母の姿を君に

感動的な忘れられない飲み会があります。

私が一番働き盛りの頃、【飴とムチ】、エイヒレとイモ焼酎とカラオケでいつも私を叱咤激励してくれていた豪快な支店長。

落ち込む顔を見ると、『よし、行くか』、クライアントからクレームが入ると、『今日はそれぐらいにしとくか』、いつも絶妙なため息のタイミングを見逃さず、ここぞという時だけ、鬼の形相が酒好きの顔に変わる。

いつも誘い出してくれていた支店長。

そんな支店長が、東京の本社から鍵を一つ渡され、『じゃぁ、頼んだよ』とこの支店を任された。独りぼっちで始めたこの支店も、今では従業員20名ほどの所帯に。営業先から戻ると、いつも背中には塩を吹くほどに身を粉にして、この支店を盛り上げてくれていた。

『え、いいんですか?』

大きなクライアントの仕事を不可抗力にて失うかもしれないという夜、『今日はコレがないとやってられない』と、コンビニから缶ビールを買ってきて、半分灯りが消えた事務所で、明日からの対策を必死で考えたあの日。

『また明日から一緒に巻き返していこう』真っ暗闇などん底の気分を、何とか明日への気力へと変える事ができた、アルミ缶の乾杯。

そんな支店長が、ある日、突然逝った。
46歳の若さだった。

頭が真っ白になった。あんなエネルギーに溢れる人が逝ってしまうはずはない!何かの間違いに違いない!絶対ありえない!いやいや、マジでありえない!

支店長の豪快な笑い声がオフィスに広がる。支店長の凍り付くような睨みが、未だに背中に刺さっているのに!

お葬式を終えた父の横で、丸坊主に学ラン姿の高校生の表情は、どことなく大物顧客を前に商談をする、静かで自信に満ちたあの支店長ー母の姿と重なった。

13回忌のある日、支店長が時々見せていた表情と同じ、穏やかな笑顔で君が私たちの前に姿を現した。

13年間、何度となく君の事を思い出していたよ。

13年間、何度もなんども、君のお母さんの言葉を胸に今まで踏ん張ってきたんだよ。

もう十分に大人になった君だからこそ、今こそ伝えたい君の母の姿がある。集まった当時の同僚たちは、グラスを片手に、豪快な敏腕支店長の武勇伝を、誰からともなく交互に話し始めた。話しても、話しても尽きない、強烈な君の母の姿を。

お腹がよじれるほど笑い、笑いすぎて涙が止まらない。会社の支店長のエピソードなのに、ここまで笑い転げていいものだろうか。

君のお母さんは、豪快だった!大バカ者だった!そして、誰よりも強くて偉大だった!

君のお母さんも、いまきっとこの瞬間ここにいる。君の横で、大笑いしながらジョッキを片手に笑っている。誰かが持ってきた満面の笑みの支店長の写真を囲んで、またみんなで泣き笑いした。

あのお母さんのDNAを受け継ぐ君のことだから、絶対大丈夫。

きっと、またいつか一緒に乾杯しようね。私たちみんなが、君のお母さんのように、君の成長を見守り続けるからね。

もし結婚したい子が現れたら、私たちにも紹介してね。行き詰まる事があったら、いつでもまた一杯やろう。

支店長、あなたの息子さんは、こんなにも立派な青年に育ちましたよ。ぜひまた、今度は息子さんも一緒に、世代別【天城越え】カラオケ大会をしましょう。

君の母は、今でも心の中で私たちを叱咤激励してくれています。『軽く一杯いくか?』と肩で風を切りながら、パンパンに膨らんだ鞄と共に一歩前を歩いています。支店長、私たちに強さと優しさを教えてくれてありがとう!


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