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目的地までの距離はたった数百メートル。
スーパーマーケットに「すこんぶ」を買いに行きたいだけだった。
自宅から出かけるのではなく、自宅から脱走する。
娘の目を掻い潜って玄関から外に出たはいいが、行きしなに歩道のなんでもない段差につまずき、アスファルトにハグする形で転倒。
顔面をぶつけてしまった。そしてそのまま冷えた地面にうずくまった。
意識は失っていない。口から言葉も出る。
ただ、顔面に負った擦り傷からは血が流れ、アスファルトを黒褐色にかえてしまっていた。通りがかった人には目を背けたくなるような惨劇に見えた。
病院で検査だのなんだの受けて結果としては軽傷で済んだのだが、顔面に負った傷は一方的に負けた喧嘩のような痛々しさで、会う人会う人に「どうしたの?何したの?大丈夫?」と心配の声をかけるものだから、本人は傷さよりも恥ずかしさや情けなさのほうが痛かったようだ。
「もう、デイサービスにはいきたくない」
転倒して、また自信を失った。人目も気になる年頃。
ひきこもる子供も、
ひきこもる高齢者も、
原因は他人の目なのか。
家にいたところで体力は落ちていくばかりなので、とりあえず「まぁまぁまぁ」となぐさめて自宅から連れ出した。
転倒してからというもの娘の目はさらに厳しくなり自宅はより堅牢なる。よく言えば保護施設。悪く言えば牢獄なのかもしれん。
「すこんぶ、買ってきてあげるからね」
そうではない。
本人は「すこんぶを買いにいきたい」のだ。
今、ぼくとおじいちゃんは、デイサービスの個別活動の時間を利用して散歩による下肢筋力トレーニングと称して近くのコンビニへ向かっている。
すこんぶは、コンビニには売っていなかった。
スーパーはデイサービスからは遠くて行けない。
「茎わかめじゃ、あかん?」
「すこんぶのよ、甘酸っぱいのが美味しいんだよ」
(わかるけども)
「この梅干しのシートってやつは?これぼく好きで、とまらんくなるよ」
「梅とこんぶはなぁ、全然違う。」
(ちゃうけども)
「じゃぁ、もう我慢しよかぁ〜」
「黒飴買うわ」
「真逆やん。甘いやん。」
そしてミルクの飴とはちみつの飴も買い込み、ぼくとおじいちゃんはコンビニを後にした。
足元は浮ついていたが、それが身体機能の低下なのか、それとも買い物したことの嬉しさなのかは、
どっちでもいい。
転びそうになったら、ぼくが引っ張り上げればいいから。
・・・
来週の月曜日です〜。
エックスのスペースにてお話しますので。
よかったら遊びにきてください。
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