和歌・かつて愛し合った証
「いひそめし昔のやどの杜若(かきつばた)
色ばかりこそ形見なりけれ」
『後撰集』良岑義方(よしみねのよしかた)
(あなたとはじめて契りを交わした昔の宿のかきつばた。あなたはもういない。かきつばたのこの花の色だけが、かつてわたしたちが愛し合った証ですね。)
あなたとはじめて契りを交わした夜を
わたしは忘れはしない
「ねぇ見て、
あそこにかきつばたが咲いているわ」
抱き寄せた
あなたのぬくもりと鼓動を感じていたら、
あなたの優しい囁き声が耳元をくすぐった。
見ると、
闇夜に浮かび上がるように
そっとかきつばたが咲いている。
愛し合った熱を冷ますように
少し冷えた夜風が2人を包み、
互いのぬくもりを噛み締めた‥。
今はもう、
離ればなれになってしまったあなた。
あの時のかきつばたがまた咲いているよ。
あの夜を思い出す。
かつてわたしたちが愛し合った証は、
この花ばかりとなりましたね。
儚い、夢のような恋だった。
あなたは今頃、どうしているだろうか。
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