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【実話怪談】 旧校舎

私が中学校に通っていた時期は、ちょうど新校舎の建設時期と重なっていた。

旧校舎はそのままに、運動場の半分ほどを潰して新校舎を建て、その後に旧校舎を取り壊すという計画だ。在学中に新校舎は完成したが、旧校舎の取り壊しは私たちが卒業した年の夏休みとなった。

旧校舎を取り壊す前日の夜、中学校で私が所属していた3年1組の同窓会が行われることになった。

たまたま3年次の担任H先生が生徒指導で学校内で権力があったこともあり、当時のクラスの生徒たちを集めて運動場でバーベキューを行ったのだ。

無論、同窓会とは名ばかりで、最後に旧校舎を探検しようというのが目的だった。これは在学中から生徒たちの間で盛り上がっていて、H先生がその夢を叶えてくれた格好である。

バーベキューでお腹も満たされた頃、旧校舎へ探検に出かけることになった。

全員が志願したわけではなく、15人ほどだったと思う。というのも、旧校舎は曰く付きだった。ホラーが苦手な生徒たちはみんな、行くのを嫌がったのだ。

大概学校に怪談話はつきものだ。古い校舎ならなおさら怪談の1つや2つはある。だが、この旧校舎には怪談話をリアルに感じさせる「曰く」があった。

4階の女子トイレだけ、扉を締め切られた上に、木板で打ちつけられていたのだ。隣の男子トイレはごくごく普通に扉が開いていて使えるようになっていたというのに、である。H先生に聞いた話では、10年ほど前に女子生徒が手首を切って自殺したらしかった。以来、その空間自体を封じたのだという。

つまりは、これは「探検」ではなく「肝試し」要素が強かった。

H先生に率いられて、志願した肝試し隊は旧校舎へ向かった。

鍵は全て施錠されていたが、H先生が職員室から拝借してきた鍵を使って中に入った(許可を得ていたのかはわからない)。私たちの目的は、例の4階の女子トイレだった。どうせ明日壊されるのだから、あの板を取って中を見よう、という話になっていたのだ。今考えれば、それに乗ってくるH先生もワルである。

その前に2階の校長室へ寄ることになった。校長室などそうそう入る機会がある場所じゃないから、最後に一度くらい見ておこう、というわけだ。

だが、問題が起きた。校長室の鍵が閉まっていたのだ。

危険なものや必要なものは全部運び出されていたのと、翌日から取り壊し作業が始まることもあって、教室の鍵は閉まっていないはずだったという。でも、校長室は閉まっていた。

「中扉から入れるやろ」と、H先生は言った。

校長室は職員室に隣接していて、それぞれ中扉で繋がっているという。私たちは開いている職員室に入った。空っぽになっているのを想像していたが、細々したものこそなくなっているものの、デスクや棚はまだ残ったままだった。

中扉は開いていた。そこから、そろそろと校長室へ入る。

校長室も、デスクやソファはそのままになっていた。「校長室ってこんな立派やったんやな」と男子生徒の誰かが呟いた、その瞬間だった。

ボーン、と柱時計が低く鈍い音を立てて鳴った。

あまりにもタイミングが良すぎて、生徒の中から悲鳴が上がった。

そしてそれは、ほぼ同時だった。

部屋の奥・・・閉まっていた入り口側からコロコロとサッカーボールが転がってきたのだ。

それには私も含めて全員が悲鳴をあげて、一目散に逃げた。4階の女子トイレへ行くなどという目的はそっちのけて、押し合い圧し合いして旧校舎から逃げ出した。

無論、誰も戻ろうとは言わなかった。


そのまま肝試しも同窓会もおひらきになり、翌日旧校舎は撤去作業が始まった。

あれから20年近く経った今でも、同窓会の場ではあの話題がたまに出る。あれはなんだったんだろう、と。私は、多分H先生が仕組んだことだと思っている。中扉から校長室へ入った時に、H先生がそこにいたのか、はっきりと思い出せないのである。もしかしたら前もって鍵を閉めておいたH先生が、私たちが中扉へ回るすきに校長室へ先回りし、サッカーボールを転がしたのではないか。

ただ、1つだけ説明がつかないことがある。

あの、柱時計だ。

あのときの時刻を、私ははっきり覚えていない。だが、1つだけ覚えていることがある。8時とか9時とか、キリのいい時間ではなかった、ということだ。「なんでこんな中途半端な時間で鳴るの?」と思った記憶が鮮明に残っているのである。


今となっては、もはや突き止めようのない話である。

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