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デザイナーの一人語りNo.4「その道のプロになるために」

恩師が白血病で亡くなったということを知ったのは、だいぶ後のことでした。インターネットでたまたま訃報の記事を読みました。もう何十年も合っていなかったので、最後にお礼だけでも伝えたかったという残念な思いで今はいます。

私の恩師は東京芸術大学を卒業後、現代アートの世界で作家として活動しながら、美大や芸大を目指す受験生に絵画の指導をしていました。大学受験予備校にしては珍しく、デザイン学科を目指す私たちクラスにも、試験科目に含まれない美術の歴史や絵画についても、たくさん語ってくれました。また、大学では教えてくれないような、作品への向き合い方、クリエイターとしての心構えなど、恩師の教えは貴重なものばかりでした。

試験科目にあった「デッサン」と「水彩画」を習う日々

忘れることができない心に刻まれた恩師の言葉

そして、受験生の私たち生徒に、厳しく指導しました。厳しいと言っても怒鳴ったりするようなものではありません。冷静に物事を洞察し、おだやかな口調で的をついたことを言ってくるのです。そして、恩師はプロ並みのレベルを私たちに要求し、この道で生き残っていけるよう厳しく指導したのでした。

生徒といっても高校生や浪人生たち、まだ子供です。泣く子もいました。それは、悔し涙です。けど、辞めていく人は一人もいませんでした。みな、美術が好きでどうしても美大や芸大に行きたかったからです。思うように作品が作れない実力の無さに悔しさを感じていたのです。

私は記憶力がすこぶる悪く、今となっては数学の方程式も、歴史のあれこれも何も覚えていません。しかし、不思議と恩師の言った言葉は何十年経った今でも忘れることができません。

実力のある者しか生き残っていけない

彼は、美術や芸術の道で生き残っていくことの厳しさを、私たち受験生に教えてくれました。「大学では教えてくれないから、今しか学べない」「世間に出たら、誰もきみたちの作品の悪い点を指摘してくれる人はいない」つまり、自分で審美眼をもっていないと、井の中の蛙になってしまうというのです。

日本ではトップの実力を誇る東京芸術大学でさえ「卒業後何十年も経った後まで、それを生業として生き残っていける人はわずかで、実力がない者は消えていく」と彼は言っていました。

当時、インターネットがあまり普及していない時代です。SNSなどなかったので、作家一人が稼ぐのは相当大変なものだったと思います。当時、受験生だった私は、業界で消えていく人間には絶対になりたくないと強く思い、技術を習得するために必死の毎日でした。

時代が大きく変化したからこそ伝えたい

そんな厳しい学生時代を私は過ごしてきましたが、今は大学や専門学校へ行っていなくても、インターネットでただで専門知識が学べる時代です。とてもありがたいです。今の若者たちが本当に羨ましいです。

しかし、パソコンの操作や販売方法といったテクニックは、世にたくさん情報があふれていますが、「審美眼」とか「プロとしての心得」みたいなものは、それほど学べる機会はないのではないでしょうか。

だから、私は恩師に教わったことや今まで経験したことなどを、noteを通じて多くの若者たちに伝えていきたいです。テクニックだけでなく、人間の心理や、物事の原理原則、クリエイターとしての必要な視点など、もっと多くの人に伝えていき、後世に残していきたいです。

これからはSNSで自由に仕事を作り出せる時代

これから仕事を探す方へ向けてメッセージ

今は仕事の形態も大きく変わり、SNSで誰でも稼げるようになりました。私が恩師に教わったような技術も、もしかしたら無くても稼げるかもしれません。しかし、本質を理解していないと、SNS等で活躍されているようなインフルエンサーと同じようには稼げないのではないかと思います。

よくインフルエンサーたちは、自分たちの成功方法をYouTubeなどSNSで語っておられます。確かにありがたい情報ではありますが、必ずしも皆が同じ方法で成功するとは限りません。なぜなら、あまり好きでもない事を、ただ稼ぐためだけに、人生の貴重な時間をかけて根気よく続けるというのは難しいからです。

やはり、人それぞれ「得意」「不得意」というのがあります。何が好きで何が嫌いかといった「個性」もさまざまです。それを無視して、流行っているからとか、格好いいからとか、ただ稼ぎたいからといった動機で初めても、おそらくどこかで挫折するのではないでしょうか。

一方、好きで始めた仕事なら、楽しくてしょうがないから、苦労を苦労と思わず取り組んで、自ずと技術も品質も向上し、結果的にお金になるといったものだと思います。だから、これから何か仕事を始めたいと思っている方には、ぜひ「稼げそうだから」ではなく、本心から「好きだから」という動機で初めてみて欲しいです。

もし明日突然死んだら、自分は何を後悔するか?というのを自分に問いかけると「一番やりたいこと」が自ずと見えてきます。日本は地震大国ですからね、安全な地域などありません。いつ何時死ぬか分からないのです。まだ若いからといって後伸ばしにせず、やりたいことを先にやって、いつ死んでも後悔しないようにしたいものです。みなさんが、好きな仕事で稼げますように、心から願っています。

島津寿制作/デザイナー

(次回もぜひデザイナーの一人語りをご覧ください)


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