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視覚による心理的作用とは

実はデザインの法則は、人間の視覚が無意識に起こす心理的作用を活かしてあみ出されたのです。広告やWEBデザインなどを制作するプロのデザイナーは、センスや感覚でなんとなくデザインをしているのではなく、視覚による心理的作用をうまく活用して設計(デザイン)しているのです。

今は誰でも手軽に制作ができるようなアプリが普及しましたが、視覚による心理的作用がどのようなものかを理解しないで制作していると、意図しない効果を与えてしまいます。デザイン手法を学ぶ前に知るべきことは、心理学なのです。そこで今回は、その心理的作用がどのようなものかを解説していきます。

人の視覚は「森」を見て「木」を見ていない!?

まず、最も顕著な特徴は何かというと、人の視覚は何かを知覚する際に「個別のパーツ」を判断する前に「物体の全体」を認識するという傾向があります。「木を見て森を見ず」ではなく「森を見て木を見ず」なのです。このような視覚による心理的な作用は「無意識」のうちに起こります。意識しなくても、自然に物体の全体を捉えようとしてしまうのです。

例えば、点線(‥‥‥‥‥‥)が書かれていたとします。多くの人は個別のパーツである「点」の部分には着目せずに、物体の全体を「点線」つまり、点でつながった「線」だと認識します。

グループとして認識してしまう視覚の現象

物体の「個々」より「全体」を捉える習性があるということは、複数の要素があっても、近くにあるものは「グループ」、つまり「関連があるもの」としてとらえる傾向があるということです。

先ほど例にも上げましたが、点線(‥‥)が書かれていると、この近接しているもの全体を一かたまりとして認識します。例え一部欠けていたとしても。この時の人の視覚は「欠けて」いて「描かれていない」部分を「補完して」見る習性があります。離れている要素同士よりも、近接している要素同士を、関係の深いグループと認識する傾向があるのです。

近くにあるものを「同じグループだ」と認識するこの習性を知らずに、適当に配置したらどうなるでしょう?例えば「最新情報」という見出しが書いてあるのに、本文があちこちに点在していたら、人はすぐには内容を理解するのは困難でしょう。だから「同じ話題は近づけて配置する」というのは、デザインの鉄則なのです。

人の視覚はパターン化した単純な形を好む

次に特徴的なのは、人の視覚は物体を認知するとき「複雑」なものより「単純」な形を好む傾向があり、「不揃い」よりも「パターン化」したものを好む傾向があるという点があります。

例えば、道路標識を想像してみてください。通常は「丸」「三角」「四角」の単純な図形ですが、これを「六角形」「八角形」「星形」など複雑な形も加えたらどうでしょう?標識に書かれている記号もパターン化されておらず複雑な絵だったら、どうでしょう?車を運転していて瞬時の判断が必要なときに、これらの形の違いを認識するのは困難ですよね。つまり単純な形というのは、それほど意識しなくても判断できるのです。

道路標識と点線

色においても同様です。「赤」「黄」「青」が基本の道路標識に、地域によってオレンジだったり、茶色だったり、いろいろ複雑な色が使われていて全国で統一されていなかったら、人はすぐに認識できないですよね。色も単純なカラーでパターン化(ルール付けして統一)するからこそ、とっさの判断が必要な時にでも知覚できるのです。スマホやウェブでよく見かけるアイコンやピクトグラム(絵で表した記号)も、単純な絵で表しているのが一般的ですよね。複雑な形でない方が、人の視覚はすぐに認識できるのです。

デザイン手法は視覚の心理作用から生まれた

このように、人の視覚は無意識に「複数の要素をグループ化」して見ようとしたり、不揃いよりも「パターン化」したものを好むという習性や心理があります。これらを追求した学問の総称を「ゲシュタルトの法則」と言います。ここに挙げたものは一例ですが、どれも人が無意識のうちに同じような捉え方をするという傾向があります。

人が自然と同じものの捉え方をしてしまうからこそ、その習性を活かさない手はないです。デザインの法則というものは、この視覚による心理的作用を活用した結果に導かれた原則なのです。この基本原則の「デザインの法則」を理解すると、様々なデザイナーが生み出したデザイン手法が、どうして効果的なのかが良く理解できます。デザインはセンスではなく「法則がある」と言うゆえんは、ここにあります。
(次回は、具体的な「デザインの法則」について解説していきます)


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