5月の風
遠出をした帰り道、最寄り駅の改札を出ると風が吹いていた。ああ、5月の風だと思った。
この季節は、風に吹かれているだけで満ち足りた気持ちになる。折角だからバスに乗るのを止めて歩いて家まで帰ろうとする。淡い夕陽を浴びながら、「風、気持ちいい~」などと一人でテンションが上がっている。飛行機雲も見える。
幸福感なんて大層な言葉は似合わないけれど、静かな時間が流れる。それはセロトニンの仕業だなんて、脳内物質の話になる。この気持ちをずっと持ち続けることができたのなら、穏やかにいられるだろうと思う。
穏やかな時間が流れているとき、どこか怖いと思っている自分がいると思う。本当にこの時間が続くの? 続いていいの? 何でだろうね。それにずっと続くのはそれはそれで怖いよ。ずっとこの風に吹かれていれば、満足できるほど出来た人間ではない。
そういえば去年もこんなことを思っていたなと思い出した。そして、過去から未来へ考えが移る。来年もまたこの季節がやってくるのだろうと。
歩道橋の上に差し掛かる。遠くの山々が霞んで見えている。この場所からは、天気が良い日だと夕陽が沈む頃にとても綺麗な景色が見える。初めて見たときは思わずスマホを取り出した。近くに本格的なカメラで写真を撮っている人がいて、「やっぱ良いよな」なんて思ったりしたのを覚えている。
その時、ふとあの山々に行ってみたいと思った。どうやって行くんだよ。車がねえし、運転もできねえ。
こうして書いていると、思い切って今年の目標にしようか、なんて背伸びをしそうになる。それは良いことなのかもしれないけれど。目標を立てると、それをやらなくちゃいけなくなるので、最後まで保険適用な文章で終わりとする。
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