude
あまり見かけない言葉なので発音を確認しますと、[kάnswitjùːd]なのでカタカナ表記すれば「カンスウィチュード」となるでしょう。
意味を英和辞典で確認するとこんな感じ。
「慣習(custom);
(特に法律上の)慣例;
不文律」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)
括弧内にcustomと書かれていますし、意味合いもcustomの所で見た景色と似ています。
それもそのはず、customの元としてご紹介したconsuetudinemと語源的つながりがあるものです。
accustomとその仲間
動詞accustom
customの頭に、toの意味の接頭辞aが付いたaccustomが「慣れさせる」になるのは納得いただけると思います。
「accustom a hunting dog to the noise of a gun
猟犬を銃声に慣らす」
(研究社新英和中辞典)
これは直接目的語(何かに慣れた状態に、誰をするのか)が猟犬という「他者」ですが、その場所に再帰代名詞を持ってきて「自身」の話にすることが多いようです。
「It took a while for me to accustom myself to all the new rules and regulations.
(私はその新しい規則・規制全てに慣れるのにしばらくかかった)」
(ロングマン現代英英辞典)
形容詞accustomed
過去分詞由来の形容詞accustomedは、①人間に使う場合は叙述用法(SVCやSVOCのCになる)で、②物に使う場合は限定用法(修飾する対象の名詞にくっつく)で登場します。
「I'm not accustomed to walking long distances.
長距離の歩行には慣れていない」
(研究社新英和中辞典)
「be used to ▲▲」の意味を習う時に、「be accustomed to ▲▲」と同じですよ、と言われたことがおありかもしれません。
しかし「be used to ▲▲」の方が一般的な表現らしいので、「一般的なもの」を解説するのに「一般的でないもの」を使っているという逆転現象が起きているわけです。
物に使う場合の限定用法「いつもの」「例の」の例文はこんな具合です。
「take one's accustomed seat
いつもの席に座る」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)
フランス語coutume
英語customはラテン語を源流とする言葉が、古い時代の仏単語を経由して入ってきたものですが、その仏単語は現代のフランス語ではcoutumeクチュームという形になっています。
但し、フランス語の方では英語customの使い方の内、もっぱら「慣習」に特化されます。
「C'est【la coutume en Angleterre】de《prendre le thé à cinq heures》.
《5時にお茶を飲むの》は【英国の習慣】だ」
(小学館プログレッシブ仏和辞典;カッコ類は引用者がつけた)
フランス語costumeと英語costume
coutumeと同じ語源ながら、イタリア語を経由した仏単語がcostumeコスチュームです。
元々は「時代・地方・状況などに特有の、慣例的服装」ですので、customとの共通点が見出せます。
「costumes nationaux
民族衣装
costume de cérémonie
礼服」(同)
英語のcostumeもこれは同じことです。
「the costume(s) of the Victorian era
ビクトリア時代の服装.
the national costume of India
インドの民族衣装」
(研究社新英和中辞典)
しかし英語costumeに無い、フランス語costumeの意味としては「スーツ」があります。
「costume trois pièces
三つぞろい(=complet)
costume sur mesure
あつらえのスーツ」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)
ところで、近年は「コスプレ」が、特にアニメ系のものが外国でも行われているそうですね。
『ANIME EXPO 2024 | 4K COSPLAY HIGHLIGHTS | LOS ANGELES ANIME CON』
https://www.youtube.com/watch?v=SEv4YeRbrSk
「コスチューム」と「プレイ」を足したものを約めて「コスプレ」とし、外国に紹介されるときにcosplayというつづりを持ちました。
一方、英語にはもともと「costume play」という言葉があり、それの指すものは「コスプレ」ではありません。
「昔のある時代の衣装をつけて演じる演劇・映画。歴史劇。史劇。衣装劇。」
(小学館デジタル大辞泉)
コスプレの方の「プレイ」はおそらく「遊び」とかの意味合いだと思いますが、こちらのplayは「演劇」です。
以下の動画はイギリスのコメディ『Blackadder』ですが、こういうのも「昔のある時代の衣装をつけて演じ」ているものでしょう。
『Teaching an idiot basic maths | Blackadder - BBC』
https://www.youtube.com/watch?v=g4IQjUpTNVU
お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。