境遇条件世界{一章、知性よ、波乱と相対し進み給え}
「・・・ふぅ。帰って来たんだな。俺たちの世界に。」
「・・・そうだね。」
「とりあえず飯にしようぜ?」
「・・・そうね。」
俺たちは2000年後の未来から帰って来て言葉には言い表せない複雑な満腹感に襲われていた。
この満腹感は決して幸福なものだけではなくもやもやしたものも織り交ぜられた何とも言えない感覚だった。
未来は確かに理想的な光景だった。
けど何かが引っかかる。
俺たちがこの違和感に気づくのはもう少し後になってからだった。
~~~~~
「・・・どうしたの?未知子。」
「いや・・・なんか最近食欲が無くて。」
「・・・大丈夫?」
「・・・正直分からないわ。」
「どういうこと?」
「いや別に何処か怪我をしてるわけじゃないのよ?けどなんかこう・・・億劫なのよね。」
「未知子・・・お前もか。」
「お前もって・・・智心あなたも?」
「ああ。未来から帰って来てからなんか調子が上がらねぇんだよな。」
「何で?」
「何でって・・・それが分かりゃ苦労しねーよ。」
「・・・実は俺も少しキツいんすよね。」
「過智も?・・・もしかして間知郎も変だったりする?」
「いや俺は多分大丈夫だと思う。」
「多分って・・・それ大丈夫じゃない奴が言うセリフじゃない。」
「俺自身未知子たちのように何か調子が悪いということはないんだが今の生活に関して色々と考えてしまう時間が少し増えてきたんだ。」
「色々って?」
「何の為に生きているのか・・・とかだな。」
「分かるぜ。未来に行って俺たちの力の結末を見たからなのか未来でちゃんと返されんのが決まってんなら俺たちって何なんだ?って時々思うんだよな。」
「私はあんな楽しそうな未来に比べて今の生活って楽しいって言えるのかついつい比べちゃうの。別に今の生活を否定したいわけじゃないのよ?けど暇さえあれば考えちゃうのよ。」
「俺も未知子さんと似たような感じであんな進化した生活を見た後に自分たちの生活を見て少し悲しくなる時があるんす。でも俺たちがあの生活が出来るかって想像するとそれはそれで想像出来なくてあの生活に入るって想像が怖くあったりもするんです。」
「分かる。そうしたことを堂々巡りのように考えてしまうんだ。」
「・・・まぁ想像すると怖い気がする。」
「・・・洽は想像するとって言うより想像できないだろ笑。」
「!」
「図星ね。」
「・・・何よ。みんな調子悪いって言うから親身になって考えてあげてるのに。」
「あ、いや別にバカにしようと思って言ったわけじゃないんだ汗。」
「想像しないでいられるのって幸せなことだなって思ったのよ。」
「それって結局私のことをバカって言ってるんじゃない?」
「・・・まぁそうなのかな?」
「ほら!やっぱそうじゃない!」
「笑。」
洽のお陰で俺たちは未来から帰って来てから久々に笑うことが出来た。
~~~~~
俺たちが最後に笑った日から少し経ったある日。
「・・・ねぇ本当に大丈夫?」
「・・・分かんねぇ。体は何処も怪我してねぇのに気持ちが滅茶苦茶重ぇ。」
「なんか色んな感情が後から一気に増えてきた感じ。」
「俺は今までの良くない感情を溜めてる感じっす・・・。」
お互いの情緒が色々と限界に来ていた。
そんな中ある二人の人間が俺たちの元を訪ねてきた。
「あの・・・済みません。」
「あ?」
「ちょっと。初対面の人にその返事はダメでしょ。」
「・・・悪い。」
「もう・・・私が聞くわ。どちら様?」
「実は訳あって旅をしている者なんですが暫く泊めてもらうことは出来ないでしょうか?」
「・・・どうする?」
「・・・事情は分からないっすけど子連れを無下には扱えないっすよ。」
「そうよね。」
ということで私たちは子連れの男性を家に招き入れた。
~~~~~
「・・・とりあえず名前を聞かせて!」
「分かりました。私は智之と言います。そしてこの子は友人の子。名は晴天丸。」
「・・・なんか訳あり?」
「ええ。それより貴方達こそ何か訳ありですか?」
「え?」
「あなた以外とても顔色が悪い。病か何かを患っているのでは?」
「・・・病って言うなら病かもね。」
「ああ。なんせ調子が良くねぇ。」
「体の何処も怪我していないのに横になっていないと辛いっすからね。」
「・・・何か理由とかはあるのかな?」
「理由ってかきっかけなら分かってるつもりだ。」
「それは何かな?」
「・・・少し前に結構遠い場所に行っててよ。その場所で色々と印象のでかい経験を沢山してな。それから気持ちが重いんだよ。」
「印象の大きい話って言うのは例えば自分の家族が亡くなったり友人が亡くなったりするような話かな?」
「そんな系統の話じゃねぇけど・・・印象の大きさとしてはあんま変わんねぇな。」
「・・・ふむ。」
「それより智之さんの話を聞かせてくれない?」
「え?」
「ほら友達の子を連れてることとか何でこんな場所にいたのかとか。」
「良いけど・・・その前に君たちの名前を教えてくれないかな?いつまでも君たちじゃ呼びづらいからね汗。」
「・・・そういや名乗ってなかったな汗。」
「うちに来るのって世全視とか禊護みたいな顔見知りだけだから忘れてたわ汗。」
「とりあえず俺は過智っす。」
「俺は智心だ。」
「私は洽。で、あそこに寝てる二人が其々未知子と間知郎。」
「・・・そっか。よろしくね。皆。」
そう言うと苦しそうながらも未知子と間知郎は笑顔で手を挙げた。
「で、智之さんは何でこんなところにいるの?」
「・・・正確に言うとね。道に迷った。」
「はい?」
「信じられないかもしれないけど多分この理解で大差ないと思うよ。」
「〝・・・?〟」
この時“体調の悪い”間知郎たちは智之の言い方に引っかかりを覚えたが体調の悪さが勝り結局スルーした。
「で、他に聞きたいことはあるかな?」
「じゃあ何で友達の子と二人でここに居るの?」
「洽さん!流石にそれは・・・。」
「?」
「いや分かるだろ?今までの流れからよ・・・。」
洽の無垢故の尖った質問を過智と智心が体力を振り絞り制止した。
しかし
「それはね。もう僕しかいないからだ。」
智之は洽の尖った質問をさらりと答えた。
「もう僕しかいないって・・・晴天丸君を育てられる人がってこと⁉」
鈍い洽が驚いている後ろで体調の悪い過智と智心が頭を抱えながらしくじったかのような表情を浮かべそれを見た智之は大丈夫と言っているかのように笑顔で軽く手を挙げた。
「そうだよ。」
「・・・何があったの?」
「・・・色々とね。」
「智之さん。無理に話さなくていいぜ。洽はバカだから空気を読まずに聞いちまったが今の話の流れからすると智之さんの身内が亡くなった話だろ?絶対辛いはずだ。」
「智心君の察した通りこれから話すことになるのはいわば私の身内の話だ。けどこの話は多分君たちの病とやらを癒すのに一役買ってくれると私自身思っているよ。そして私はこの話をするのに抵抗がないかと言えば嘘になるが向き合えるほどには抵抗は薄まっているよ。」
「・・・智之さんの話がこの気持ちの重さに効くってことか?」
「多分。何の為に人は生きているのか。これを一度でも考えたことがあるならこれから僕が話そうと思っている話には意義があると思っているよ。」
「「!」」
智之の言葉に過智と智心が内心ドキッとした。
「生きることに恐怖を感じたことがあるなら意味があるかもね・・・洽さんはなさそうだけど。」
「・・・智之さんも私をバカにしてるの?」
「してないよ。寧ろ褒めている。」
「どういうこと?」
「洽さんはここに居る智心君たちと同じ場所に行って同じ経験をしたんだろ?」
「うん。」
「それでもこうして日常に戻ってきている。これは誇るべき強さの一つだと思うよ。勿論智心君たちを弱いと言っているわけじゃない。けど智心君たちは言った。系統こそ違えど身内が亡くなるのと同じくらいの印象の大きい出来事を経験したと。それでも揺らがずにいられるのは純粋に凄いと思う。非日常を経験しながらも日常に戻れる。そんな強さを洽さんは持っているんだ。この強さを持っていること自体が生きる上では大きな利点だと私は思うよ。」
「・・・ふふん♪」
洽はとても嬉しそうに笑った。
「さて私の話だったね。まず事実から話すと私の親類は“今は”この晴天丸しかいない。」
「何があったの?」
「うーん・・・何て言うのかな・・・親族争いかな?」
「?」
「私たちの一族はね、少し特別な力があってね、少し先の未来が視えるんだ。」
「へぇ・・・〝私たち程じゃないにしても似たような人達がいるんだ。〟」
「その力で私たちは自分たちの立場を有利なものに保ち続けていったんだけどその中でその力を使って私たちを潰そうとしてきた親族がいてね。」
「・・・要するに本当の一族は俺たちだ!的なやつか?」
「まぁそんなとこ。それで私の友人とそれ以外の親族は根絶やしにされかけたってわけ。」
「・・・でもその未来が視える力ってのは自分達にも使えないのか?」
「使えたよ・・・けど意味がなかった。」
「何でっすか?」
「・・・ちょっと分かり難い例えかもしれないけど地震がいつ起きるのか分かったとしてその地震は人間の手で止められるかな?」
「それは・・・無理・・・ね。」
寝ながら話を聞いていた未知子は答えた。
「〝・・・俺たちは封砕や震子を知っているから止められるかもしれないと考えるが普通は止められない。〟」
間知郎は智之の例えを聞いて自分たちの判断基準が普通とズレていることに気づいた。
同時に自分たちは思っていたよりも大きいことを求めて苦しんでいるのではないか?と感じるようになっていた。
「そう。止められない。最初予め知れることは他の人間より優位に立てる能力だと思っていた。自分は他の人間とは違うとね。しかし結局は人間だったんだ。神様じゃない。地震がいつ起きるか分かっていても止められる力が無ければ不幸に終わると知らされながら生かされているのと何ら変わらない。最悪だと思ったよ。今隣にいる友達が永遠に会えなくなることが分かっているなんて。私は力を持っている。だから普通と言われる人のように無残に無慈悲に辛い最後を迎えることはないと勝手に思っていたから。勝手に安心していた。けど現実は違った。自分の大切な人が死ぬと分かっていながら止められない。こんな酷なことがあるかい?私は自分の能力を初めて呪ったね。こんなことなら普通の人の方が幸せだと。」
「〝・・・そうか。普通そうだよな。俺たちは全知の力で何でも知れる。だから出来て当たり前。〟」
「〝けど普通は出来なくて当たり前。叶わなくて当たり前・・・力を借りるまでは考えなくても分かっていたことだったのに何時からこんな簡単なことにも気づけなくなったんだろう・・・。〟」
智心と過智は智之の話を聞いて徐々に現実へと意識が戻っていった。
「・・・智之さんはそんな辛い経験からどうやって笑えるようになったの?」
洽は智心たちを元に戻す糸口をつかむ為切実な質問を智之にぶつけた。
「・・・どうやってか。」
智之は少し考えこんだ。
「正直言うと気づいたら戻っていた。」
「え?」
「でもきっかけはあった。」
「そのきっかけってなんだ?」
「私の親族と同じ名前を騙る子供たち。私は一族を根絶やしにされかけ晴天丸と二人で渦中から命辛辛逃げた。けどその頃の私は今の君たちのようにまるで病でも患っているかのように体が重く情緒が色々と限界だった。そんな状態で親族が死んだ場所に戻る勇気なんてもちろんない。かといって何処に行くのかも分からない。でも晴天丸を何とかしないといけない。そんな思いでごちゃまぜになっていた時親族が死んだとされる土地でその親族と同じ名を語る男女の噂が流れたんだ。」
「それが・・・その子供たちなの?」
「ああ。私は最初その噂を聞いた時何も考えず会えると思ってしまったんだ。」
「・・・。」
洽は泣きそうになりながら聞いていた。
「会えるわけなんてないのに。今まで見た未来は一度だって現実にならなかったことはない。一族のみんなが死ぬ未来だけが外れているなんてありえない。でもありえてほしいと思ってしまった。結果はとっても辛いものだった。生きているかもしれないと思った友人たちはそこにはいなくてそこにいたのは何の面識もない子供たちだったんだから。」
「・・・その子供たちが今までの話とどう関係してくるんだ?」
「その子供たちは私と同じ如月の名を持ち同じ力を使うことが後から分かっていくんだ。」
「「「「「!」」」」」
この時この場にいた智之以外の全員が智之の言葉に鳥肌が立った。
「私と同じ如月の名を持ち・・・って?」
洽はとても混乱したような表情で智之に聞いた。
「そのままの意味だよ。私の如月一族と同じ名を持ち同じ力を扱う存在。それがその子たちだったんだ。つまり騙っていたんじゃない。本物の親族だったんだ・・・かなりの遠縁だけどね笑。」
智之はとても嬉しそうに笑った。
「それが分かった時何故だか分からないけど凄く安心したんだ。多分一人じゃないんだって実感できたんだと思う。それからは親族がまだ生きていた頃に仲良くしていた人たちがまだ生きていることとかこう・・・まだ残っている繋がりって言うのかな・・・それを一つ一つ再認識して今に至るってところかな。」
「・・・。」
「だから君たちが今生きるのが怖いと思っているなら仲良くしている人とか親しい人がいることを思い出してほしい。いなくてもこれから作っていってほしい。それがその気持ちを和らげるカギだと思うから。」
智之は真っすぐな目でそう言った。
「と・・・智之さん。」
智心は同時に生まれたあふれんばかりの感情を整理するかのようにこう聞いた。
「あんたって如月・・・なのか?」
「・・・そうだけどそれが?」
智之は必死なそれでいて嬉しそうな智心に不思議そうにそう返した。
そしてここに居る全員はつい最近まで遥か未来に行っていた為か一つのある想像が頭の中にあった。
「その・・・子供たちの名前って・・・何て言うの?」
未知子は頭の中にある疑問を解決するかのように智之に質問をぶつけた。
「早苗ちゃんに三葉ちゃんに千くん・・・だったかな?」
「マジかよ!」
智心は頭の中の想像が当たったことにこの上ない嬉しさと喜びを感じていた。
「・・・?」
しかし智之はその状況についていけず少し混乱していた。
「あ、悪い汗。あまりにも嬉しくてよ・・・。」
「どういうことだい?」
「・・・答え合わせをしよう。」
間知郎はそう言って体を起こした。
「まず俺たちのことから。俺たちは・・・いや俺たちも如月一族だ。」
「!」
「そしてさっきの遠縁の子供たち。俺たちはその子たちに会ったことがある。」
「え、それは・・・。」
「そりゃ遠縁よね!」
「なんせ遥か未来の子たちっすから!」
洽と過智は笑顔でそう言った。
「え、え?」
今度は智之が混乱していた。
「少し前に結構遠い場所に行っていたって言ったろ?実はあれ早苗たちの時代なんだ。」
「・・・成程。」
智之はそうは言ったものの全てを飲み込めてはいなかった。
「智之さんって・・・この時代の人?」
体を起こした未知子はちょっと嬉しそうにそう聞いた。
「・・・ふっ。いや違うよ。」
智之は未知子の笑顔に少しつられてそう言った。
「早苗たちよりは・・・俺たち寄りだよな。」
智心は智之の装いをみてそう言った。
「だろうね。」
「つまり智之さんは未来人でいいの?」
洽は少し理解が遅れていた。
「そういう解釈で相違ない。」
「成程・・・だから道に迷ったって・・・。」
「今だからこそ通じると分かったけど普通言ってもしょうがないでしょ?」
「だな笑。」
「寧ろ余計混乱するだろうな。」
「・・・にしても私もここが過去だとは何となく早苗ちゃんの一件で予想は出来たけどまさか目の前にいるのが力のご先祖様だとは・・・ここまでは予想できなかったな笑。」
「俺たちもまさか子孫に会った後さらに子孫に会うとは思いもしなかったぜ。」
「・・・にしても何で来たんですかね?」
「ほんとだな・・・。」
「・・・ねぇ。」
智之は少し何かを企んだ顔でこう聞いた。
「智心君たちは強い?」
「あ?」
「薄々なんだけどこの力って血が薄くなる程弱まっている気がするんだ。」
「まぁ実際弱まっているわよね。」
「ええ。早苗ちゃんは地球全体が見えないみたいだし。」
「地球全体⁉・・・分かるのかい?」
「俺らはな。」
「智之さんは分からないの?」
「・・・まあね。」
智之は先祖たちの規格外の力に少し期待が膨らんだ。
「じゃあさ、君たちは仲が良い?」
「それは・・・。」
この智之の質問には全員が言葉を詰まらせた。
「悩むということは・・・繋がりはあるんだね?」
「あるっちゃあるが・・・。」
「仲が良いかって言うと・・・。」
「寧ろ最悪?」
「・・・そっか笑。」
智之はこの時初めて具合の悪くない5人の姿を見た。
「で、それが何なんだ?」
「簡潔に言うと元の時代に帰る手助けをしてほしい。」
「でも仲悪いわよ?」
「そこは些細な問題だから然程心配していない。重要なのは力の高さ。君たちは君たち以外も力は高いの?」
「まぁ・・・力はな?」
「寧ろ力しかないでしょ。誇れるところが。」
「・・・確かに。」
「なら安心だね。」
「早くね?」
「そうかい?」
「だってまだ帰れるかも分からないのよ?」
「そこは多分大丈夫。だってここにきているじゃないか。」
「だがいつ帰れるかが分からない。不安じゃないのか?」
「生憎私は旅が好きでね。帰るまでは旅行だと思えばいいさ。晴天丸も退屈しないだろう。それに力しか誇れるものがない・・・いいじゃないか。そう言う人の力は絶対だって相場が決まってる。」
こうして智之たちはお互いの関係を始めていったのであった。
~~~~~
智之たちは親睦を深める為お互いの話をした。
「この時代ってさ、力の水準とか世界の均衡って言うのかな?そういうのはどんな感じなの?」
「うーん・・・どっから話すかな・・・。」
「とりあえず始まりからじゃないっすかね?」
「そうね。力も歴史も私たちから始まったようなものだし。」
「なんかかっこいいことさらっと言うよね。未知子さん。」
「・・・そう?笑。」
「とりあえず成り立ちから話そう。まず俺たちの力は始まりの祠と呼ばれる白い岩のようなものに触れたことで始まった。」
「ってかその岩を介して力を授かったんだけどな。」
「まず私たちのこの力。これは全知全能の神アプリオリより全知の部分のみを譲り受け授かったものなの。」
「如月という名前はその時全知全能の神の全知の力を扱う一族の証明として授かったもの。」
「つまりこの名前以外で全知を扱うと言っている一族は偽物だ。」
「智之さんの時代には如月以外の名前で知の力を使う一族って居ました?」
「・・・いや私が知る限りでは・・・あ!」
「え、居たの?」
「いや・・・一族ではないけど触れただけでその触れたもののことを知ることが出来る人は居たかな・・・。」
「・・・その人って親族じゃねーのか?」
「そういう人がいるって噂が私の時代にあるだけで会ったこともないし見たこともないから・・・ちょっと分からないかな。」
「そうなんだ。」
「とりあえず私たちはそんな感じ。」
「あとその力だが他に四種類の力をそれぞれ授かった人間たちがいる。」
「私たちの次の一族が自然神より其々力を授かった五つの一族。」
「水の自然神、水分之龍より水分の名を授かった水分一族。火の自然神、灯毘沙之命より夜藝速の名を授かった夜藝速一族。土の自然神、比売之庭より迦流美の名を授かった迦流美一族。雷の自然神、建之霹靂御より霹靂の名を授かった霹靂一族。風の自然神、風伯師より志那都の名を授かった志那都一族。この五種類。」
「智之さんの時代はまだこの名前?」
「・・・いや多分もう違うかな。少なくとも土の名前は迦流美ではなく城堂だと思う。」
「・・・城堂。もう変わっているのね。」
「・・・合っていたかな?」
「・・・何が?」
「名前。」
「土一族の?」
「そう。」
「まぁ早苗ちゃんたちの時代の土一族の名前が城堂だから合っていると思うけど・・・。」
「智之さん自分の時代の力の所持者を知らねぇのか?」
「・・・まあね。私の時代はお互いがお互い警戒し名を名乗らず敵対していたから。断片的な情報しか知らないんだ。」
「・・・そうなのか。」
「でも土一族の人とは関わりがあるみたいね。」
「・・・命の恩人だからね。」
「?」
「私たちが生き残れたのは土一族の土地のお陰なんだ。」
「土地が・・・助けてくれたってこと?」
「そう。」
「どういうこと?」
「私の時代の土一族の土地は何故か全知の力が使えない場所でね。そのお陰で同族の争いから難を逃れることが出来たんだ。」
「・・・あ、あれじゃねぇか?セフィラが前言ってた結界。」
「あ!所在分かんなくするやつか!」
「?」
「いや俺たちの知り合いに結界張れる力の所持者がいてよ。そいつが自然神一族の家に家の所在がその家を一度でも認識している者以外分かんなくなる結界を張ったって言ってたんだよ。」
「多分それよ!」
「・・・え、もしかして君たちの時代に張った結界が私の時代まで機能しているってことかい?」
「・・・そういう事ね笑。」
「ってか早苗の時代でも健在だったぜ笑。」
「・・・汗。」
智之は規格外の出来事に少し引いたような嬉しそうな笑いを見せた。
「・・・こんなところにもいたんだね笑。命の恩人が。」
その後智之はとても穏やかな顔をした。
「もし会えたならお礼を言わないとね。」
未知子たちはその顔を見て少し嬉しくなった。
「・・・次行くわ。」
「次が全知全能の神アプリオリに仕える六人の天使の使役者。」
「天使の名前は其々オルゴ、ビランチ、グラント、フェア、フォール、イプノ。」
「この名前は知ってる?」
「知っている・・・けど・・・その名前は私の時代では殆どみんな神だ。」
「?」
「軍神オルゴ、最高神ビランチ、破壊の女神グラント、言葉の女神フェア、最強神フォール、邪視の始祖イプノ。」
「破壊の女神・・・あいつにぴったりの通り名だぜ笑。」
「言葉の女神も中々よ?皮肉が効いているわ。」
智心と未知子はビュージュとヴァティーラのことを思い出し笑っていた。
「・・・みんな天使だったんだね。」
「本来はな。本当の神は全知全能のアプリオリと自然神だけだ。」
「あなたの時代にそうした存在は居た?」
「どうかな・・・そこはちょっと分からないんだよね。」
「そっか。」
「じゃ次ね。」
「次はこれまた天使に関係するんだがさっき言った使役とは違った形で天使の力を使う奴らだ。」
「その力は印紋術と言って天使の扱う神力というエネルギーを様々な術式や印、紋章によって使用するものだ。」
「さっき言った結界を張った奴はこの印紋術を使うんだ。」
「そうなんだ。」
「智之さんの時代にこの印紋術を使う人は居た?」
「どうかなぁ・・・そもそも印紋術って言葉自体が初耳だし・・・でもその印紋術が結界を張るということに関係しているなら多分居たかも。」
「智之さんの時代にも結界を張れる人がいるんすか?」
「私の友人の友人にね。結野先守って言ってさっき言っていた土一族の土地に結界を張った一族の子孫なんだ。」
「ゆいの・・・名前からして禊護の血筋かな?」
「多分な。でも名前の欠片もねぇな。」
「その結野先守って人も命の恩人でね。土一族の人たちの後にお世話になったんだ。」
「・・・いろんな人に助けられてきたのね。」
「うん・・・そうだね。」
「じゃ最後か?」
「そうね。」
「最後は全知全能の神より全能の力を授かった人間だ。」
「その全能って何が出来るの?」
「俺たちも詳しくは話せないんだが・・・ただ・・・。」
「ただ・・・?」
「何にも効かない。」
「?」
「例えば全身を黒焦げにしちまうような炎だろうと家を真っ二つにしちまうような風だろうとその全能の人間には通らねぇんだよ。」
「つまりあらゆる事象が無に帰すんだ。」
「・・・それは凄いね。」
「智之さんの時代にはそうした存在の話とかあった?」
智之は少し苦い顔をしながら口を開いた。
「・・・確か私の時代に西の僻地で火山の火口に降りる常軌を逸した儀式があったというのは聞いたことがある。」
「何それ?普通に死んじゃうじゃん!」
「だよね。でもその西の僻地では度々神の子が生まれるという伝承のようなものがあったんだ。その神の子というのは空から岩が降ろうと海から水が流れ込もうと平然とその姿を保つと言われていてね。その神の子は世界を災厄から救う神の使いとされその神の子の確認方法が火口に降りるというものなんだ。」
「・・・成程。神の子ならば火山の熱さなどものともしないと。」
「そういうこと。俺の時代だとこんな伝承くらいしかないかな。」
「・・・随分と遠くなったものね。」
洽は自分たちの力の血筋が全くの他人であるかのような印象を聞いて少し哀しくなった。
「・・・なら今度は私の話を聞くかい?」
智之は少し哀しそうな洽を見てそう言った。
「・・・でも力を授かったのが誰か分からないんでしょ?」
「まあね。それでも私の時代の情勢を話すことは出来るよ♪それで少しは気分転換になるんじゃないかな。」
「智之さんの時代の強い人の話が聞けるってこと?」
「まぁそうだね。」
「いいんじゃねぇか?俺も興味あるし。」
智心は少し笑顔でそう言った。
「聞きましょうよ。俺も聞きたいっす!」
「・・・じゃあ聞く。」
洽は智之の話をとりあえず聞くことを決めた。
「じゃまずは私の時代の如月一族の話から。私の時代の如月一族は総勢200名を超える時世の予言を行う存在として知られていた。」
「200名⁉・・・めっちゃ増えたのね。」
「まあね。」
「じせいのよげんって何すか?」
「端的に言うと未来にこういうことが起こりますよって言うってことかな。」
「え、それって色々と危うくね?」
「まぁそうなんだけどそれは裏の顔。表では普通に新鮮な食べ物を提供することで生活していた。」
「食べ物を提供?」
「・・・これ何か分かる?」
「・・・岩みたいな丸い塊っすね。」
「これは貨幣と言ってこれを持っていると様々なものと交換できるんだ。私の時代はこれと食べ物だったり着る物だったりを交換することで生活していたんだ。」
「・・・だがその貨幣というものと食べ物を交換する理由が良く分からないな。」
「この貨幣は一言で言うと人類の価値基準を目に見える形にしたものなんだ。」
「?」
「例えばなんだけどこの貨幣一つで果物一つと交換できるとしたら?しかもどこでも。」
「・・・そりゃ便利だな。その貨幣ってやつ一つ持ってるだけで食べ物に困らないって安心も出来る。」
「そう。便利なんだ。これがあれば食べ物と貨幣と交換しその貨幣と着る物を交換しという感じで物々交換が格段にし易くなる。」
「・・・成程な。智之さんの時代の生活はそうやって回ってるってことか。」
「そういうこと。で、話はもどるけど私たちはそうやって知の力を使うことで自分たちの立場を世界で有利なものへと保ち続けていったんだ。」
「でもそれが崩されたんでしょ?」
「ああ。一人の女性によってね。始まりは私が未来知によって如月一族の未来を見たこと。」
「どんな未来を見たの?」
「当時の如月一族が住んでいた本殿が粉々に崩されていてその空には女性がいた。その女性が腕を一振りするたび堅牢な木で作られた本殿がまるで小枝を踏み潰すかのように次々と崩されていったんだ。その崩された木の下敷きになって動けなくなっている大勢の同胞たち。」
「・・・そいつは何で智之さんたちを襲ったんだ?」
「・・・大分気分の悪い理由だけど邪魔だったからだ。」
「え・・・何その理由?」
洽は想像もしたくもない理解したくもないような顔をした。
「どういう・・・意味だ?」
「言葉通りの意味。存在しているのが邪魔だから。目障りだから襲ったんだ。智心君がさっき言ったよね。時世の予言の話をした時色々と危ういって。」
「ああ。」
「智心君の言った通り私の時代の如月一族は私たちを邪魔だと思った連中に幾度となく存在を脅かされてきた。でもそれはこの知の力で先んじて知ることで対処してきた。でも世界の悪意は思ったよりも強くてね。次第に対処出来ないことが増えてきた。同族が一族から抜けたり如月一族を良く思わない勢力から刺客を差し向けられたり・・・そんな中で一族壊滅の決定打となったのが一族から抜けた同族が所属し始めた敵対勢力が雇ったさっき言った女性。その女性は目に見えない力を使って如月一族の本殿を破壊したんだ。」
「・・・智之さんと晴天丸君はどうして無事だったの?」
「本殿にその女性が現れてすぐその場を離れたんだ。本当は離れたくなかった。水天様と一緒に逃げたかった。けど本殿に当主がいないとなると絶対に怪しまれる。それに一族の血を繋ぐにはなんとしても誰かが生き残らなきゃいけなかった。こちらの策略をカモフラージュする隠れ蓑としても当主が本殿にいるのは打てる手では最善手だ。・・・。」
智之は当時の感情を思い出し苦い顔をした。
それを見た間知郎と智心は無言でそして真剣な表情で肩をやさしくたたいた。
「・・・その後はどうだったの?」
洽は空気が読めない発言だと自覚しつつもそう言った。
「その後は自然神土一族の末裔の城堂家に駆けこんだんだ。水天様には先守様に匿ってもらうよう言われていたんだけどね。」
「・・・何故その水天さんの言葉を無視したんだ?」
「・・・理由はいくつかある。一つ。敵方に同族がいること。」
「同族・・・もしかして空間知持ち?」
「ご明察。勿論水天様はそのことを知っていたし水天様の言われた通りに先守様の所に逃げ込んでも良かった。先守様は強いからね。仮に敵方が生き残った私たちの存在に気づき例の女性を送り込んできたとしても先守様なら守って下さる。それくらい強い。けどその戦いは何処で始まるか分からない・・・何が言いたいか分かる?」
「・・・分かるわ。その戦いに巻き込まれる人はたまったものじゃない。」
未知子は祓火と昇旋が寝こみを襲って来た夜のことを思い出してそう言った。
「そうたまったものじゃない。下手をすれば死ぬかもしれない。私は如月一族の不届きによって起こした事態に関係ない人は巻き込みたくなかった。戦わずして済むならそれに越したことはない。だから知の力の及ばない土地に逃げ込んだ。その後は先守様が人探しのプロを使って私を見つけて無事助かるって感じかな。」
「・・・なんかすごいやな感じよね。」
洽は智之の時代の悪意をそう表現した。
「・・・まあね。」
「でも何でその先守さんが一族を壊滅に追いやった女性より強いって分かるの?」
「先守様の力は知らないけどそのお師匠様の力は知っているからね。」
「その先守さんの師匠ってどれくらい強いの?」
「世界一。」
「え?」
「私の時代では間違いなく。先守様のお師匠様はクルデーレといってそのクルデーレさんは世界中の人々から恐れられているんだ。」
「・・・なんで?」
「戦争・・・って分かる?」
「分かんない・・・。」
「じゃぁ・・・この時代にはたくさんの村があるよね?」
「ああ。」
「クルデーレさんはその村々全ての人が手を組んで殺そうとしても返り討ちにあうくらい強い・・・って言ったら分かる?」
「・・・構図は理解出来るっす。」
「クルデーレさんは一人で世界中の人を殺せるくらい強いんだ。誇張でもなんでもなくね。まぁそれは例の女性みたいな人を除いてだけど。そんな人の弟子が先守様なんだ。」
「・・・確かにそんな人ならそのクルデーレさんより弱くても何とかなるのはほぼ確定ね。」
「現にクルデーレさんは私の時代だと例の女性を含む3人の強者を一人で相手にして返り討ちにしたと噂されている。」
「バケモンじゃない・・・笑。」
洽はクルデーレの話を聞いて少し引いた。
「智之さんの時代には他にもそうした強い人はいないのか?」
「他には・・・この時代の自然神の力を扱う一族かな。」
「名前が変わっているのよね。」
「うん。でも力は変わっていないと思うよ。土、水、火、風、雷。其々特異な力を使って私の時代の自然神一族は人を殺してきた。」
「・・・また殺し殺されなのね。」
未知子はとても呆れたような表情でそう言った。
「嫌になるよね。」
「昔は世界を豊かにする為の力だったのだがな。」
「そうなの?」
「ああ。あいつらが力を授かったのはこの地球を創造する為なんだ。」
「土にて地を布き、水にて恵みを広げ、火にて世界を浄め、風にて穢れを祓う。」
「そして雷にて災厄を退けよ。これが自然神から力を授かった各一族の役割。」
「へぇ・・・。」
「初めて聞いたろ。」
「うん。」
「ま、あいつらじゃ後世にちゃんと伝えられねーわな笑。」
「初代からつまずいているからな。」
「・・・ちょっと見てみたいな。」
「・・・何が?」
「自然神一族が世界を作っているところ。」
「そんな大層なものじゃないぜ?」
「そうなの?」
「ああ。なんせ世界を作る7日間険悪だったらしい。」
「まぁ伝聞っすけどね。」
「そっから力が返せなくなるしな。」
「力を返す?」
「あ、早苗ちゃんたちと違ってこの力の起源を知らない感じ?」
「・・・うん。全く。」
「元々はな、7日間限定だったんだ。」
「けど封砕のせいでね。」
「ふうさい?」
「土一族にいる大岩を落とす女性。」
「そいつが他の自然神一族ともめ始めてから色んな所でかみ合わなくなってきてな。」
「早苗ちゃんたちの時代まで力が返せなかったの。」
「じゃあ元々は7日間で力を返す予定だったの?」
「そうだ。この力は元々7日間で世界を作る為に神から“借りた”力だったんだ。」
「けどさっきも言ったが封砕が他の自然神一族ともめ始めてから返納当日に力の所持者が全員揃わない事態になりそこから長い長い未返納期間が始まるってわけだ。」
「長すぎるでしょ・・・汗。」
「本当ね笑。」
未知子は少し嬉しそうな表情でそう言った。
こうして智之たちは互いの話をしながら暫く共に過ごすこととなった。
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