日本語は”装い”を変えて、自由に着替えることができる面白い言葉
最近、日本語を学ぶ人が増えてきて、色々な学び方というのが出てきました。
昔は、教材にも限りがあり、まずは日本語学校や本やビデオなどで標準的な話し方を学ぶというのが王道だったと思うんですが、今はSNSを使って、またアニメやマンガなど、色々な媒体から学ぶことができますね。
日本語の特徴は、くだけた話し方と敬語、男言葉と女言葉、文語と口語、標準語と方言、など様々な種類があることで、私たち日本人は、その中から状況に応じて、着替えるようにその場にふさわしい”装い“を選んで話しています。
例えばフランス語にも、vousvoyerとtutoyerがあり、使い分けなければいけませんが、日本語の場合は、その選択肢がもっとたくさんあるんですね。
日本語を学ぶ外国の方を見ていて思うのは、どの“装い”の言葉から勉強するかということがとても大切で、その後の上達にも関係してくるということをもっと知ってもらえたらいいなということです。
あまりにも偏った“装い”から勉強を始めると、他の場面では使えないということになるし、あとから直すのも一苦労ということになります。
例えば、どこにでも着ていける標準的な服を買う前に、ものすごく変わった用途が限られる服を買ってしまうのと同じです。
特に、自分が習っている”装い“がどういったものなのかも知らないで勉強し始めると、間違った場面で使っていることにも気が付かず、困ったことになります。
そして、ちょっと怖いのは、その話し方=”装い“によって、この人はどうやって勉強してきたか、ということがある程度見えてしまうということなんですね・・・。
ですので、まず自分はどういった用途で、どういう風に話せるようになりたいのか、ということを意識することが大切ですね。
これは、海外に住んでいるお子さまにも当てはまります。
日本語には、このようにいろいろな使い分けの種類があることが分かるように教えてあげることは、とても大切ですね。お母さんや親しい人との会話だけでなく、大人としての言葉も話せるようになるように、意識してあげることがとても大切だと思います。
私の”装い“の使い分け
私自身、言葉の”装い“には、とても興味を持っていて、自分でも使い分けることを楽しんでいます。
その中のいくつかを紹介しますと・・・
・砕けた言葉と敬語・・・常にかしこまった言い方がいいと思っているわけではないんですが、基本的には丁寧な言葉を使うことが好きです。
・方言・・・私は神戸の人間なので、親しい人との間では、関西弁を使うことを大切にしています。日本語教師の資格をとったとき、先生から関西イントネーションを注意され、直すのに一苦労しました・・・。今では標準語イントネーションも使えますが、本当は関西イントネーションの方が好きです。
また、関西弁には、「~しはる」という言い回しがありますが、これは敬語として使うだけでなく、時に親しみ、時に皮肉も表すことができる非常に便利な言い回しです。東京に住んだ時、この「~しはる」のニュアンスを標準語で表すことができないことに、非常にストレスを感じました。
・文語と口語・・・女性らしく見せたいときは口語を使い、仕事できっちりしている人だと思われたいときには、熟語や文語を多用するようにしています。女友達とのおしゃべりでは、訓読みの口語を使うけれど、仕事の時などは、音読みの熟語を使うという感じです。
・また好きな服と嫌いな服があるように、これは絶対使いたくない言葉というものもあります。
このように使い分けることによって、まるで自分がいろいろな服を着替えているように、気分も変わるし、違った自分になることができて、楽しいと思うんですね。
「話し方=”装い”」によって、その人が、どうやって今まで日本語を勉強してきたかが見えた例
先ほど、少し書きましたが、話し方=”装い”によって、その人が、どうやって今まで日本語を勉強してきたかが見えた例というのを、ここでは、私の経験からお話したいと思います。
1)「うっそー」と言ったフランス人男性
私は若い時、大阪にあるフランス領事館の産業開発局というところで働いていました。そのころのことです。
上司が、フランス系組織の会合に招待されていたのですが、あいにく他の予定があり、出席できなくなってしまったことがありました。
そのことを私が電話で伝えた時。
その相手は日本語ができるフランス人男性でした。
私「申し訳ありませんが、今回の会合、どうしても都合が悪くなりまして、欠席させて頂きたいのですが。」
男性:「うっそー」
その瞬間、この人、日本人の女の子に囲まれて、日本語を勉強しているんだろうなと想像してしまった次第です・・・。
2)「朝飯は食いましたか」と言った韓国人女性
これまた私が若い時の話です。友達3人で韓国に旅行に行きました。韓国人のとってもきれいな女性がガイドさんになってくれて、いろいろな所を案内してくれました。日本語も上手で、とても感じのいいガイドさんだったんです。
ところが、2日目。ホテルまで迎えに来てくれた彼女の第一声は、「朝飯は食いましたか?」!!
彼女の美しい顔と満面の笑顔と、この言葉にギャップがありすぎて、私たちは大笑い。
「その言い方は、男性がくだけて使う言い方ですよ。あなたみたいにきれいな女性が使う言葉じゃないんですよ。」と説明してあげると、彼女は笑いながら、「日本人の彼氏がいつも使っているから・・・」と言っていました。
上記は、くだけた”装い”の言葉に気が付いていない場合でしたが、逆に「この人は非常にまじめに勉強してきたんだな」とか「この人は本を使って勉強したんだな」とわかるまじめな”装い”の人もいます。
3)「いとをかし 」と言ったフランス人
フランス人の友達から「この人も日本語を勉強したんですよ」と紹介されたフランス人。
彼の第一声は、「それは、いとをかし。」
日常的には使わない言葉だけれど、「ああこの人は、日本の古典文学を勉強したんだな」とすぐにわかりました。
4)「私が、京都を訪れた時」と話すベルギー人
これは、私の日本語の生徒さんですが、既に自分でかなり日本語の勉強をした後、私のところに習いに来てくださった人です。
どこかに行った話をするとき、彼はいつも「~へ行ったとき」ではなくて、「~を訪れた時」と言うのです。これを聞くと本でまじめに勉強してきたんだなということが分かります。
その言葉がどんな“装い”なのかを知らないで日本語を勉強する危険性
最後に、日本語を勉強したいという外国人の方に向けて、この”装い”の概念を知らないで日本語を勉強し始める危険性についてお話したいと思います。
最近は、SNSなどで手軽に日本語に触れることができるようになってきました。それはとても喜ばしいことなんですが、時々、「これをこのまま信じるのはちょっと・・・」と思う情報があることも確かです。
例えば、あるSNSで、「日本人は人と別れるとき『さようなら』なんて言わない。『じゃあね』と言う」という説明を見つけました。
これ、ある意味では正解です。
カジュアルな友達同士の”装い“では、「じゃあね。」と言うのがいいでしょう。「さようなら」では堅苦しくなってしまうでしょう。
でも、これはあくまでカジュアルな”装い“であって、仕事場に着ていく”装い“ではないわけです。
職場で上司に「じゃあね」とは言えないわけです。
これが、カジュアルな”装い“だと知って学ぶのならいいのですが、中にはそのまま「『さようなら』は間違いで、『じゃあね』と言わないといけない」と思ってしまう人もいるようなんですね。
真面目に勉強したい人にとって、これは危険なことであると思います。
やはり理想的なのは、「さようなら」というどこにでも着ていくことができる”装い”の言葉を勉強した後に、カジュアルな”装い“の「じゃあね」や、もっとフォーマルな「失礼致します」を勉強することがいいのではないかと思います。
特に、将来日本で仕事をしたいと思っているような方は、是非このことに注意していただきたいです。
また、そのためには、単語や表現だけをつまみ食いするように学ぶのではなく、その単語や表現が使われるシチュエーションも勉強できるような体系的な方法を選ぶことをおすすめします。
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