Thought To Real Vol.3 写真家 Kouichi Nakazawa
ファッション、ミュージックシーンを中心に日本とアメリカを行き来し活躍する写真家 KOUICHI NAKAZAWA氏の作品展「NO CAP#4」。
氏の作品から醸し出される、”被写体へのリスペクト”のような感覚。
それはアメリカへの強い憧れと、好きなシーンを記録するため縦横無尽に飛び回る氏の写真と向き合う姿勢の表れであった。
■作品展 “NO CAP”は今回でシリーズ4度目の開催となりますが、そもそもどういった経緯で開催に至ったのですか?
KOUICHI NAKAZAWA(以下:KOUICHI)
もともと写真家って大きく分けて2種類タイプがあると思うんですよ。クライアントワークがベースになっている商業的な人と、自分が撮った写真をプリントして販売している人。
僕はどちらかというと前者なんですけど、同じく前者の人達って仕事の時はカメラ持って写真撮るけど、プライベートではカメラを持たないって人が案外多いと思うんですね。
僕の場合は、仕事でもプライベートでもカメラを持ち歩くのが日常的になっていて。
職業柄いろんな業界の人達が集まるパーティーや音楽のライブにお誘いを受ける事が多いんですけど、その時もカメラを持ってるから、自然な流れでみんなでワイワイって写真を撮るんですよね。
僕は以前ニューヨークに住んでいたので、そうした時に撮った海外の著名人やセレブリティ達のプライベート写真がどんどん溜まってくんだけど、正直出しどころってないじゃないですか。
でもせっかく自分が撮った写真だから、いつかはどこかで見てもらいたいなって漠然と考えていて。。。
そんな中、2013年にファレル・ウィリアムズが香港で開催した『BLOHK PARTY』というフェスにフォトパスで入れる機会があったんですけど、バックヤードにも普通に入る事が出来て。
そこでファレルとスティーヴ・アオキのツーショットが ”バチッ” と撮れちゃったんですよね。
その写真を撮った時に、「これはいよいよヤバイぞ、みんなにちゃんと見せなきゃ!」と思って。笑
今まで撮り溜めてた写真をまとめた『GOTHAM TIMEZ』というZINE(冊子)を発行して、表紙にその写真を使ったんですね。
そこからしばらく、撮った写真をZINEにして出すという活動を続けてたんだけど、それを個展というフィジカルな形でもっとちゃんと見てもらおうって始めたのが、この「NO CAP」シリーズなんです。
ちょうどコロナの影響で、普段の海外を行ったり来たりする流れやいろんな撮影が縮小ムードになり作品を作れる時間が出来たので、良いタイミングだったんだと思います。
■展示されている作品は全て写真をベースとした1点物なんですよね?
KOUICHI : そうですね、そもそもは2013 年に僕のインスタグラムを見たロンドンのとあるアートキュレーターから個展をやりませんか?というオファーを頂いたんですね。
その時に、「すごく興味はあるんだけど、僕が撮ったセレブリティの写真って、権利は自分にあるんだけど、それをプリントアウトして個展をやっちゃうと、もしかすると肖像権の部分で問題があるかもしれないよ」って相談をしたら、「であれば見た目は写真なんだけど、完全にコピー不可能なぐらいハンドメイドな物を作る事が出来れば、それを写真とは言わずアートピースという解釈でクリア出来るかもしれません」という提案をもらったのが、このスタイルの作品を作るきっかけなんです。
写真がデジタルの時代になり、コピーが安易に出来る様になった事は、以前から自分でも引っかかっていたんですよね。
写真の価値を維持する手段を考えて試行錯誤した結果、それをより再現不可能なハンドメイドの1点物として表現したって感じですかね。
■写真の背景を透かせたりコラージュさせる独特の発想はどうやって生まれましたか?
KOUICHI : 僕は元々美術学校も写真学校も出てるわけじゃないから、技術的な事ってわからないんですよ。だからこれらの作品に関しては、誰かの見様見真似とかバックグラウンドはなくて。
試行錯誤の中、失敗失敗失敗の繰り返しで正直偶然出来たっていうか。笑
もしかして何かベースがあったら「そんな事誰もやらないでしょ!」ってやらなかった事かもしれないし、何も知らなかったからこそ出来た事なのかもしれないですね。
スタジオに来てもらうと、アルミに転写して失敗したやつとか、キャンバスで試したやつとかいっぱいあるんですけど、デジタルの時代になってパソコンで撮った写真を編集してた中で、こういったアナログな作業であぁだこぅだ試行錯誤するのは大変だけど楽しいんですよね。
フィルム時代の暗室に籠って手で作業してた感覚に近い気がするっすね。
■作品のベースとなっている写真は全て、ご自身がパーティーやライブ会場で撮られた著名人達のスナップですが、それぞれの作品から ”被写体へのリスペクト” を感じる気がするのですが?
KOUICHI : 僕がやってる事って、パッと見パパラッチと思われるんだけど、パパラッチの人達って自分が撮った写真をメディアに売って商売してるじゃないですか。
僕の場合はそんなんじゃなくて、単純に好きな人物とかシーンの写真を撮ってるだけなんですよね。
例えばあるファッションウィークで、「この後ここにレッチリのアンソニーが出て来るらしいよ」って情報を聞くと、普通に写真撮りたいからそこで待ってるじゃないっすか。
周りにはパパラッチのカメラマンがいっぱいいて、同じく待ってるんだけど、彼らは撮り終わった瞬間にパソコン開くんですよ。
すぐにどっかにアップロードして幾らかで売るってシステムがあるみたいで、「俺の写真500ドルで売れた」とか「1000ドル付いた」とか話してるんですよね。
僕はその写真を売っちゃうと権利が無くなっちゃうんで、それよりも自分で撮った写真を手元に置いといてスタジオに飾った方がいいやって。笑
昔からCD聞いてたアーティストとかネットやTVで見てた憧れの人物が、日本に居たらありえないけどニューヨークに居ると自分の目の前にいて写真が撮れちゃって。その写真を自分の部屋に飾ってたら超いいなぁって感じで。
リスペクトに見えるのはそういう部分かもしれないですね。
なのでシーンがかなり偏ってると思うんですよ。有名な人がいたとしても、僕が好きじゃなかったり知らない人だったら撮らないので。
「お、トラヴィスじゃん!」とか「ロッキーじゃん!」とか「カニエ来た!」とか。笑
超ミーハーな感じで撮ってますよ。
■個展のプロフィールにも書かれている「 I’m not a paparazzi」というのはそういう事ですね。
KOUICHI : そうそう。もちろんお金は必要なんですけど、これに関してはお金を稼ぐためにやってるわけじゃなくて。男の子のコレクション心というか、ビックリマンシールを揃えるみたいな感覚に似てるっすかね。
で、こうやっていろんな人物の写真が揃ってくると、スタイルはパパラッチかもしれないけど、マインドは違うぜ!ってところをみんなに見てもらいたいって思って。
『NO CAP』ってタイトルも、よくヒップホップの歌詞にも出てくるスラングで “マジ” とか “リアル” っていう意味なんだけど、僕の仕事ではなくプライベートを本気で楽しんでいるリアルな姿をイメージして付けたんですよね。
■アメリカには何故住んでいたのですか?
KOUICHI : それは単純にアメリカが好きだからですね。
中学の夏休みに初めての海外旅行でおじいちゃんにニューヨークに連れて行ってもらったんですけど、「飛行機に十数時間乗っただけでこんなにも世界が違っちゃうのか」ってカルチャーショックを受けて。
「アメリカっておもしろいなぁ」ってのが子供の頃からずっとベースにあったんですよね。
加えて僕達1973年生まれってアメリカ大好き世代だと思うんですよ。音楽とかファッションとかアメリカで流行っているものを真似するのがカッコいいみたいな。アメカジとか渋カジとかね。笑
社会に出てフォトグラファーになって、7〜8年ぶりに仕事でニューヨークに行ったんですけど、「やっぱりこの街いいなぁ」って改めて思って。
その時に現地の日本人ヘアメイクの方と仲良くなったのがきっかけで、翌年から毎年ニューヨークに遊びに行くようになったんです。
そうして3〜4年ぐらい経った頃、僕の日本でのキャリアがようやく回り始めていて。当時、女性誌の仕事をたくさん頂いてたんですけど、今の僕の写真をご覧いただけるとわかる通り、女性誌っぽい写真って1枚もないじゃないですか。笑
仕事はありがたかったし楽しかったんだけど、心のどこかで 「なんか消費されてる」 という気がしていて。。。
僕がカメラマンになりたかった時の気持ちを振り返った時に、生意気な言い方になりますが「こういうシーンを撮りたかったわけじゃないよな」って深く考えちゃったんですよね。
それでちっちゃい時からアメリカに憧れてて、今写真家って商売も出来てるし、人生一回なんだからアメリカでやってみたいなって思って。
思い切って一度日本のキャリアを止めて、ビザを取って行っちゃったんですよね。
このまま日本にいたら消費されてキャリアが終わっちゃう気がしたのと、どうせやるんだったら好きなシーンを撮りたいって気持ちが合わさって、もう行っちゃおう!って。
勝負かけたっすね。。。
■アメリカと日本を行ったり来たりする現在のワークスタイルになったのは?
KOUICHI : 思い切ってアメリカに行って、現地でアシスタントし直したりもして2年ぐらい居たんだけど、正直やっぱりそんなに甘くなくて。
当時多少いただいていた仕事も、ほとんどが日本のクライアントだったんですよね。
その時38歳だったんですけど、日本のマネージャーからも「このままそっちに居ちゃうと、もう日本の仕事も無くなっちゃいますよ。」って言われちゃって。
頑張って勝負したんだけど、残念ながらニューヨークに負けたみたいな。笑
でも、だったらニューヨークにもある程度人脈が出来てたし、日本とアメリカを行ったり来たりする仕事のイメージに出来ないかなと思って日本に戻ったんですよね。
日本でのキャリアを止めて、ゼロからアメリカで生活して、頑張って英語覚えて、現地でアシスタントし直したっていう経験は、自分の「こうじゃなきゃいけない」っていう固定観念を取っ払う事が出来たと思うんです。
いろんな部分ですごく柔軟になれて、自分の幅が広がったっていうか。
あのままずっとあっちに居たらどうなってたかはわからないですけど、あの時「もう無理!」って潔くスパッと日本に戻って、でもアメリカは好きだから行ったり来たりしてやろうっていうのも、アメリカにいたからこそ柔軟に考えれた選択だったと思うんですよね。
そのおかげで日本に帰ってきてからの流れもうまくいって、結果アメリカでは成功出来なかったけど、コロナが始まるまでは毎年年間で90日ぐらいは仕事でアメリカにいるっていうワークスタイルになってましたね。
■写真についてですが、仕事で撮られている写真もアート作品も、コウイチさんっ”ぽさ”が出てると思うんですけど、何か意識されている事ってあるんですか?
KOUICHI : 写真ってなかなか ”ぽさ” を表現するのが難しいので、そう言ってもらえるのはすごく嬉しいですね。
そこはやっぱり努力している所でもあり、心がけている事でもあるので。
自分の作品の時と違ってクライアントワークになると、まずはお客様の要望があるので ”自分っぽさ” を出すのってなかなか難しいんですけど、その中でもいかに”らしさ”を出すかを楽しみながらチャレンジしています。
それってキャリアの最初の頃はなかなか厳しかったんですけど、今は長年やってきたからこそ自分らしさを出しちゃう。「ナカザワさんに頼むとこうなっちゃうよね」みたいな。笑
商業写真家としてそれが良いか悪いかわからないですけど、結果お客様が喜んでくれてるから良いのかなって。
技術的な事でいうと、僕の中で”らしさ”は画角だと思っていて、広い画角の中にまず見せたいものを入れて、残りの空間をどう埋めるかって事だと思うんですよね。
フィルムの頃は単焦点といって広角、標準、望遠ってそれぞれレンズを揃えていて、撮りたいシーンでその都度付け変えるんですけど、デジタルが始まってズームレンズが主流になってくると、ズームで画角のバランスが変わっちゃうので、そういった部分では自分らしさを出すのがちょっと難しくなりましたよね。
今はライカのカメラを使ってるんですけど「このレンズ」って決めてるのがあって、レンズ1本で画角を揃えるように意識して撮ってます。
例えばこの遠くにマドンナがいる写真だったら、ほんとなら望遠レンズで撮るのが良いのかもしれないけど「いつもの俺のウェポンで行くっしょ。」みたいな笑
それが今の自分らしさに繋がってるのかもしれませんね。
■長年写真を撮られてきた上で、フィルム時代から現在もブレてない事ってありますか?
KOUICHI : レンズチョイス。シーンによって「レンズはこれ」って自分の中で決めてる事っす。
それはアシスタント時代に学んだというか自分で叩き込んだ事なんですけど、アシスタントの仕事っていかに師匠が気持ちよくシャッターを切れるかを考えて、どこまで準備するかなんですね。
僕の師匠であるミック・パークさんの側で、「このシーンでパークさんだったらこう撮るだろうな」って予測してレンズを選んで渡すんですけど、最初は「これじゃないよ!」ってよく怒られてたのが、だんだん当たる様になってくるんですね。
さっきの自分らしさの話に繋がりますが、当時師匠もよく周りから「パークさんっぽいよね」って言われてたんですけど、それはそのレンズチョイスだったと思うんです。
レンズを固定してたら必然的に画角も決まってくるじゃないですか。
その時に学んだ、まずレンズをチョイスして、ここでこの距離で撮ろうって”世界を切り抜いていく感覚”はフィルム時代から変わってないですね。
■今後の展望についてお聞かせください
KOUICHI : まずはこの『NO CAP』シリーズをやり続けたいってのと同時に、ランドスケープシリーズも出していきたいと考えているんですよ。
男のロマンとして”車でアメリカ横断”ってありませんか?
いろんな風景を撮りながら、途中でフェスやショーがあれば立ち寄ってパパラッチフレーバーの写真を撮りつつっていうのをやりたいですね。
もうひとつは近いうちに「NO CAP」をニューヨークでやりたいんですよね。
向こうのいろんな有名人を撮ってきた中で、日本人の奥ゆかしいリアクションも好きなんですけど、アメリカ人の好きか嫌いかわかりやすい両極端の反応が見たいですね。
肖像権ギリギリなところを本国でやって、どういうリアクションがあるのか。
スッゲー怒られて出禁になるか、「やべー!超いいじゃん!」になるかどっちかだと思うんですけど。笑
あとは早くコロナに落ち着いてもらって、またアメリカに行ったり来たりする生活に戻したいですね。
今、またグリーンカード申請してるんですよ。もちろん抽選なんですけど、当たるとイヤでも半年はアメリカに住まなきゃいけなくなるので、当たって欲しい半分、当たったらどうしよう半分って感じで毎年応募してます。笑
もしほんとに当たっちゃったら、また人生の急展開があるかもしれないっすね。
10年先の事はわからないけど、死んでなければ多分写真は撮り続けてると思うし、僕はやっぱり基本的にアメリカが好きなので、出来るだけ長く好きなシーンを追いかけて撮っていたいですね。
Kouichi Nakazawa
写真家 / アーティスト
1973年 東京生まれ
2002年、M.S PARK氏のアシスタントを経て独立。
Fashion,Music,エディトリアル、ポートレイト、 国内外のMusic Fest やParty Snapなど、特にカルチャーシーンの撮影を得意とする。
現在、日本とアメリカを行き来するワークスタイルでWEB,紙媒体、広告等で幅広く活躍中。
WEB
https://www.koichicks.com/
IG
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Interview / Text / Photo
by YOSHIWO NISHIIMURA
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