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『マイ・ディア・キッチン』を読んで心もお腹も温まる


月曜日よりの聖者

ある月曜日の仕事終わり。
「今週も1週間始まったな~」
と少し気だるい気持ちで山手線に乗って家路につこうとしていたところ。
 
ピコン。
とXに一通のDMが届いた。
 
「誰だろう?」
疑問に思いながら見てみるとなんと小説家の大木亜希子先生からのメッセージ
何かの間違いだろうと思いながらメッセージの内容を読み進めるも、明らかにわたし宛のメッセージだ。
(ポストも拝見していただいており恐縮極まりない!!!)

大木先生のことは
「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした(通称:つんドル)」
が実写映画化されていたこともあって知ってはいたものの、作品を読んだことがなかった。(ごめんなさい!!)

そんな大木先生が何故わたしなんか平凡な会社員にメッセージをしてくれたのか?
内容を要約すると以下だ。

  • Xでのポストを拝見していただいていること

  • 『マイ・ディア・キッチン』が今春発売になること

  • その作品のゲラを送らせて欲しいこと

改めて文字に起こしてみても「???」である。
これぞご縁なんだなと改めて実感した。

私を見つけてくれて、ありがとうございます

『五等分の花嫁』中野三玖

何故ここまで思ったのかというと、
作品のゲラは書店員の方にお送りして、
「面白ければ書店で展開してください」
といった名目のもと渡されると思っている。
 
さらに私自身が出版関連の会社に勤めているとはいえ、
Xのポストで仕事に関することは何一つ呟いていなかったので、
大木先生にとってはある種何の得も無いメッセージなのである。

とはいえ、何かの間違いだとしても、
発売前の作品をゲラで読めるという機会はまたと無いので、
「拝読させていただきたいです」と二つ返事でお答えした。

ノン・ラブ・ストーリーは突然に

そんな奇跡が重なって手元に届いた『マイ・ディア・キッチン』はこんな作品だ。

「ずっと、人に振り回されてきた。私さ、心が空っぽなの。これからはもっと、自分のために生きたい」

元料理人の主婦・白石葉は、夫のモラハラに耐える日々を送っていた。財布の紐、交友関係、食事、体型まで徹底的に管理されてきたが、ある日事件が起きる。家から逃げ出した葉が辿り着いたのは、街の小さなレストランだった。

文藝春秋BOOKS ホームページ

あらすじを見た瞬間は、タイトルとは相反してモラハラという言葉に怖さがにじみ出ていた。
それでも、そこに惹かれる部分があったのは間違い無い。
また少し調べてみると、どうやらnoteで1、2話が無料公開されている。

1、2話は物語の導入として「エクセレント!」なので、
少しでも気になった方はチラッと覗いてみるのがオススメである。

⚠ここからは内容にガッツリと触れます。
 1,2話は前述の通り無料公開されているので、私の感想はそのまま読めるようになっています。
 3話以降は発売前ということもあるので、有料とさせてください。

Majiでゾッとする1行目

序盤を読んでとんでもない小説に出会ったなと思うしかなかった。

冒頭
 「今度から、Tバックを穿いてくれる?」

ってあれ?送っていただいたのは官能小説なのか!?
え?官能小説は読んだこと無いけど・・・せっかくのご縁だから読まねば・・!
というのが『マイ・ディア・キッチン』とのファーストインプレッションだった。

・・・が官能小説ではない、と安心したのも束の間、
次の文章を読んで牛乳を吹いた

 「じゃないと、葉ちゃんのお尻の形がチェック出来ないから」

な、なにを言っとるんだ???????
頭の中は「???」が無限に並んだ。

それでも読み進めることでどんどん分かっていく。
主人公・葉夫・英治が大のモラハラであることを。

結婚して幸せな「普通の夫婦生活」
私が知っている夫が妻にする言動とは一線を画して異なっていた。

・過度な食事制限
・日々の体重報告、体型確認
・お小遣いはたったの5千円


これが普通なのかと脳が麻痺するほどのリアリティさがあり、
読んでいるのは葉と英治の夫婦生活のはずが、ホラー小説を読んでいる錯覚すら覚える。

英治が仕事に行っている間に普段食べることができないカンパチを葉が捌いているシーンなんて、恐ろしいのか面白いのかも良く分からなくなってくる

そしてふと1話のタイトルを再確認してゾッとするのだ
『世界で一番、穏やかな地獄』
 
地獄に穏やかなんて形容するのは変なのだが、
この結婚生活はそうとしか言えない。
穏やかなんだけど地獄だし、地獄だけど穏やかである。

さらに言えば当人にとってはこれが世界一なのだ。
人によっては職場やママ友ランチなど別の地獄があるかもしれないが、
葉にはここしか、英治との生活しかないのだ
そんなの世界一と言わず、他の何が世界一なんだ!!と感じさせられる。

嫌なら逃げれば良いが、そう簡単に逃げられない。
夫婦とはそういうものなのだなと思い「地獄だ」と再度呟いてしまう。

ただ葉だって自分の生活を取り戻したい。もう耐えられない。
その一心で家キャンプをやっている時にキャパシティーを超えてしまい暴れ狂う。
唸り声を上げ、家キャンプのテントを蹴り上げ、着ていたパーカーを振り回す。
(その様子を見ていたペットのハムスター天ちゃんが何事だ!?とケージの中で走り始めたのには不覚にも笑ってしまった)

ここまでわずか30ページ。胃が持たない。。。

そのまま家を飛び出した葉に救いの手が差し伸べられる。
飲食店を営む天堂さんとその恋人の那津くんの2人組だ。

今までの反動もあってか、ここから心とお腹を温かくしてくれる作品へと変わる。
天堂さんはイタリアンレストラン「Maison de Paradise」を営むオーナーで立派な胸筋をお持ちの男性。
那津くんは天堂さんの恋人で端正な顔立ちをしており「Maison de Paradise」のホールを回す熟女キラー。

天堂さんは、無理をしないで自分のペースですれば良い、と優しくしてくれるが、
一方の那津くんは、お前は偽善者だ、使えない奴、調子に乗るなと罵詈雑言のオンパレード。
でも誰にでもフラットで、嫌いなことを嫌いと直球で言うところに愛を感じる。
 
2話のタイトルが『運命の輪』

人と人の出会いの輪でもあるし、地獄から救って天国に連れて来てくれた2人の天使の輪っかにも感じる。
(キューピッドと呼ばれているアモルは誰もかれも男性の姿だからそういうことかもしれない)

マイペース(Yoh's Pace)

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