余白に呼吸する
午後の電車は平和だ。眠りの溶け込んだような柔らかな空気に、学校終わりの女子学生の屈託のない笑顔。書籍の文字を追うひと。音楽を聴くひと。どこか遠い目をして車窓を眺める、ここにあらず、な瞳が許されている、そんな気がしてしまうのだ。日常を照らす落ちかけた陽光も建物の外壁を染め上げて、その反射は強くもあるが、朝の光とはまた異なる、僅かな寂寥と儚さとを含有して空を街をひとを包んでいる。これは、他者との程よい距離の生む余白、なのだろうか。取り留めもなくそんなことを考えているうちに、電車は終着駅に滑り込んだ。要人の来日に沸く連日ではあったが、吐き出された渋谷の街も今はまだ余白を持っていて仄かに気怠い。都心の緩やかな雑踏の中、今のうちに、と息継ぎをする。こうして日々を、繋いでいくのだ。