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デザイナーの一人語り No.3「灰色の絵しか描かない少女」

これは私が講師を務めるカルチャースクールの絵画教室であった出来事です。私の教えるクラスは、特に課題はなく、好きな素材で好きな絵を描く授業をしていました。あるとき入会してきた小学生は、とても物静かで一言も話そうとせず、周りの子たちがどんなに騒いでいても、一人もくもくと絵を描いていました。彼女は本当に絵を描くのが好きで、授業が始まる前の待ち時間にも、廊下でひとり絵を描くことに没頭していました。

灰色の絵しか描かない少女

小学校の高学年とはいえ、彼女の技術はとても素晴らしく、高校生並みの完成度で、少女漫画のようなキャラクターをいつも描いていました。最初はそれほど気にならなかったのですが、水彩画で色付けをするとき、彼女はいつも決まって灰色しか塗りませんでした。淡いトーンが好きなのかなと思って見ていたのですが、毎回、色のある絵の具を使うことがありませんでした。どうしても色味が必要なときは、ものすごく淡い水色だけ使っていました。イメージとしては、喪中ハガキみたいな感じで、どうしても暗く寂しい印象でした。

華やかな少女漫画のイラストを描いているのにも関わらず、どうしても彼女の絵には華やかしさが全くないのです。これは、どうしたものか??他の色を使ってみたらどうかと何度もアドバイスしたのですが、灰色しか使わないのです。物静かな彼女の心を気付つけてはいけないと思い、こちらとしても強く指導することができず、どう対処すれば良いか私は凄く迷いました。

使わないカラー絵の具

そんなある時、カルチャースクールのイベントで、うちの絵画教室のクラスも制作した絵画を展示することになりました。そこで、何か展示だけでなく販売もしようと、彼女自ら考案してくれたのです。自分が描いたオリジナルの絵を銀バッチにして、販売したらどうかと言うのです。他の生徒もとても喜び、次回の授業は販売用の絵を描こうと意気込んでいました。

抑圧された感情

しかし、後日になって、彼女はそのイベントに参加しないと言うのです。彼女が自ら販売を企画してくれたのに。どうして参加しないのか理由を聞いてみると、「お父さんが、その日は登山にいくから家族で一緒に行かないといけないと言われた」とのことです。

おそらく、そのお父さんは家族だんらんで皆で思い出を作りたかったのでしょう。自分が好きな登山ですから、子供たちもきっと楽しいに決まっているはず。そう思ったに違いないです。しかし、彼女は「本当は登山には行きたくない。お父さんが好きで登っている」と言っていました。休みの日はよく家族で登山に出かけるそうです。

それで、なぜ彼女が灰色の絵しか描かないのかを察しました。彼女は本当は自分のやりたい事があるのに、過干渉の親に抑圧されて自分を自由に表現できていなかったのです。しばらくして彼女は「塾に通うから」という事情で絵画教室を退会していきました。

創作物は心の有り様が映し出されてしまう

作品というのは、その時の心の有り様やその人の生き様というのが、どうしても映し出されてしまうものです。それは魂から湧き出るものであって、隠そうとしても隠しきれないのです。表面上どんなに演じて取り繕っても、滲み出てしまうのです。

不思議と、鉛筆デッサンをやると、同じテーマで同じものを描いているにも関わらず、生徒によって違う仕上がりになってしまうのです。だから、私は絵を見るだけで、その人の性格というのが分かってしまいます。絵を描く仲間もみな口を揃えて「絵を見ると描く人の個性が分かる」と言います。

つまり、楽しく自分らしく生きていると、作品もおのずと「楽しく自分らしい」感じがにじみ出てきて、心が病んでいると、作品も暗く病んだ感じになってしまうのです。心の有り様が作品に出てしまうからこそ、創作するときは、自分のモチベーション維持が不可欠になります。

本心から望むような生き方が鍵

本心から望むような生き方をしていると、不思議とエネルギーが湧いてくるものです。楽しい事に取り組んでいると、なぜか発想力も増してきます。だから、私は自分の魂が喜ぶ生き方を選択するよう心掛けています。それが作品にも影響しますから。

今でこそ、私は好きなことを仕事にして生きていますが、大学受験のときは両親から大反対されていました。「美術の道に進んでも食っていけない。美大なんて行かなくて良い」そう言われて、怒鳴り合いの日々でした。でも、どうしても諦めることができず、父に内緒で絵画を習っていました。

ワクワクする方を選んで思いを貫け

しかし意外と、思いを貫くと人生は何とかなるものです。できれば、若者たちには「灰色しか描けない少女」のようにはなって欲しくないです。

みなさんも、もし辛いときや人生の選択に迷ったときは、本心からワクワクする方を選んで、その思いを貫いてください。どんなに困難に思えていても、どんなに人から反対されても、自分がワクワクする方には、きっと明るい未来があります。

明るい未来へ導かれますように!
島津寿制作/デザイナー

(次回デザイナー一人語りNo.4をご覧ください)

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