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入浴介助はアイデア次第だ。

デイサービスの入浴介助は、入浴前から始まっている。

ぼくはお風呂は大好きなので、朝シャワーを必ず浴びるし、夜は湯船にはいらないと気が済まない。長湯するタイプです。

しかし、世の中のすべての人がお風呂が好きとは限らない。これは当然のこと。

「家で入ってるから大丈夫、入らん。」

足に根っこが生えているのだろうか、墓石くらい動かないし、地震対策されたタンスくらい微動だにせず、水辺を嫌がる猫くらい抵抗し、オリンピックで金メダルを採ったアスリート並みの意志の強さで、ゴールデンウィークの終盤の下り高速道路ぐらいじっと固まっている。そのおじいちゃん。

3人もの介護職員が屍になった。

家では、風呂に入っていない。だからデイサービスで入浴を勧められている。

この問題に方程式は通用しない。誰が正解の鍵をもっているかも分からない。あらゆる角度で、さまざまな視点で、あり得ない高さから低さから、遠く近く、内から外かから、斜めから対角線から、影から日向から。
力づくは置いておいて、もう手段を選んではいられないのである。

「あ!いい筋肉してますね!」

腕を回した介護職員が咄嗟に放った言葉が、そのおじいちゃんの心の南京錠をぐらつかせた。介護職員はこうした心の機微を見逃さない。我々をナメてもらっては困る。

「だろう、昔ウェイトリフティングをやっててな、触ってみ」

そう言いながらおじいちゃんは、肘を曲げ力こぶを作って魅せる。

「すごーい!ちょっと!みんなきて!すごーい!ちょっと!ちょっと!」

”ほめ殺し”とは、よく言ったものだ。褒めて相手の思考力を無力化してしまう。ある種、洗脳に近い。

「こっちに来て、ちょっと筋肉見せてくださいよ!」差し伸べた手の先には、もちろん脱衣所が待っている。さっきまで地蔵と化していたそのおじいちゃんは、ローラースケートを履いたかのような滑り出しで、介護職員に連れて行かれた。

さすがだ。感服である。
これぞベテラン女性介護職員のなせる技。方程式で解けない問題は、経験とういう実力で解決する。見せつけられた。

おじいちゃんは、無事に入浴を終えた。なんなら長湯するほどお風呂が好きで、なかなか出てこなかったらしい。
この一回の成功体験が、今後の入浴介助をやりやすくする。それは、介護職員全体に自信が広がることと何より、そのおじいちゃんの心理的な防壁が崩れるからだ。

しかしながら、冷静に考えてみる。

「筋肉を見せて」「服脱いでいってね」この声かけ。

女性介護職員が、男性利用者に声掛けする。まぁアリか。
逆にしてみたらどうか。
男性介護職員が、女性利用者に声掛けする。アウト。

入浴介助はアイデア次第だ。

介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。