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蚊取り線香の匂い

仕事が終わって駅へ向かう道。

マスクをしていても私のハナに吸い込まれる蚊取り線香の匂い。

仕事モードから家事モードへ切り替わり、夕飯は何にしよう、ちょっと疲れ気味の旦那さんをどう元気づけたらいいのだろう、そんなことを考えながら歩いていた。

そこへ、この蚊取り線香の匂い。


もちろん私の左腕には既に今年の勲章がひとつ。駅から家へ帰る道で、もう2週間前くらいになるだろうか、刺された。

そう、私は毎年数え切れないほど蚊に血を与え、蚊に痒みを頂いている。



というのも私の実家は山のてっぺん。

何匹かの蚊と共に歩き、血と痒みをギブアンドテイクしながらの通学通勤はおてのものだった。

それはまるで森の中をウサギや小鳥と歌いながら歩くディズニーのプリンセスのようだと自負している。


最低でも直径3センチはある膨らみが、おでこ、瞼、掌、足の裏だってどこだってプクプクと。


そんな蚊が多発する実家では昔ながらの渦巻型の蚊取り線香が焚かれていた。

当時は何の気無しに嗅いでいたけど、今日ハナに入ってきたそれで私は確実にタイムスリップした。

脳内タイムスリップ。


10歳の私はクーラーのない家でチューペットを食べて、自分よりは冷たい床にべたっとひっついて、自分の体温で温まったら冷たい床を目指してゴロゴロ。

暑くて暑くて、冷たさを求めているのに、そこに漂う全てが暖かい。

暇を持て余しているぬくもり。

決まって香るのは、蚊取り線香の匂い。


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