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ことラボ/ことラーが外部の団体と連携実施した初めてのラボ「Bubbles in 夏まつり!」

ことラーの活動拠点であることルームを飛び出して、川崎市内施設で行われた初めてのことラボは、「夏祭りで障害を持つ子どもや家族とアートコミュニケーションしませんか?」という呼びかけから始まりました。7月初旬に「この指とまれ」と掲示板に投げかけたことラーは、川崎西部地域療育センターで働く柴田さん。呼びかけに応じ「指にとまって」活動したのは、7名のことラー(有江さん、井村さん、鈴木さん、坪沼さん、山口さん、山本さん、吉水)。その他に10名ほどのことラーが、興味を持ち見守りました。療育センターは宮前区にあり、「発達の遅れや障害のあるお子さん」「発達に不安のあるお子さん」を対象にした、診療所と児童発達支援事業所を備えた施設です。8月3日(土)に行われる夏祭りで、体験型メディアアート作品「Bubbles(バブルス)」(以下、「Bubbles」と記載)を、療育センターに通う子どもたちとその家族に楽しんでもらうことが、今回のことラボの主旨です。療育センターでは以前から、「Bubbles」を開発した東京藝術大学の古川聖(ふるかわ きよし)教授とのつながりがあり、それを活かす方向で夏祭りの計画を進めていました。


(川崎西部地域療育センター:
写真はHP https://www.aoitori-y.jp/kawasaki-west-ryoiku/ より転載)

アートコミュニケーションの要となる「Bubbles」は、壁に投影されたシャボン玉に鑑賞者が近づきその影がシャボン玉にあたると、映像上でたなびいたり跳ね返ったりはじけ飛んだりする参加型アート。鑑賞者は思い思いの方法で、シャボン玉の反応を楽しむことができます。東京藝術大学の柴玲子(しば れいこ)特任講師らの研究では、参加の前後で抑うつ気分や当惑した気分などが減少し、活気が上昇するなどの効果が実証されています。
 
「Bubbles」を子どもと家族にどのように楽しんでもらえるか、初めてのことラボをどうやって進めればいいのか、両方の意味でのチャレンジです。ラボの名称は、「Bubbles in 夏まつり!(略称バブなつ)」に決定。およそ1ヶ月という短い準備期間の中で、2回のミーティングと1回のロケハンが行われ、ラボメンバーが各々の得意なことやできることを持ち寄る「そこにいる人が全て式」で進められ、あっという間に当日を迎えました。
 
ドキドキしながら迎えた「バブなつ」当日
 
8月3日(土)朝8時30分に現地集合、「Bubbles」のセッティング、会場の飾りつけ、療育センター職員とのミーティングからスタートしました。子どもたちにウエルカムムードや楽しい雰囲気を感じてほしくて、準備した「Bubbles」の文字やシフォン生地、色とりどりに切り抜いたシャボン玉を入口に貼ります。ちょっとした思い出になるように「バブハート」というおみやげを用意し、それを持って家族写真を撮れるようにフォトスポットを設定しました。職員の方々はお揃いの法被を着て、夏祭り気分を盛り上げます。ことラーも「ことラー証」の上に「Bubblesバッジ」をつけてお祭りのスタッフだとアピールします。
 

9時30分少し前から、療育センターに毎日通う4~5歳の子どもとその保護者・兄弟姉妹も含めた約80名の家族が三々五々、訪れます。1階の受付では、ことラーが「バブなつ招待状」を手渡します。かわいい浴衣や甚平を着て、ヨーヨーやボールコースターなどで遊びスタンプラリーをしながら2階の会場「ひかりのへや」にたどり着いた子どもたち。最初から壁に映るシャボン玉に突進する子、どうしていいかわからずパパやママのそばを離れない子、車椅子からシャボン玉やことラーに手を伸ばす子、何をする部屋かわからずに不安で大泣きして入れない子など、子どもたちの反応や行動はさまざま。ことラーはデモをしたり一緒に遊んだり小道具のシフォンやうちわを手渡したりして、場を盛り立てます。最初は尻込みしていた子も、他の子や兄弟姉妹のふるまいを見て、ことラーに促されて、徐々に参加する様子も観察できました。そして「ひかりのへや」を出たところでことラーがスタンプラリーのシールを子どもに手渡し、フォトスポットで写真を撮って、各々の家族を見送りました。

こうして11時30分ごろに夏祭りは無事終了し、事故や怪我がなかったこと、子どもたちが楽しそうだったことに一同ほっとしました。ことラー内で役割分担を決めないまま当日に突入してしまいましたが、受付で招待状を渡す、会場で子どもたちを案内する、フォトスポットで写真撮影するなどの役割を交代で担い、チームワークで回すことができました。(今後はもちろん決めた上で臨みます!) その後、私たちことラーもマネージャーの皆さん、東京藝大の古川先生、柴さんとフォトスポットで記念撮影し、ふり返り会をして解散しました。

 
当日に至る準備は「そこにいる人が全て式」
 
ことラボ「バブなつ」の実施までに3回のミーティングが開かれました。
①    7月14日(日)10:00~11:30 「Bubbles」体験会
13:00~15:30 第1回ミーティング(7名参加)@ことルーム
②    7月20日(土)10:00~13:00 第2回ミーティング(7名参加)@ことルーム
③    7月29日(月)17:00~18:30 第3回ミーティング&ロケハン(5名参加)@療育センター
 
まず①では、「指とま」した柴田さんから、企画主旨、療育センターと利用者、夏祭りについての説明がありました。療育センターに通う子どもが対象だが、日頃その子をケアしたり気にかけたりしている家族にも夏祭りと「Bubbles」を楽しんでもらいたいという思いをラボメンバーで共有、実現へ向けてディスカッションを続けました。皆が安心できる場づくりをどうするか、「Bubbles」の楽しさをどう伝えるか、参加記念や思い出になるものを何かプレゼントできないか、などを話し合った結果、「招待状」「バブハート」「フォトスポット」といったアイデアが出てきました。

次に②では、①で出たアイデアを具体化するモノづくりへ向けての話合いが行われました。この日に先駆けてラボメンバーの一人が、「招待状」や「バブハート」「Bubblesシール」などのデザインを掲示板上で提案してくれました。それらをラボメンバーで共有し、子どもと家族に安心して参加してもらえるよう、「招待状」の表面には「家族みんなで楽しもう!」とお誘いするフレーズと「Bubbles」のイメージ画像、裏面にはことラーが何者かを伝える自己紹介を載せることにしました。まだまだ川崎市民に知られていないことラーゆえ、存在と役割を知ってもらうことは重要です。さらに会場入口を楽しくワクワクするものにしたいと、シフォン生地にシャボン玉のモチーフを貼る、そのふわふわのシフォン生地を会場内でも使って「Bubbles」を楽しむ小道具にするなどのアイデアが、次々と出されました。

最後の③は療育センターへ赴いての打合せとロケハンです。会場として用意されたのは、明るく開放感のある2階の遊戯室。カーテンを閉め、白い壁に「Bubbles」を実際に映写して、用意した「バブハート」やシフォン生地の映り具合を確かめるとともに、それらを使用しても子どもたちの特性からみて問題ないか、療育センター職員の方に確認しました。どんな子どもたちが来るのか、私たちことラーはどのようにふるまったらいいのか、現場での打合せによりリアルに把握できました。

ミーティングの日時によっては参加できないことラーもいる中で、掲示板による情報共有をしながらラボを進めました。ホワイトボードに皆で話した内容を記録する書記、ミーティングの様子を撮る撮影担当、それらを掲示板にアップする担当を、その都度決めました。情報が掲示板上で可視化されることで、出席者が決定事項を確認できるだけでなく、欠席者にとっては置いてきぼり感なく進行に追いつくことが可能です。また見守ってくれる他のことラーにも、何が起こっているか共有することができます。
 
ふり返りと今後へ向けて
 
当日の子どもの変化や楽しそうな様子から、ことラー自身も見守っていたマネージャーの皆さんや東京藝大の先生方も自然に笑顔になれました。子どもと「一緒に楽しめた」、表情や様子を見るうちに「心が洗われた」「お互いにケアになった」といった感想も。「発達の遅れや障害のあるお子さん」に関する配慮や事前の情報共有はもちろん必要ですが、同じ場と時間を子どもたちと共に過ごすことは、体感と実感を伴った貴重な経験でした。ことラーの一人が療育センター勤務という背景もあって、当日も準備段階も子どもたちをよく知る療育センター職員の皆さんのご協力が得られて実現した、幸福な連携の場でもあります。
そして「Bubbles」で誰もがシルエットになることで水平性が担保された、言語を介さないアートコミュニケーションの可能性も確認できました。開発された東京藝大の先生方も、目の前の子どもたちの反応を見て、思いを新たにされたご様子です。「Bubbles」をもっと知りたいと思うことラーから先生方にたくさん質問し、いろいろな場に持ち出せる特性を活かして改良や検証など重ねながら「Bubbles(バブルス)でことラボ」を継続したい思いを、一同で共有しました。
また後日回収した保護者のアンケートでは、「子どもがとてもはしゃいでシャボン玉を追いかけたり布を持ってくるくる回ったり、それが影でも同じようになっているのを見ていて楽しかったです」「在園児以外(兄弟児)も楽しめる工夫をありがとうございました。子どもたちが楽しんで参加できて嬉しかったです」といった感想をいただきました。最初は戸惑う子どももやり方がわかると遊べること、家族でゆったり過ごせる設定も、好評だったようです。今後の課題として、さらに心理的安全性が高く皆が参加できる場づくりを目指して、「Bubbles」のいろいろな使い方を学び試しながら、アートコミュニケーションを続けたいと思います。

今回のプロセスをふり返ると、最初は「どうやって進めるのか?」「自分は何ができるのか?」疑問と不安から出発したラボメンバーでした。ラボに関わる中で、各々が感じたことを言葉にしたり、それを聞いて皆で考えたり、できることで積極的に動いたり。例えば、グラフィックデザインを担った人、「Bubblesシール」を丸く切ってコースターに貼り付けてスタッフ証「Bubblesバッジ」をつくる手作業を引き受けた人などがいて、お互いに穏やかに刺激し合いながら得意なことやできることで参加しました。そうすることで「そこにいる人が全て式」な関係性や仲間意識が生まれ、「自分がこんなふうにここにいていいんだ」と思える安心感や居場所感が醸成されました。
 
(ラボメンバー:有江恭子、井村彩子、柴田光規、鈴木佐江子、坪沼真理、山口久彰、山本明子、吉水由美子 note編集担当:吉水由美子)

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