毎回、鳥が美味しい実の部分だけをつっついたような下善。
主菜を箸でひとつまみ。味噌汁ひとくち。ご飯はアイスの「ピノ」くらい食べ、副菜は手をつけない。
「ごちそうさまぁ〜」の声だけは元気よく、スタッフの目をかいくぐって自分で昼食を下善する。
下善をスタッフに見つかろうものなら四面楚歌。言葉のマシンガンで蜂の巣になる。
「頑張って食べてよ〜!」
「全然食べてないじゃないの〜!」
「お魚だけでも食べましょう〜!」
「ご飯食べないと痩せてくよ〜!」
「お薬飲まなくちゃいかんから、ご飯しっかり食べてね〜!」
横で聞いているぼくは「気の毒やなぁ〜。わちゃぁ〜」と古畑任三郎バリにお察しするのだが。スタッフの過度な心配が裏目にでて、利用者さんを追い詰めてなければいいがと思うばかりだ。
こっそり、入浴介助のときにその利用者さん本人に話を聞いてみると。
「家で食べとるからな。あと、あんまりお腹すかないのよ」
たしかに体重を測ってみると前月との体重差はさほどない。わずかに減ってきている程度だ。このまま減り続けては心配だが。
まぁ、いいではないか。と、そう思うのだが、
残した昼食の絵面にインパクトがありすぎるのだ。仕方のないことだ。デイサービス連絡帳に書く記録としては「1割摂取」、ほぼ口にしていないと書かざるおえないから。
風呂場で背中を流しながら。
「いつまで生きとらなかんのかなぁ〜」
「そう簡単に死なないですよ〜」
「90だろ。別にもうな、いつ死んでもいいと思っとるんよ」
「そうは言っても、生きてますからね。今ここに」
「いろいろ考えとるとな、夜寝れんくなるのよ」
「まぁ体動かして、疲れて帰れば眠たくなりますって。昼から一緒に散歩に行きましょう」
「歩けてもよぉ、遠くまで一人でいけんからなぁ。勝手に出かけると娘に怒られるしなぁ」
「近所のスーパーに買い物行けるだけいいですよ。〇〇さん同じ年の方、一人で外出れない方の方が多いですよ〜」
「そんなもんかなぁ〜」
「〇〇さん人の世話になるのあまり好きじゃないですよね。なら、いつまでも自分のことは自分でできるように、体動かしときましょうよ。」
「そうやなぁ〜」
「苦しいとか痛いとか、そういうことなく体が丈夫なことってすごいことですよ!」
「そんなもんかなぁ〜。はぁ〜」
ネガティブ・食欲がない・吐息混じりのため息。
思春期やがな。
恋してんのかいな。
でも、あながち間違ってもなくて、
「鬱症状」といえば、そうなんだろうと思う。
生きること・死ぬことに対しての悩みというか。ご飯が喉を通らないのだろう。
そんなときは「ご飯を残さず食べましょう!」じゃなく、
「ちょっとお茶でも飲みながら話しましょう」が正解なのかもしれない。
とりあえず、
風呂場で男同士、腹見せ合って話すとしようか。
介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。