おじさんとの旅行 i
土曜日は小学校は半日。
今考えれば、半日の学校なんて行かなくても良さそうなものだ。
でも半日学校があったから、その街からその家から逃げることができた。
下校して通い慣れた通学路を歩く。小学校からそう遠くない場所にぼくとぼくの家族が住んでいるアパートがあった。
小学校の記憶はほとんどない。おぼえていることはひとつだけ。小学校2年生の暗い思い出だけ。
通学路を歩き、角を曲がるとアパートが見えてくる。帰りたくはないのだが、帰るしか選択肢がないように思っていた。
アパートの前には、一台のタクシーが止まっていた。
見慣れない光景だが、車の通りがある道だ。なんら不思議なことはない。
ただ、助手席には見慣れた顔が乗っていた。母だ。
そして後部座席にはぼくより少し先に下校していた、ふたつ上の兄が乗っていた。兄はタクシーの窓ガラスがひび割れそうなくらい泣いていた。
「ひさし乗りなさい」
助手席の窓から母がぼくに声をかける。泣きじゃくっている兄が気になるので、母の言うとおりにタクシーの後部座席に乗り込んだ。
そしてぼくたちは、父親をひとり残しアパートとその街を後にした。
タクシーが記憶と街を引き離していく。引き離してくれる。
幼いぼくでも、これが何を意味しているか。夕暮れが近づき次第に闇夜が地球の色を変えるように、じわじわと理解していった。
父は働かずギャンブルにお金を渡し、ぼくたちをいじめていた。
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