大事なのは顔だけかね?
母がブツブツと何かしら呟いています。
『み~んな、シミができるからって肌には日焼け止めクリーム塗ったり何やらかんやらするのに、お洋服のことはあまり気にせん!』
母の店で取り扱う服は、ミセスのいわゆるよそ行き、少し高級感を出したい婦人服、ではあるのですが、仕入れる際にその取扱い方も意識しているようです。
できれば、自宅で洗濯できる素材のモノの方が綺麗に洗える。みんなすぐ、クリーニングに出すけどね、と。
そういえば、商店街のお隣の天ぷら屋のご夫婦の事も、いつも感心していた。
いつでも大将の白衣が、奥さんのエプロンが、娘のTシャツまでもがピシャーっとしとう、と。
そう、母がいつもお客様に伝えていたのは、お洗濯の仕方。洗濯の仕方なんて、誰もが知ってはいるんだが・・
洗濯ものは陰干ししないと焼けますよ
洗濯ものは裏返しにして干してくださいね、日差しは案外強く色味の強いものは変色していきますからね
針金のハンガーはお洋服が伸びるので気をつけて下さいね
なんなら、ウチのハンガーをあげるから持って帰ってね
そんな母の店には、もう外出用のお洋服は必要なくてもまだ顔を出して下さるお客様ばかりです。
店主の顔を見ながらお茶を飲んでは、ご自宅で作った佃煮や漬物、炊き込みご飯やおかず、茶菓子を手土産に訪問してくれています。
断捨離という概念を持たない世代のお客様は、大昔に購入した服を持ってきては、どうにか今でも着れる方法はないか、と尋ねていかれます。
一人ひとりのお客様に向き合い、持ち寄ったお洋服の再利用方法を一緒に考え、ご近所のクリニックの評判を調べ、新聞記事の健康法をシェアしながら、今日も誰かがお散歩の途中に、母の生存確認をする、そんな憩いの場と化しています。
お洋服は焼けないようにね
あなたのお顔と同じように大切に扱ってね
昨今、ワンシーズン着たら十分元を取れる低価格帯のお洋服も増え、お洋服の消耗品化は加速しているように思います。もし、ご自身にとって、大切な一着があるようでしたら、丁寧に取り扱ってあげてくださいね、あなたのお顔と同じように。
今日あなたの街は、お洗濯日和ですか?