![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/122302320/rectangle_large_type_2_bd0327be0b4b89d983104511ee2d8e54.png?width=1200)
失恋小箱
高校生の時、大好きだった彼氏と別れた際、悲しさのあまり、思い出の品を箱に詰めて庭に埋めた。
2人で撮った写真とか、旅行先で買ってきてくれたお土産とか、そういう記念の品を、一緒に行ったディズニーランドで購入したプーさんの顔の形をしたお菓子の箱にぎゅうぎゅうに詰め込んで、封印をしたのだ。
大切なものをなんでも埋めるなんてリスみたいだなと思った。リスは冬眠のためにどんぐりをたくさん埋めて隠して、どこに埋めたか忘れて、他者がそれを横取りするとバチクソキレるらしい。かなり親近感がある。
彼は顔面が美しいタイプの男の子だったので、初めて家に遊びに来た時、母親が「まぁ、ずいぶん綺麗な子が来たわね」と喜び、夕ご飯を食べていけと誘った所、彼はうまいうまいと我が家の夕ご飯をたらふくたいらげ、「また来ていいですか?」と、百点満点の笑顔で笑い、本当にしょっちゅう私の家に来るようになった。人に甘えるのが上手いタイプだった。あと顔がいいので、頼まれた側も嬉しくなってしまう。齢18にして罪深い男であった。
彼の父親は早くに亡くなっていて、母親はたくさん働いていたから、実家で手作りご飯が出てきたことなんてないと言っていた。
私もこの時、父親が長く入院していたので、食卓にメンバーが増えるのが嬉しかった記憶がある。みんなでご飯を食べるのがとても嬉しかった。みんなでこたつに入って、あったかい料理を食べるのは、幸せそのものだから。
彼もきっとそう感じたんだと思う。
人と食事を食べるのが嫌になったのは、一体いつからなんだろう。昔の私は、ちゃんと「みんなでワイワイ」を楽しんでいたと思うんだけどな。
そんな彼と別れてから、結局上京してからも、たまたま1人で見に行った池袋の映画館で鉢合わせしたり、連絡先を知らないのになぜかたまたま駅で会うとか、友達と遊んでたら友達が連れてきてて会う、みたいことは割とよくあった。
絶妙に気まずいだろうに、毎回「会えてよかったよ」と笑ってくれる彼の優しさが好きだったし、人との距離感がいつも上手い彼は、別れた後でも私の憧れだった。
そんな彼の写真が、実家の庭に埋まっている。
一緒に行ったいろんな街で、キャッキャ無邪気に笑ってる高校生の思い出がギュッと詰まって、庭に埋まっている。おそらく、もらった手紙とかも入っている。恥ずかしいから誰にも読まれたくないのに、なんで埋めちゃったんだろ。
先日、母が庭を畑にしたいと思い立ち、庭の隅っこに生えていたブルーベリーの木を切り倒したと連絡があった。
「切り株引っこ抜いたらさぁ、ディズニーのリス?チップとデール?のぬいぐるみ出てきたんだけど、これあんた埋めた?くまのプーさんの箱も出てきたよ。」
「絶対開けないで、そのまま庭に埋めておいて欲しい。ものすごい栄養が詰まってるから……いい肥料になると思うよ…」
そう答えた後、恥ずかしさのあまり1人でブチギレてしまった。なんで丁寧にビニール袋に入れて埋めてしまったんだ!私のばか!あほ!リス!!!
バチクソにキレ散らかした後、
『あの畑には、きっと甘い野菜が育つだろうな……』と思った。
その野菜が、また誰かと誰かにとっての賑やかな食卓に上がることを、静かに願っている。
いいなと思ったら応援しよう!
![寿マーガリン](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/2015115/profile_90981f41b45b7bee02da9e42fe0b019c.jpg?width=600&crop=1:1,smart)