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芸は介護職員を助けた
ぼくはデイサービスのフロアの中心に立っていた。
目の前には30人ほどの高齢者。ぼくを取り囲むように半円を描くように2列に並んで座っている。
弾劾されるわけではない。
肩からアコースティックギターをぶら下げている。
人前で弾き語りをするなんて思ってもみなかった。
40前の手習いで35歳からはじめたギター。
同期の芸人にそそのかされて、1万円の安いギターを買ったことがはじまりだた。
楽器店でギター買ってギターケースを持って街中をあるいているとき、バンドマンになった気分になって少しばかり早足で帰った。
それだけで満足だったから、上手くなろうなんて考えたこともなかった。
自室で夜な夜な芋焼酎を飲みながら、鳴りきっていないコード音で長渕剛の「とんぼ」を歌うだけ。リズムなんてまったくない。
練習して上手くなろうとか誰かに聞かせたいとか、そんな目的を持ってしまうと楽しくなくなるだろうなって、そんな言い訳をしてほとんど練習してこなかった。ギターを持っているって事実にも酔っていたんだろう。
時は経って。
「趣味ですか?ギターとかちょろっと弾きますね」なんて、見栄なのかカッコつけなのか、つい口が滑ったもんだから、
「じゅあ、今度レクでお願いしますね」と、デイサービスの同僚から声をかけられ。
「いやいやいやいやぁ〜」が、どう聞こえたのかわからないが、
翌週、レクの担当になっていた。
別にギターを弾くなんて言ってないのだから、律儀にやる必要もなかったのだけど、もしここで弾かなかったら多分一生やることはないだろうなと思って。
まぁ別に、
芸人の時に死ぬほどスベッてきたわけだし、なんなら、
白目むいて眠けと戦っている人もいるだろうし、
耳が遠くて声が聞こえない人もいるし、
トイレのことが気になって歌どころの騒ぎじゃな人もいるだろうし、
相手は高齢者。呑気に観てくれるさと思って。
初披露は30人を相手にすることになった。
今まで人に聞かせたことなんてない。鏡の中の自分が観客。
ぶっつけ本番。
披露した曲は、美空ひばりさんの「川の流れのように」。付け焼き刃だがやるしかない。
演奏中、何度か右手のストロークが止まって歌ってるだけの時があった。
左手の弦がきちんと押さえられてなくて、汚いミュート音が混ざったコードが鳴っていた。
マイクなし。地声が30人に声が届くように目一杯声を出したら、1番の「川の流れのように〜」というサビの部分で早くも声が飛んだ。
入浴介助のときよりも汗をかいていて、足は宙に浮いていて、震えていた。
それでもなんとか歌いきり。頭を下げて。
そこで初めて30人の高齢者の顔がみれるようになって、緊張を実感した。
ハンカチで目を押さえて、泣いているおばあちゃんがいた。もともと涙腺が閉まりきらない蛇口のようにおかしいのか。
それともぼくの演奏がよかったとでもいうのか。
どちらにせよ芸人をしていた時にも感じたことない、温かさと嬉しさが込み上げてきて。照れ臭くなって。
ぼくは「このギターケースにおひねり入れてくださいね〜」と、ふざけた。
それからといもの、ちょくちょく弾くようになって。
去年のデイサービスの忘年会では、
セロハンテープで鼻を吊り上げちょび髭を描き、
谷村新司の「昴」を歌うまでに成長した。
・・・
さて、
来週の2/10(月)22時〜
介護レク代行・手芸レクリエーション講師の渋谷さとこさんと、X(エックス)にてスペース配信(音声配信)を予定しています。
介護レク・介護現場でのエピソードを聞いて、ちょっと息抜きしませんか?
ぼくも頑張って喋ります!
聞いて〜!
みなさんのお話もコメントで聞かせてください。
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