彼が死んだ ~死を想う時、真の自己対話が始まる~ #13
■note#13
あの日の回想
彼が死んだ
今日と同じ暑い夏の日だった
子どもたちが無邪気に水遊びをし
スイカにかぶりついていた
縁側でり~んり~んと風鈴が泣き
水場でゲコゲコとカエルが泣き
木の上でジ~ジ~と蝉が泣く
蝉が泣くたび
ジリジリと焼きつける日差しが強くなった
じとっ流れる汗
クラクラするような夏の日だった
黙祷
遠くのテレビから流れる掛け声
また今年も巡ってきたこの季節
お盆真っ只中の終戦記念日に
彼は逝ってしまった
+++
24時間体制のこの職場
昨夜
ここにいたはずの彼は
もうこの世にいない
この暑さを感じることも
黙祷をすることも
お墓参りをすることも
もう二度とない
目を合わせたくても合わせられず
言葉を交わしたくても無言のまま
もう永遠にその日は来ないのだ
死にゆく人の目を覗きこんだことがあるだろうか
徐々に白濁する目
今まで合わせていたように思えていた目が
焦点を失い
白濁の底に沈み吸い込まれそうになる
どんなに泣きわめいても二度と戻らないその目
見続けるのがつらくてそっと目蓋に手やる
最期に交わした言葉はなんだったのか
今となっては思い出せない
まさか
こんな急に
お迎えがくるなんて…
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お盆休みでも稼働する職場に
予想外にも電話が鳴った
それも出社直後に…
まばらな人影
誰も電話を取ろうとしない
それもそのはず
体は職場
心はバケーションなのだから
いつもの見慣れた光景
しぶしぶ受話器をあげた
聞きなれない男性の声
冷静ながら
なんとなく嫌な予感のする声色だった
感情を押し殺すように
事務的に話し始めた
「実は、息子が亡くなりまして…」
ブラックではないが常に残業過多な職場
もしや自殺?
そんなことが頭をかすめた
「朝方、起きてこない息子を起こしに寝室に入ったところ、冷たくなってまして…」
その言葉どおり瞬時に想像を巡らせた
悪夢すぎる
これが自分だったら…
42歳独身
就職氷河期世代の非正規社員
仕事はそつなくこなしていた
今月も月間MVPに輝くのは確実だった
専門スキルがあり
コミュニケーション能力も高かった
正直
この職場にいるのが
もったいないくらいの人物だった
彼の最期はまさしく独りだった
目を覗き込んでくれる人もいなかった
最後に何を食べ
最後に何を話し
最後に何を見て
最後に何をして
最後に何を思い
明日は何をしようと考え
永遠の眠りについたのか
明日の朝、目覚めないとも知らずに…
最期に食べたかったものは…
最期に話したかったことは…
最期に見たかったものは…
最期にしたかったことは…
最期に会いたかった人は…
未来に対してどんな希望を持ち何を求めていたのか
今となっては知る由もない
慌ただしく上司等に連絡をとり
各種手配や手続きを行った
心のザワつきをかき消すように淡々と…
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数日後、憔悴しきった男性が挨拶にみえた
彼の父親だった
お役所勤めをしていたらしく
対応は手馴れていたものの
息子の代わりに賞状や目録を受け取るやいなや
泣き崩れた
彼の母親は体調を崩したらしく
父親は一人
親としての義務を果たすべく
気丈に振る舞っていた
そんな気丈に振る舞っていた
父親の嗚咽を聞きながら
自らの両親を想った
万が一
自分に同じことが起きれば
同じ思いを両親にさせることになるのだと
親より先に逝くのは親不孝だと言われるが
自然死の場合
死ぬ時期は選べない
どうしたものか…
答えのでない問答を脳内で繰り返していた
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40歳になる少し前
「最近、両親の衰えが加速してて、こわいんだよね!」
そんな一言から
亡くなった彼と
終活について立ち話をしたことがある
読書家で機械マニアだった彼の心配事は、もっぱら、それらの処分を積極的に行えないことだった
「まぁ、少し先のことだろうから、その時までに、ゆっくり処分していこうと思うよ」
彼のその言葉がよみがえる
「少し先のこと…」ではなくなってしまった今
生きている自分は
どう生きて
どう準備すべきなのか
課題を突きつけられている
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死は時に美化され憧れをもたらし
死は時に残酷過ぎて我々の心を重くする
感情はどちらにも揺れ動くが
死そのものは事実あるのみ
我々の有限性を告げている
スティーブ・ジョブズは
あるインタビューで
「人は形にして見せてもらうまで
自分が何をほしいのかわからないものだ」
と語った
目に見える形にならないとわからないもの
頭ではわかっているようで実際はわかっていないもの
それは人生の有限性(自分の人生期限)についても言えること
昨日まで言葉を交わしていた相手が
死体の形になって初めて実感する
初めて見た死体は祖父だった
その次は祖母
その次は友人
その次は父
祖父が残した日記と創作物
祖母が残したどこに何を植えても実っていた土地
友人が残した課題
父が残した今も我々を支える仲間たち
彼らの人生が最期に凝縮されていた
売るために流す広告のような
人工的な完璧さや理想などどうでもよい
わたしやあなたにとって
本当に大切なことは何なのか
承認欲求を満たすための願望ではなく
その全てのベールを取り払ったときに残る
真の願望
求めるあり方や生き方は
何なのか
死を想う時
真の自己対話が始まる
回想を終えて
夏
暑さとともに、多くの人が浮足立つ季節
海好きな私としても心躍る季節だ
それとともに
どことなく切なさに襲われる季節でもある
この季節に失った者たちを思い出し
自らの有限性を再認識させられるからだ
戦争を経験した方々なら
なおさらのことかもしれない
今回
この作品を書こうと思ったのには理由がある
最近お会いした方々の
大きな決断をしたきっかけが
身近な人の死だったからだ
父の一周忌法要の準備をしながら
自分に命をつないでくれた方々を偲ぶ気持ちや
人生の有限性を身をもって示してくれた人への想いを強くし
何かを変える必要性を強く感じている
お盆は
新年よりも
熱い自己対話が進む
死を想うことで
人生の有限性を感じ
これからを真剣に考え動きたくなる
この作品が
わたしにとっても
あなたにとっても
たまに読み返して考える
よりよく生きるための道具になってくれたら
とても嬉しく思う
死を想う(メメント・モリ)ツール
◎有限なる人生、少し立ち止まって考える時間を!
◎メメン・トモリ
二十代の頃、上司に渡された「メメント・モリ」
この時の上司の想いとは…
◎アミターバ(無量光明)
父が他界し、喪失感にかられる私に
SUNSBACOのなかまこさんが紹介してくださった本
救われました!
◎格言の宝庫ともいえるスティーブ ・ジョブズの有名なスピーチ
▶ あり方・生き方・働き方・死について
「ハングリーであり続けろ。愚かであり続けろ!」
「点と点が将来に結びつくと信じなければならない」
「たまらなく好きなことを見つけなければならない(仕事も愛する人も)」
「満足を得る唯一の方法は、偉大な仕事だと信じること」
「偉大な仕事をする唯一の方法は、自分がしていることをたまらなく好きになること」
「素晴らしい関係は、年を経るにつけてどんどん良くなっていくのだから、妥協せずに、(たまらなく好きになることが)見つかるまで探し続けなさい。」
「毎日を人生最後の日であるかのように生きていれば、いつか必ずその通りになる」
「今日が人生最後の日だとしたら、私は今日する予定のことをしたいと思うだろうか。答えがいいえであることが長く続きすぎるたびに、私は何かを変える必要を悟りました」
「皆の時間は限られているから誰か他の人の人生を生きることで時間を無駄にしてはいけない。教条主義の罠にはまってはならない」
「最も重要なことは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです」
「自分の心のままに行動しない理由はない」
「自分が間もなく死ぬことを覚えておくことは人生の重要な決断を助けてくれる私が知る限り最も重要な道具です」
◎人生は30,000日
◎亡くなるまでの一か月
父が亡くなるまでの1ヶ月は
ほぼこの動画どおりでした
◎お別れの挨拶
良いものを残し・良い影響を与える
自分の最期を自分でどう看取るのか
考えを巡らしたくなる動画です