境遇条件世界{四章、条理よ、人の未来を示し給え}
これは使役者がこの時代に来る前の話・・・。
「・・・何だ・・・何が・・・?」
「・・・ここは?」
「気づいたか。先守。ヨルディエ。」
「・・・クルデーレ。」
「これは・・・どういうことですか?」
ヨルディエはここは何処なのか何故クルデーレたちが一緒にいるのかといった意味を込めてそう聞いた。
「分からん。気づいたらこのだだっ広い場所にいた。」
「・・・建物も何もないですね。」
「・・・気づいたか?」
「何がです?」
「こんな広い場所私は知らん。」
「?」
「私はこんな建物一つない場所を知らん。」
「どういうことです?」
「恐らくここは私たちの知っている世界ではないということだ。」
「それって・・・この世界は俺たちの時代ではないという事ですか?」
「そうだ。ほら少し前居ただろ。未来から来たという子供たちが。」
「・・・今度は私たちが過去か未来に飛んだ・・・と?」
「・・・多分過去だろうな。未来ならこんなに自然は多くない。」
「どうする?」
「先守。探知の印紋は使えるか?」
「ええ。」
「最大出力で使え。ここを中心に。」
「分かった。」
そう言って先守は自身の足元を中心として探知紋を出現させた。
「細かいのと広いのどっちでいけばいい?」
「広いほうだ。とにかく違和感を拾え。」
「分かった。」
クルデーレがそう言うと先守は足元に出現させた探知紋を頭上まで移動させ途轍もなく薄く大きく広げた。
ここで少し印紋の可視化について説明しておこう。
この印紋術の印紋は天使系の能力者なら(付与者使役者共に)視認できるという特徴がある。
しかしその視認には一つ条件がある。
それは自身の能力の熟練度である。
つまり自身の能力を使い熟せる者でなければ印紋術は視認できない。
印紋が視える者と視えぬ者がいるのはそういう理由だ。
ついでにヨハトに印紋が見えている理由を説明しておくとただ単に全知全能の神アプリオリに気に入られていたからだ。
それ以上の理由はない。
ただ単に恵まれているだけなのだ。
物語に戻ろう。
先守は自身の力で最大に広げた探知紋で何かを捕らえた。
「・・・右か―。」
「攻硬守爆印!」
先守が探知紋で捉えた何かを伝えようとするのと同時にクルデーレはその何かと先守の間に本能で印紋を突如出現させた。
「・・・!」
「ヨルディエ!」
「!、攻爆印!」
「・・・!」
ヨルディエはクルデーレの印紋により勢いのみが相殺された何かが辛うじて人間であることを認識し即座にその人間と自分たちの距離を離す為印紋を放ち吹き飛ばした。
「・・・随分な挨拶だね。」
その人間とはデチーレであった。
「〝見えなかった・・・〟それはこちらのセリフだ。いきなりだったんで加減を間違えたかと思ったぞ。」
「大丈夫。問題ないよ。」
「〝傷一つないとはな・・・〟それは良かった。」
「・・・うん。今度は楽しめそうだ。」
「何がだ?」
「いや前に印紋術を使うおじいさんと戦ったんだけどこの世で一番強いという割にはほんと手応えが無くてがっかりしたんだけどさっきの奇襲に対応できるあたり君たちは少しはできそうだと思ってね。」
「貴様!何故印紋術を知っているのだ⁉」
「知り合いにいるんだよ。使う奴がね。」
「〝知り合いに・・・とにかく超常能力者であることは確定だな。〟」
「さっきは何故突っ込んできたんだ?」
「印紋術が見えてね。もしかしてと思ったんだけど・・・人違いだったんだ。」
「人違いでこんなことをされてはたまったものではないな。」
「・・・まて。今何と言った?」
「?」
「印紋術が見えたと言ったのか?」
「・・・そうだけど?」
「〝印紋術が見えるなど聞いたことが・・・。〟」
クルデーレはデチーレの発言に少し恐怖を覚えた。
何故ならクルデーレの時代で印紋術は“目に見えない力”として広く知れ渡っていたからだ。
相手には視認できない。
視認できるのは同族のみ。
その大きなアドバンテージを持つ力の集団としてクルデーレたち印紋術師は知れ渡っていた。
「そろそろいいかい?」
そう言ってデチーレはクルデーレたちに突っ込んだ。
「・・・ウッ!」
「・・・クッ!」
「・・・ッ!」
そしてデチーレはクルデーレたちの足場を拳で割り全員の体勢を崩した。
「柔軟印!」
「柔軟印!」
クルデーレと先守は即座に柔軟印を出現させ蹴り飛ばすことで自身の体をトランポリンのように弾み飛ばしデチーレと距離を取った。
「お仲間は切り捨てかい?」
そう言ってデチーレは体勢の崩れたヨルディエに拳を放った。
「硬滅印!」
「守滅印(連)!」
ヨルディエは咄嗟にデチーレの拳を避ける体勢を取りながらも硬滅印を出現させデチーレの自滅を図った。
同時に先守はデチーレとヨルディエの間に即座に出せる中で最大の印紋を柔軟印で距離を取りながらも出現させた。
「脆いよ。」
デチーレは二人の出現させた印紋をいとも簡単に殴り割った。
そしてヨルディエはその拳を辛うじて躱した。
しかしデチーレの拳圧によりヨルディエは普通にボディブローを食らったのと同じダメージを受けた。
「先守ー!」
クルデーレはデチーレによって足場を崩された後先守と同じく柔軟印でデチーレと距離を取っていた。
その後ヨルディエとデチーレの攻防の最中クルデーレは更に柔軟印により空中に飛び上がっていた。
「ヨルディエ!」
先守はクルデーレが空に飛び上がる様子を見て全てを察した。
「はっ!」
ヨルディエは目の前に出現した先守の柔軟印を蹴りデチーレと距離を取った。
ヨルディエが柔軟印で距離を取った直後クルデーレは硬印により足場を作り柔守印{球}(連)により自身を守る印紋を張り最大出力の印紋をデチーレに放った。
「攻硬爆印(連雷)!」
しかしデチーレは紙一重で距離を取ったヨルディエを追いかけクルデーレの印紋を純粋に足の速さで全て躱していた。
このままでは攻撃も当たらずヨルディエも危ないと悟ったクルデーレは早々に攻撃の印紋を引っ込めヨルディエを柔守印{球}(連)で囲った。
直後デチーレの拳がヨルディエを囲った印紋に当たり柔守印{球}(連)の効果でヨルディエはもの凄い速さで大地を弾むように吹っ飛んだ。
吹っ飛んだヨルディエを見た先守は柔軟印を左右に出現させ続け移動することで縮地並の速さで移動しヨルディエの回収を試みた。
「抜印。」
しかしそれを見たデチーレは先守の邪魔をしようと全力で蹴り飛ばそうとした。
「させない。」
だが先守は抜印の効果でデチーレの攻撃を食らわずヨルディエの回収に成功した。
同時に予想外のすり抜けにデチーレはすこし戸惑った。
「⁉」
その戸惑いにより生まれた僅かな隙によりクルデーレたちは何とか合流した。
「・・・。」
「ヨルディエ。」
「問題ありません。癒印で治してあります。」
「先守。私たちにも抜印を掛けろ。」
「攻めは?」
「私とヨルディエが引き受ける。守りは任せた。」
「了解した。」
この僅かな間でクルデーレたちの作戦会議は終了した。
「・・・本当にやるじゃないか。まさか攻撃が当たらないなんてね。」
デチーレは適度な疲労感に久々の充足を感じていた。
「先守。ヨルディエ。あの時代だ。お前たちの両親が生きていた時代を思い出せ。」
こうしてクルデーレたちはデチーレとの戦闘を再開した。
~~~~~
「〝さて今回はどうでしょうか。〟」
セフィラは力の返納を行わなくなってからも力を持つ者の責務として定期的に始まりの祠へと向かい地球に施した印紋の様子を見ていた。
そして今回セフィラは印紋の定期巡回でとても驚くことになる。
「・・・⁉」
それはいつものように地球に施した印紋の様子を見たところ地球のある場所でとても高い頻度で印紋が出現と消失を繰り返していた為であった。
その為セフィラは直ぐに様子を確認する為柔軟紋で空中を駆けその出現と消失を繰り返す場へと向かったのであった。
~~~~~
デチーレとの戦いを始めて一日後クルデーレたちは最初の奇襲より体制を立て直した後先守が抜印にてデチーレの攻撃を無効化しつつ柔軟印で空中や高速移動の足場を確保しサポート。
クルデーレとヨルディエが守りを気にせぬ猛攻を仕掛け空中を高速移動しながら定期的に近くの森や遮蔽物のある場所に入り小休止を取るという形でデチーレを攻め続けていた。
「〝クソ・・・攻撃が悉く当たらないな。〟」
「行け!」
「〝あの先守とかいう奴抜印とやらで彼女たちの守りを一手に引き受けている。しかも足場の柔軟印で彼女たちの攻めに転ずる速さも僕とほとんど変わらない。〟」
「攻印{滅}!」
「〝このクルデーレという司令塔のような女もなかなかに強い。まさか印紋を一定時間維持することでただの拳がその印紋の効果を持つ攻撃に変わるとはね・・・戦い慣れているね。〟」
「攻印{槍}(連)!」
「〝この陣形で穴があるとしたらこの女だな。何をしたいのか知らないが弓矢のような印紋で僕を狙うだけで決定打を何も打ってこない。それに守る必要がないのに何度も身を守る印紋を出している・・・本能なんだろうけどね。〟」
デチーレは当たらないと分かっているがクルデーレたちを消耗させる為あえて攻め続けていた。
「・・・うっ。」
その結果抜印によってクルデーレとヨルディエを守っていた先守がばててしまった。
「!」
先守がばてた瞬間ヨルディエに対する抜印の効果が甘くなった。
「そらきた。」
その隙をデチーレは見逃さなかった。
しかし―。
「・・・うっ!」
「ジャスト。」
ヨルディエを攻撃したデチーレの拳は手首から上が消滅しておりデチーレの手首からは多量の血が噴き出した。
「〝・・・何が。〟」
デチーレは何が起きたのか理解出来なかった。
「測るのに苦労した。」
「!」
ヨルディエは攻印{槍}(連)により攻めているふりをしながら何度も硬滅印を当てる機会を窺っていた。
そしてヨルディエはある仮説を戦いの最中立てた。
それは相手の腕が伸びきった後に印紋を出現させることが出来れば印紋は割られることなく効果を示すのではないか?
この仮説を確信に変える為ヨルディエは何度も自身を守るかのように印紋を出現させ実験していたのだ。
そしてその実験が成功し仮説が確信に変わった段階でヨルディエは先守にアイコンタクトを送った。
先守はヨルディエのアイコンタクトによりあえてばてたふりをして抜印を緩めたのだ。
「弱者と決めつけ侮ったな。」
クルデーレたちがデチーレにトドメを刺そうとした瞬間柔軟紋により空中を駆けていたセフィラが到着し地上へと降りてきた。
「デチーレ!」
「・・・セフィラか。」
「・・・デチーレ?」
セフィラは最初デリットや禊護がデチーレと戦っていると思いデチーレを責めるような雰囲気で彼の名前を呼んだがそのデチーレは怪我をしており近くには見知らぬ男女がいることで何がどうなっているのか分からないといったニュアンスで改めて彼の名前を呼んだ。
「・・・何があったのですか?」
「こいつにけしかけられてな。お灸を据えたまでだ。」
「〝・・・信じられない。私たちですら一筋縄ではいかないデチーレに手傷を負わせるなんて。〟」
「それよりあなたは誰だ?」
「あ・・・え?」
「・・・何だ?」
「あ、いえ・・・〝デリットにそっくりです。〟セフィラと言います。あなた方は?」
「クルデーレだ。」
「ヨルディエという。」
「先守だ。」
「・・・これはあなた方が?」
「そうだ。」
「・・・デチーレ。」
「子孫だよ。君の。」
「!」
「おじいさんと違って強くてね。流石君の子孫だ。」
「・・・あなたたちは印紋術という言葉を知っていますか?」
「知っている。」
「・・・ではこれは見えますか?」
そう言ってセフィラは攻紋を見せた。
「見えるが・・・。」
「それは何だ?」
ヨルディエと先守は印紋だということは理解出来たがその種類までは分からなかった。
「見たことありませんか?」
「・・・私は見覚えがある。」
「何処でですか?」
「私の時代だ。ニーレイという小娘が使っていた。」
「・・・知っているんですか?ニーレイさんを。」
「ああ。私の時代で大層な騒ぎを起こしてくれてな。守ってやった縁だ。」
「それは・・・もしかしてしめいてはいというものでは?」
「そうだ。にしてもよく知っていたな。」
「そこのデチーレがニーレイさんの時代で同じことをしてくれまして。」
「どうやって切り抜けた?」
「一度殺しました。」
「!」
「一度殺した?」
「信じられないかもしれませんが彼は一日に一回以上殺さなければ死なないという特異な能力を持っています。」
「つまり今俺たちがこのデチーレを殺しても死なないと?」
「そうです。彼は一度殺した後一日後に生き返りその生き返ってから更にもう一度一日以内に殺さなければ死にません。」
「・・・化け物が。」
「僕から言わせれば君たちも十分化け物だよ。なんせ印術縛りでここまで僕を追い込んだんだからね。」
「そう言えば・・・攻紋を知らないんでしたね。」
「こうもん?何なのだ?それは。」
「まてヨルディエ。話し込む前にセフィラ。少し落ち着きたいんだが。」
「・・・そうですね。込み入った話になりそうですし私の親類の居る村まで案内します。」
「こいつはどうする?」
「心配は無用だ。お暇させてもらうよ。」
そう言ってデチーレは満足そうに去っていった。
「では行きましょうか。」
ということでクルデーレたちはセフィラの居る村まで向かった。
~~~~~
「改めてセフィラ・エメリッヒと言います。」
「エメリッヒ?」
「何でしょう?」
「・・・お前以外にもエメリッヒの名を持つ者がいるだろ?」
「・・・もしかしてあなたもエメリッヒですか?」
「ああ。クルデーレ・エメリッヒだ。私の時代では安易に全ての名を名乗らないものでな。失礼した。」
「いえ構いませんよ。ですが何故名乗らないのですか?」
「時代でな。名前が畏怖の対象になっている。」
「それは争いにおいてでしょうか?」
「そうだ。といってもこの髪の色で大抵分かってしまうのだがな笑。」
「目立ちますものね笑。後ろのお二方は其々何とお呼びすればいいのでしょう?」
「〝クルデーレの風貌で丁寧だと調子が狂うな・・・〟結野先守だ。」
「〝何故か違和感だ・・・〟ヒルデガルドヨルディエだ。」
「ではよろしくお願いします。先守さん。ヨルディエさん。」
「あ、あぁ汗。」
「にしても先ほどは驚きました。」
「あのデチーレとかいう奴のことか?」
「はい。彼はこの時代の能力者の中でも一番と言っていいほど強いのですが・・・まさかあそこまで追い込むとは。」
「いや常に劣勢だったぞ?もしあそこでセフィラが来てくれなければ確実に負けていただろう。」
「しかし普通は手も足も出ない相手です。なんせ私たちですら無傷では済まない相手ですから。しかも印術のみというのがまさに神の御業です。」
「あのデチーレという男も言っていたがいんじゅつとは何なのだ?」
「説明しましょう。ヨルディエさん。印紋術とは何故印紋術と呼ぶのか分かりますか?」
「それは・・・印紋を扱うから・・・であろう?」
「そうです。ですが先ほどデチーレが言っていたようにあなた方は印紋術の印術しか知りません。」
「・・・成程。印紋術には印術と紋術という区分けがあると言う事か。」
「そうです。見せた方が早いですね。」
そう言ってセフィラは守印を出現させた。
「これは見覚えがありますね?」
「ああ。守印だ。」
「では次。」
そう言ってセフィラは守紋を出現させた。
「それは・・・。」
「これは守紋と言います。効果は守印と同じです。」
「何が違うのだ?」
「印紋の基礎強度です。印とし紋と成り術とする。印紋術とは印術によって力のきっかけを掴み紋術によって完成形となる術なのです。」
「・・・どれくらい強度が違う?」
「試してみた方が早いですね。」
「じゃあまず守印からだ。」
「どうぞ。」
「攻印(飛雷)。」
「・・・何ですか?今の。」
「雷の力を扱う一族からヒントを得て作った技だ。」
「〝・・・ビックリしました。〟どうですか?」
「・・・分からんな。」
「ではこっちでいきましょうか。癒印。」
「!」
「次、癒紋。」
「‼」
「どうですか?」
「・・・これは笑。」
「どうした?」
「いや笑ってしまうくらい違うな笑。」
「でしょう?」
「そんなに違うのですか?」
「ああ。」
「ついでにお二人にも施しましょう。」
そう言ってセフィラは先守とヨルディエにも癒印→癒紋の順で印紋を施した。
「成程・・・笑。」
「これほどまでに違いが出るのか・・・。」
「驚きました?」
「ああ。これほど効果が上がるのであれば一人の時でも何とか応戦できそうだ。」
「だから私も驚いたのです。紋術ですら無傷を免れない相手に印術で善戦をしたあなたたちに。」
「俺たち運が良かったんだな。」
「運が良い程度では彼相手に生きてはいられませんよ。どうやって彼に手傷を?」
「戦闘経験値。」
「?」
「どれだけ人間を相手に戦ってきたか。これに尽きる。あのデチーレとかいう奴拳圧だけで常人の攻撃と同じかそれ以上の威力のある風を巻き起こしていた。素でな。」
「避けたにもかかわらず私はしばらく動けませんでした。」
「ヨルディエの様子と遠くからでも伝わる風圧であれは一撃も食らえんと私は判断した。そこで先守の抜印という印紋で攻撃を食らわないようにした。」
「その抜印という印紋の効果とは何ですか?」
「あらゆる事象・物質への同調。つまり波長を同じにしてすり抜ける効果をもつ印紋術だ。」
「それで守りを先守に任せ私とヨルディエで攻めた。」
「・・・で、結果デチーレは手首から上を無くす怪我を?」
「ああ。ヨルディエがやったのだがな。」
「あなたではないのですか?」
「私は陽動だ。ヨルディエが何か狙っているようだったから私はひたすら奴の気を引くことと神経を削ぐことに注力した。」
「・・・どうやってあのような状態にしたのですか?」
「硬滅印です。最初私はどうすれば攻撃を当てられるか考えていました。しかし立ち合いの中ですぐにそんな余裕などないことに気づいたのです。先守の抜印なしでは動くことすら叶わない攻撃の嵐。そこで私は閃きました。自滅を狙えばいいのでは?と。自滅を狙うのであれば相手が攻撃してくる回数だけチャンスがある。しかしその攻撃は拳圧ですら並の威力ではない。直撃すれば印紋ですら簡単に割られてしまう。ならどうするか?攻撃には必ず威力が0と成らざる負えない瞬間があります。それは攻撃を当てた直後。剣なら振り切った直後。拳なら腕を伸ばしきった直後。直撃では印紋は割れますが風圧で印紋は割れません。なので私はデチーレの腕が伸びきった瞬間に硬滅印を出現させあ奴の手首から上を消滅させたのです。」
「そんな息をする間を狙うかのようなこと・・・。」
「出来なければ死ぬ。そういう状況なら出来るのが私たちだ。地震や津波といった天災ならどうしようもないが相手が人ならば何かしら対抗策はある。」
「・・・それがあなたたちの時代というわけですか。」
セフィラはとても悲しそうな顔でそう言った。
「・・・そんな顔をするな。ニーレイたちに会ったのだろう?私たちがいるから彼女たちがいるんだ。彼女たちが未来だ。私たちが終わりじゃない。」
クルデーレは諭すようにセフィラにそう言った。
そしてセフィラ達は村まで向かったのだった。
~~~~~
「手合わせしませんか?」
セフィラは村に着くなりそう言った。
「何故だ?」
「興味がわいたのです。あなたたちの言うせんとうけいけんちとやらに。」
「んー・・・。」
クルデーレは少し考えこむような表情をした。
そしてこう言った。
「最初は1対1でいいか?」
「なっ・・・!」
セフィラは言葉を失った。
「正気ですか⁉クルデーレ様!」
「割と正気だ。」
「・・・理由を聞いても?」
「セフィラ。お前は言ったな。あのデチーレはこの時代の能力者の中でも1、2を争うと。」
「はい。」
「あれが最上位ならなんとか対処出来るかもしれん。」
「・・・冗談で言ってますか?」
セフィラは少し怒ったようにそう言った。
「だから言っているだろう。割と本気だと。お前たちの力は確かに強力だ。まるで人間の皮をかぶった神を相手にしているんじゃないかと思う程にな。しかしそれだけだ。あのデチーレでさえヨルディエの小細工に簡単に引っかかった。あれではどれだけ力が強くても宝の持ち腐れだ。」
クルデーレは少し勝ち誇ったような表情でそう言った。
「まずは1対1でやろう。お前が興味を持ったという戦闘経験値というものを教えてやろう。ただし場所は変えたい。」
「?」
「ここでやるとこの村が廃村になってしまう。もっと広いところに移動しよう。」
ということでクルデーレたちは戦っても問題のない平野へと移動した。
~~~~~
「ヨルディエ。先守。名前を呼んだらお前たちも参加しろ。いいな?」
「分かった。」
「さて。どうする?」
「あなたからどうぞ?」
セフィラは少し怒ったような口調でクルデーレにそう言った。
「・・・感謝する笑。」
クルデーレは不敵な笑みでそう言った。
「〝あれは・・・!〟」
先守はそのクルデーレの笑みに鳥肌が立った。
何故ならそれは先守がまだクルデーレに師事していた頃クルデーレが五神家を相手にする時に見せていた殺意の笑みだったからだ。
「攻印{飛雷}。」
「・・・うっ!」
セフィラはクルデーレが印紋の発動を呟いたにもかかわらずその印紋が視界にとらえられないことで油断した。
「雷を隠すなら雲だろう?」
「・・・そうですね!」
そう返事をするとともにセフィラは普通にこの時代の能力者に放つ威力で攻紋を放った。
「硬守印(三連反射)。」
クルデーレは硬印と反射の効果を付与した守印を三つ道筋を作るかのように出現させセフィラの攻紋の威力を右に蛇行させながら逃がした。
その影響でクルデーレの左後ろの森は消し飛んだ。
「・・・流石“紋”だ。」
そう言ってクルデーレは自身の出現させた印紋を人差し指で軽く触った。
そうすると印紋はまるで砂の城のように崩れ去った。
「・・・。」
セフィラは自身の消し飛ばした木や大地を見て一気に我に返った。
「そうした隙が命取りだ。」
そう言ってクルデーレは人差し指の腹程の攻印{飛雷}を繰り出した。
「わたしに隙はありません。」
そう言ってセフィラは胸元に守印を出現させることでそれを防ぐとともにクルデーレの目の前に爆紋を出現させた。
「柔守印(球){連滅}。」
クルデーレはセフィラの爆紋を柔軟印と滅印の効果を付与した守印(球)二つによって威力をある程度無効化し防ぐとともにその爆発力を利用しゴムボールのようにあえて吹っ飛ぶことでさらに威力を軽減し距離を取った。
「ここから攻勢です。攻印。」
そう言うとセフィラは距離を取ったクルデーレに無数の攻印をまるでフリスビーかのように投げつけ物量で潰しにかかった。
「お前ら。流れ弾に注意しろ。」
「〝・・・あれは!〟」
そう言ってクルデーレは両手の平と甲に硬守印(反射)を出現させ飛んできたセフィラの攻印を横から叩くことで正面で受けるよりもずっと少ない力で攻撃をいなし続けた。
結果その弾かれた攻印は時々近くにいる先守やヨルディエに流れ弾として飛んで行った。
「守滅印。」
「攻滅印。」
先守とヨルディエは其々印紋を斜めに出現させることで力を受け流し流れ弾を防いでいた。
「〝・・・これは。〟」
その様子を見たセフィラは攻撃を止めこう言った。
「・・・成程。」
「終わりか?」
「はい。よくわかりました。」
「・・・一人で十分だっただろう?」
「・・・みたいですね。」
クルデーレは勝ち誇ったようにセフィラは観念したかのような笑みでそう言った。
~~~~~
「もう一度デチーレと戦う⁉」
セフィラは柄にもなく声を上ずらせそう言った。
「ああ。この世の厳しさを教えてやる。」
笑顔でそう言うクルデーレを見た後セフィラは先守たちの顔を切実な表情で見つめた。
「こういう師匠なんです・・・。」
「一度言い出したら聞かない性格です。」
ヨルディエはわがままな子供の母親のように先守は諦め開き直ったようにそう言った。
「同じ血筋とは思えません・・・。(小声)」
セフィラはとても悲しそうな表情でそうぼやいた。
「あいつは何処か色々と舐めている。」
「舐めているって・・・どういうことですか?」
「相手だったり世界だったりだ。上手くいかないことなんて何一つないといった顔をしている。」
「それの・・・何がいけないんですか?」
「ムカつく。」
「ただの私怨じゃないか・・・。(小声)」
先守はそうぼやいた。
「何か言ったか?」
「いや何も?」
「しかしどう厳しさを教えるのですか?」
「もう一度やるんだ。私たちで。」
「また抜印か?」
「いやあれはもう使わん。」
「じゃあどうやって戦うんです?」
「・・・久々に思い出してな。」
「何をです?」
「強い奴と戦って久々に子供の頃の立ち回りがよみがえってきた。」
「・・・あれをやるのか?」
「ああ笑。」
「そう言えばセフィラ殿相手に少し使っていましたね。」
「真似事だがな笑。お前の母のようにはいかん。」
「あれは意味が分からないからな。」
「お前の父も意味が分からなかった。」
「息子の俺も人じゃないと思った。」
「空間認知が鍵らしいな。」
「何でもぼーっとでも感覚的に知覚していれば発動するらしい。」
「あの世代にはいつまで経っても届きそうにない。」
クルデーレはとても懐かしそうにそう言った。
「・・・それで結局どうするのですか?」
内輪話に切り替わり途中からついていけなくなったセフィラはそう聞いた。
「やる。セフィラ。あいつの位置は分かるか?」
「始まりの祠に行けばほぼ確実に。」
「なら少ししたら行くぞ。」
そう言ってクルデーレたちは少し休んだ後始まりの祠へと向かった。
~~~~~
「では探知を始めます。」
そう言ってセフィラは始まりの祠に触れ地球中に探知紋を出現させた。
「・・・見つけました。」
「案内してくれ。」
「分かりました。では皆さん。少し遠いので印紋で空を駆けます。良いですか?」
「構わない。」
ということでセフィラ達はデチーレの元へと向かった。
~~~~~
「そろそろです。」
「そうか。」
「私は前回あなたたちの戦いを見ていないのでこういうことはあまり適さないのですが少し楽しみです。」
「なら安全な所から見ていろ。度肝を抜かせてやる。」
「笑。」
「あれか?」
「はい。」
「私から行く。お前らは最初手を出すな。」
「分かった。」
先守がそう返事するとセフィラ達は空で待機しクルデーレは柔軟印でデチーレに思い切り突っ込みデチーレのすぐ後ろの地面を手の平に出現させた攻印で殴った。
ドン!
クルデーレの攻印によってデチーレとクルデーレの周りは土煙に包まれた。
そして土煙に包まれた直後その煙の中からデチーレが出現し体勢をクルデーレの方に向けながら神の鎖を放った。
神の鎖の先端が土煙を貫いた瞬間クルデーレは神の鎖に強硬印を横から当て滑らせることで力を逃がしながら柔軟印で即座に間合いを詰めていった。
「〝・・・成程。正面から受けないことで少ない力でいなしているのですね。〟」
セフィラは感心していた。
即座に間合いを詰めていくクルデーレを見たデチーレは神の鎖を増やしながら更に早い速度で間合いを広げていった。
デチーレが加速した瞬間クルデーレは身を低く屈め神の鎖を全て避けながらデチーレの動線に爆印を三つ出現させた。
デチーレは爆印全てを食らい再び煙に包まれた。
「ヨルディエ!先守!」
クルデーレが二人に参戦の合図を出した直後デチーレはクルデーレの目の前に踏み込み一歩で現れ右腕を振りかざそうとしていた。
クルデーレはデチーレに振りかざされた右腕を避けながら風圧を守印で相殺。
そして外側上腕に爆印を当てることで軌道を逸らした。
軌道を逸らされたことでデチーレは体勢を崩し前に倒れかけたがそのまま爆印を当てられた腕で四つん這いのようになりながら体勢を維持し左足で後ろ回し蹴りを繰り出した。
デチーレの繰り出した後ろ回し蹴りをクルデーレは身を屈め避け左上腕に守印を出現させこれまた風圧を相殺。
その後二人は間合いを広げ向かい合った。
「随分な挨拶じゃないか。」
「この前のお返しだ。それより戻っているな。」
「この腕かい?一度死んで戻したのさ。」
「そうか。」
「それで何の用だい?」
「お前にこの世の厳しさを教えにきた。」
「あのすり抜ける印紋で・・・かい?」
「あれは前回で最後だ。今回は使わん。」
「そうか。益々気に入ったよ。」
「あんなものはズルだ。」
「同感だね。あんなものはつまらない。」
「あんな術に頼っているようでは何時か足元をすくわれるからな。初心忘れるべからず。」
「今回はその初心とやらが見れるのかい?」
「ああ。私たちが戦いを覚えた頃の本気。子供が大人を負かす為振り絞った知恵というやつをな。」
「なら見せてもらおうかな!」
そう言うとデチーレは神の鎖を出現させ振り回し始めた。
そして神の鎖は周囲の木々を次々と切り倒していった。
神の鎖が竜巻のように動き容易に近づけなくなっている中ヨルディエが体勢を低くしながらデチーレへと向かっていった。
それを見たデチーレは振り回していた神の鎖をそのままヨルディエに当てようとした。
「攻硬印。」
そう言うとヨルディエは指の腹程の大きさの攻硬印でデチーレの太ももを貫きその後神の鎖を避けた。
太ももに攻硬印を食らったデチーレは慣れない痛みで少し動きが止まった。
ヨルディエはその隙を見逃さずデチーレに近づき右手の甲に出現させた攻印でこめかみを左から殴った後手刀に切り替え右手の指先に中指程の攻印{剣}を出現させ首を爪で横になぞるかのように右から左へと切り裂いた。
その後続けて鼻尖を右掌底で殴り倒れさせた。
「っ・・・!」
デチーレは後ろに倒れ込み鼻血を出しながら首元を抑えていた。
「流石常に前線に立つ一族の戦法なだけあるな。」
「当然です。攻め手が心もとなくては後に続けません。」
「・・・その油断が命取りだ。」
デチーレがそう言うと地中から無数の神の鎖が出現しその全てがヨルディエ達に向かっていった。
「探知紋。」
先守がそう言うとヨルディエたちを中心に巨大な探知紋が出現し地中から出現した神の鎖を跡形も無く消し去った。
よく見ると探知紋の端々に無数の守滅印が出現しておりその一つ一つが鎖の切先と垂直になる形に出現していた。
「この技俺嫌なんですけどね。父を思い出すので。」
「何が嫌なのだ。勤勉な父ではないか。」
「色々細かすぎるんですよ。それに再現するのがとても難しい。」
「まさにあの人らしい技じゃないか。」
「隙が無さ過ぎるんです。子供にくらいもう少し優しくしてくれても罰は当たらない。」
「あの時代はあれが優しさだ。油断させないのは命を守るうえでとても重要なことだ。親心というやつだ。」
クルデーレ達の様子を見てセフィラは自身が未来の世界でグリードを相手にした時のことを思い出した。
「〝圧倒的ですね・・・。〟」
「・・・。」
目の前でまるで日常の一部かのような雰囲気を醸し出す三人を見てデチーレは生まれて初めて強い劣等感を覚えた。
「・・・ルールがあるから人は人でいられる。制御なき力は獣と同じだ。」
苦虫をかみつぶしたかのような顔をしたデチーレに向かってクルデーレは満足そうにそう言った。
そうして二回目のデチーレ戦は終わったのであった。
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